上 下
19 / 46
3 図書館暮し始めました

3- 5.図書館暮し始めました

しおりを挟む
隣の部屋に案内され、ビロードが敷かれたテーブルの上に恭しくカギが置かれている。

「それは、レベル5以上の者が持つことが出来るカギです。先ほどの場所にはレベル4までのカギを用意しておりました。それは、このイグドラシルの一般公開されている第四階層までの書庫へ立ち入ることが許可された証です。そして、このレベル5以上のカギは、持つ者により形や大きさを変え、立ち入ることのできる階層と書庫の上限を示します」
「では、このカギが何も変わらないままなら、このまま園に帰ってよいということですね」
「ここにいる我々イグドラシルの司書は皆、非常に興奮しているのです。先程の検査結果が誤りだったことは、今までただの一度もありません。それに、イグドラシルに仕えるということは非常に名誉なことなのです。この国だけでなく、世界中に影響を及ぼし、誰もが手を伸ばして欲する知へと触れることが出来るのです」
「そうですが、この子はまだ小さくやんちゃ坊主です。それに、園にはこの子の家族がいます。急に戻らなくなったら、皆ひどく悲しみます。園の絆は強いのです。戻せないと言われて『はいそうですか』とは行きません」
「しかし、万が一本当にレベル7だった場合は、もはや国家の最重要人物となり、王宮か、イグドラシルレベルのセキュリティがある場所で過ごさないと、大変危険なのです。オスティオス園長のいる高貴なる子らの園のセキュリティが高いことは承知していますが、レベル7がそこにいると知られた瞬間、その危険は園全体に及びます。レベル5以上が三年間イグドラシルから出ることが出来ないのは、その三年間で、自分の身を自分で守れるようになるための修行の時間でもあるのです」
「先生、私たちもソゴゥのために司書になるから、そうしたら、ソゴゥも寂しくないでしょ」
「そうよ、先生。ソゴゥのために、私たちも司書になるわ」
先ほどの部屋で待つように言われていた、ビオラとローズが口を出してくる。
「お前たち、食うに困らないから司書になりたいって、さっき言っていたよね」
「ちょっとソゴゥ、偉い人の前で、そんなこと言わないでよ」
「もう、グズグズしてないで、はい」とローズが、カギをやにわに掴んでソゴゥに渡した。
手にしたカギは蔓植物のように青白い光を伸ばしながら膨れ上がり、長く成長して、枝葉をつけるように形状を変えながら、ソゴゥの背丈ほど伸びた先に花のような造形を作って、光が引いていった。魔法少女が持つステッキのようにも見える。
なんかファンシーでカッコよくないと、ソゴゥはポイっと放る。
だが、カギはくるりと立ち上がり、宙に浮いて、ソゴゥの前に静止している。
おお、救世主よと言わんばかりに、カギの前に手を組んで跪く司書達。
その横で「可愛い~」「綺麗!」とはしゃぐ少女たち。
やっちゃったんじゃないの? っといった目で見てくる先生。
ソゴゥは両手を上げ、首を振る。
恐らくは「俺、知らない」だ。
衆人環視のもと、やっていないは通らないが。

「レベル7だ、間違いない」
「こんな成長したカギは見たことがない」
「通常は、どんなものなのですか?」と先生が、落ち着きを取り戻してきた司書に尋ねる。
「レベル5でせいぜい、背中が掻ける程度です」
その例えでいいのか? 約二名、そう思ったが、口には出さなかった。

「ソゴゥがレベル7ですか、しかし、今日くらいは園にもどり、明日出直すというのでは駄目でしょうか?」
「それはできません。これから王へ報告し、各省庁に通達が行き渡ります。この瞬間、私は消え、公人となるのです」
「でも、僕の服とか、荷物とかはどうするんですか?」
「服や生活に必要な物は全て、こちらでご用意させていただきます」
「え、でも、僕グン〇のパンツでないと履かないけど、グンパン用意してくれるの?」 
「私は、ワ○ールのアン〇ィ! ワ○ールのレースは世界の至宝!」
「ローズちゃん、今下着のオーダー聞いているわけじゃないから」
「ああ、どうしよう、ソゴゥ」
「先生、僕・・・・・・・」
司書なんて嫌だ。
冒険者になりたい、園を出たらいろんな場所に行ってみたいって、ずっと思っていたのに・・・・・・・。
泣きそうになった。いや、本当に泣きたい。
司書ってなんだよ、すげえ地味じゃん、それに、もうヨドゥバシー達にも会えないじゃん。

「僕は、大丈夫です。園長先生や他の先生方、園の皆、食堂の料理人さんたち、庭師さんたち、寮の管理人さん、皆にさようならとお伝えください。とても感謝していますと」
先生が泣き出した。俺は泣かないって決めているのに・・・・・・・。
ギュっとしてくる先生と、先生にギュっとしているビオラとローズ。そこは、俺にギュっとするところじゃないの?

オスティオス園長に報告して、園長先生が身元引受人の移譲手続きにやって来るらしい。
ヨドゥバシーも連れてきてくれたらいいけどと思っていたら、ヨドゥバシーも来た。
「バカ! ソゴゥのバカ! なんで司書なんだよ、そんな予感はしていたけど! 俺たち兄弟がみんなレベル4だったから、もしかしたら、ソゴゥはレベル5になっちゃうんじゃないかって! レベル7ってなんだよ! もう駄目じゃん、もう一生イグドラシルマンじゃん!!」
「なんだよ、イグドラシルマンって! なあ、だったらヨドも司書になったら?」
「それは駄目だ。ソゴゥの部下にはならない、対等でいたいから」
「そっか、甘えん坊のヨドにそんな決意があってほっとしたよ」
「甘えん坊ってなんだよ」
「俺、さっき先生に、やんちゃ坊主って言われた」
「それは合っているよ、その通りだよ」
会話全て、ヨドゥバシーは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、ほぼ濁音で話している。
「ヨド、俺、冒険者になりたかったんだ。でも、ヨドは図体だけでかくて弱っちいから、冒険者には誘わないつもりでいた・・・・・・・ヨドはなんにでもなれるんだ、幸せにな。離れていても、俺たちは兄弟だ」
「クッ」
ヨドゥバシーの後ろでオスティオス園長が目頭を押さえている。
両手両足でしがみ付いてくるヨドゥバシーを、園長先生が本気で引き剝がし、何とか帰路に就いた二人を、エントランスホールから見送る。

ああ、行ってしまった。
寄る辺ない気持ちが押し寄せる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...