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4モフモフと悪魔と朝ごはん

4- 5.モフモフと悪魔と朝ごはん

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ヨルと呼ぶことにした悪魔の格好が問題だった。このまま王城の門扉を一緒に通過することが出来るほど、俺の心臓は強くない。
ある意味、別の城の王であっておかしくない格好とも言えるだろう。
後々面倒なことにならないよう、面通しはしておいた方がいいが、さてどうするか。
悩んでいたところに、スミスとナタリーが黒い服をカツいでやって来た。
広げてみると、黒い司書服だった。

「初めて見る色だ」
モバイルのカラーリングの様な表現で言うならば、レベル3と4は同じプラチナブルーのデザイン違い、レベル5と6は同じクラシカルボルドーのデザイン違い、レベル7のみがミッドナイトグリーン。
むしろ分かりにくくなったか、要は青味がかった白銀色と、暗い紫がかった赤、それと暗い深緑と言うところだ。
レベル3未満はそもそも司書にはなれないため、この三色が司書服の色だ。
ともかく司書服なら、王城を訪ねても問題ないだろう。

「これに着替えたら、直ぐに出るぞ」とヨルに服を渡す。
司書服は、ヨル用にアツラえたようにぴったりだった。

イグドラシルの外門の前で、王宮からの迎えの馬車に乗り、イグドラム宮殿へと向かう。
正門から入り、王の居城へと向かう途中にある、王に近しい立場の者との会合の際に使用する部屋に通され、王の来訪を待つ。
やがて護衛の騎士を伴って王がやって来た。

「第一司書よ、このような形で許せ」
「お気遣いは不要にございます。御身の安全が第一ですので」
騎士を出入口に立たせ、王が白く曇りのないテーブルの上座に着くと、王に近い順にソゴゥ、ヨルと並んで腰を下ろした。
「では時間もない早速、喫緊キッキンの課題について話そう。まずは、今朝報告を受けてすぐに、ティフォン・トーラスについて調べさせた結果、王都内のトーラスの屋敷に、ティフォンが不在であることが確認された。残されていた使用人によると、昨夜のうちに領地に帰ったという。事実確認のためにトーラス本家へ問い合わせると、ティフォンの帰省は予定になく、また本人からの連絡もないと言う。それから、昨夜遅くに隣国のウィドラへの国境を超えた団体がある。トーラス家の関連商業団体だ。通行許可証は通常に取得されたもので、登録人数などに問題がないため通行が許可されている。ここまでで、意見はあるか?」
「ティフォン・トーラスは国境を越えたと考えます。トーラス家の十二貴族が所有する、トーラス家貴族書のうち、ティフォンが管理する、『大風の書』が国外に持ち出された可能性があります」
「余もそう考える。ティフォン・トーラスの特殊能力は、記憶の保管。見たものをそのまま記憶することが出来るが、その記憶を脳に完全な状態で留めておけるのは、100時間だそうだが、イグドラシルから奪おうとした第五指定図書の内容を別の媒体バイタイに書き写すことが出来ない以上、第五指定図書の内容と『大風の書』を使って、何か事を起こそうとした場合、この100時間内に行われる可能性が高い」
イグドラム指定図書は転写が出来ないなど、三重のセキュリティが掛かっている。
「貴族書が国外に持ち出された場合、その権利は、十二貴族からイグドラシルへ移行します。これは、イグドラシル第一司書である私の案件のようです」
「ティフォン・トーラスの逮捕タイホ拘束コウソクは王命で刑事部と軍部に要請する。貴族書の回収は貴殿に任せる。大量の人員を国外に送り出すのには時間がかかる。騎士数名を貴殿に付けるので、別働隊として事に当たってほしい」
「かしこまりました」
「では、直ぐにここへ適任の騎士を呼ぶ。この場を使って作戦を立てるがよい」と言って、王が目を閉じる。
やがて、見慣れたラベンダーアメジストの瞳と、白髪のイセトゥアンの顔に戻る。

「王からの要件は以上だ。久しぶりだな、ソゴゥ。どうだ、俺の影武者ぶりは」
「影武者って言うか、口寄せ? 降霊術? 真似しているのは見た目だけで、実際にシャベっているのは王本人だから、似ているも何もないだろ」
イセトゥアンは変身の特殊能力を買われ、王族の影武者を務めたりするが、今日の会議にイセトゥアンを立ち会わせたのはソゴゥの要望でもあった。
流石に得体の知れない悪魔を連れて、王に会うわけにはいかないと、先の手紙で伝えていたのだ。

「そいつが、召喚した悪魔か」
イセトゥアンが、ソゴゥの横いるヨルに視線を向ける。
「ヨルと呼んでいる。ヨル、これは俺の兄のイセトゥアンだ、王宮騎士をしている」
「ヨルとやらよ、これはお前の採用試験でもある。今回の件で、ソゴゥのサポートが上手く出来たなら、ソゴゥの護衛の任を許可すると王は仰っていた。俺から言わせれば、第一はソゴゥの命を守ること、怪我をさせない事、ソゴゥの言うことを聞くこと、それからついでに貴族書を取り戻す手助けをするんだ」
「おい、ついでが一番重要なんだけど」
「我はマスターの命を守るための存在。言われずとも、当然のことである」
「だから、マスターって呼ぶなって言っているだろ、こういった場では館長と言うように」
「承知した」
イセトゥアンに伴って来ていた、護衛役の騎士が、謁見室のドアを開けて、二人の上級宮廷騎士を招き入れた。
一人は砂色の髪を、エルフの騎士がよくやる編み込みにした短髪で、体格がよく、アイスブルーの目つきが鋭い男。もう一人も金髪を同じ編み込みにした短髪で、鮮やかなブルーの瞳には不安と緊張が伺えた。
「王宮騎士団、特務隊第一班、ブロン・サジタリアスです」
「同じく、王宮騎士団、特務隊第一班所属、ヴィント・トーラスです」
「トーラス家の者ですか、この任務がどういうものか理解しているのですね?」とソゴゥがヴィントに尋ねる。
「トーラス家のハジソソぐために、全力で任務にあたる所存です」
「ティフォン・トーラスを抹殺マッサツしますが、いかがか?」
「は?」
「ティフォン・トーラスの抹殺を想定していなかった、もしくは、殺すことが出来ないと言うのならこの任務は降りたほうが賢明です、どうですか?」
「ティフォン・トーラスは国家の敵、我がトーラス家の敵、私の敵です。貴族書を取り戻すための弊害ヘイガイとなるならば、ティフォン・トーラスを倒してみせます」
「交代する気はないという事ですね?」
「はっ! 私をお使いください」
ソゴゥは「では、よろしく頼みます」と二人の騎士に言い、イセトゥアンに目を向けた。
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