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3 図書館暮し始めました
3- 4.図書館暮し始めました
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ソゴゥは、エルフの寿命の長さを失念していた。
他の兄弟たちが、一切この話をしなかったということは、おそらくは皆レベル1にすら満たず、口にすることが憚られたのだろう。
ノディマー家からはエリートは排出されずか、やれやれ。
列の最後尾に加わり、会場の親御さんや先生たちの声援や、歓声、悲嘆を聞きながら、前方で行われていることを見ようと、少しジャンプをして確認するソゴゥ。
会場で我が(園の)子のその様子をみて、頭を抱える教師。
ビオラ、ローズ、ソゴゥは園でも特に優秀な子供たちだが、その個性はかなり強く、特にソゴゥは何を仕出かすかわからない。破天荒とも言わざるを得ない性格をしている。
今回も、オスティオス園長に彼らの司書適性の同行を任された際も、とにかく無事故、安全第一で、何事もなく園へ送り届けるまで気が抜けない思いでいた。
何か壊したりしないでくださいよ、弁償できないので。
組んだ手に汗が滲む。ソゴゥに貸していたハンカチを握りしめ、三人の様子を見守る。
だいぶ人が捌けて、やっと何をしているのかが見え、ソゴゥは首を傾げた。
何をしているのかは分かるが、何をどう見ればいいのか分からない。
「では次、こちらに両手をのせてください」
子供が呼ばれ、壁側を向いて、30㎝四方、高さ150㎝ほどの、白い床と一体となった四角い物に手をのせるが、特に何も起きず悲嘆の声が上がる。
やがて、張り切って列に並んでいたローズの番になる。
「では、次」と呼ばれ、ローズはスカートの裾を掴んで一礼をする。
「アホかあいつは」
「うちの子可愛い」と、ソゴゥと教師。
ローズが両手をのせたとき、ソゴゥは初めてそれを目撃した。
手をのせた白い台から、床を伝って、青白い光が目の前の壁へ、そしてイグドラシルを象った溝に流れていき、薄ぼんやりしていたイグドラシルの下方の一部を、ハッキリと光で浮き上がらせた。
「レベル3ですね」と司書から小さなカギを渡されるローズ。
なるほど。なんとなくソゴゥは基準を理解した。
次のビオラはもっと光が進んでレベル4となった。
どこからか「さすが高貴園の子供だ」と声が聞こえた。
ちょっと待って、この流れで俺があの壁まで光が届かなかったら、俺悲惨じゃない?
ていうか「高貴園」って訳され方初めて聞いた。
マジか、この空気できっと兄達はやらかしたんだな・・・・・・・それで、誰もこのことを話さなかったんだ・・・・・・・。
ソゴゥはブルルっと震え、両腕を摩った。
面の皮が厚いことに定評のあるソゴゥだが、実は見栄っ張りで恥ずかしがり屋でもある。自分の失敗だけでなく、共感性羞恥心を発揮して、他人の甘酸っぱいシーンを目撃して身悶えたりもする。
ガクブルで自分の番を待つ間、何かとてもつもない事が起きて延期になって、その後、うやむやになればいいなどと考えていた。
「では、最後ですね、どうぞこちらへ」
ソゴゥは一応、後ろを確認する。誰もいなかった。
自分の番が終わった奴らは、速やかに帰れやい!
正直、一番最後が一番目立つ。何故なら、終わった子らがみんな席について、段の上の子供はソゴゥ一人だけだからだ。
ここで出ていくついでに、ベタにコケたりはしない。クールに出ていき「え? 今何かあった?」と誰の記憶にも残らない結果と存在感で、スマートに去っていくのが上策だ。
ソゴゥは不自然ではない程度に早足で台の前に立ち、ほぼ同時に両手を着いた。
だが、光は手を着いたと同時に壁を巡り、イグドラシルの全貌が青白く光り輝いた。
驚いたソゴゥが手を放すが、光はそこへ留まり、エメラルドグリーンの光へと変わって宝石のように照り輝き、イグドラシルが甦り、葉をつけ、風に枝葉が揺れているように見えた。
あれ、壊した?
ソゴゥがオロオロと振り返って会場の教師を見ると、教師も「え? 壊した?」とオロオロとしていた。
二人とも同じポーズで頭を抱えている。
「レベル7だ」と司書がポツリと言った。
レベル7はこのイグドラシルの適性でMAX値であり、その存在はイグドラシルが生きていた頃からの歴史上、イグドラシルの巫覡として最初に仕えた初代だけである。
ボルドーの制服を着たレベル5の司書達が、大変なことが起きたとざわつく中「壊したわけじゃないのか」と安堵する二人。
半ば連行されるように連れていかれるソゴゥに「え、どこに連れて行くんですか? うちの子、それ壊してないですよね?」と追い縋る教師と、付いてくるビオラとローズ。
「貴方が保護者ですね、ちょうどいい、付いて来てください」
「先生・・・・・・・」
病院に連れて行かれる猫の様な悲壮感を漂わせ、観念したように引き摺られるソゴゥを、興奮気味に突き倒す少女たち。
会場には、レベル3から4の司書が残り、適正結果とその後のイグドラシルに携わることを希望する者への説明を他の子供たちと保護者に始めている。
高貴園一行は、会場を出て来賓室のような場所へと連れてこられた。
フカフカのソファーに喜ぶ少女たち、青い顔をして校長室に呼ばれた親子の様な、少年とその先生。
「まずは、先ほどの結果ですが、レベル7と出ました。これは前代未聞のことなので、まだはっきりと確定とはなりませんが、レベル5以上はその重要性から、もう一つ別の検査を受けていただくことになります。その結果をもって、レベル5以上となった場合、その瞬間からこのイグドラシルを出ることが出来なくなります」
「はあ?」
「どういうことですか!」
子と保護者が異議を申し立てる。
「正確には、三年間はということです。それ以降は王族の許可があれば、首都セイヴを出ることが出来、王の許可があれば国外に出ることが可能です」
「では、もし、この子がそのレベル5以上だった場合、イグドラシルの中で暮らすということでしょうか?」
「そうなります」
「先生、大丈夫です。あれ、たぶん壊れてた」
「いや、それはそれで困る。先生の給料では弁償できる気がしない」
部屋がノックされ、シルバーブルーの司書が「準備が出来ました」と呼びに来た。
他の兄弟たちが、一切この話をしなかったということは、おそらくは皆レベル1にすら満たず、口にすることが憚られたのだろう。
ノディマー家からはエリートは排出されずか、やれやれ。
列の最後尾に加わり、会場の親御さんや先生たちの声援や、歓声、悲嘆を聞きながら、前方で行われていることを見ようと、少しジャンプをして確認するソゴゥ。
会場で我が(園の)子のその様子をみて、頭を抱える教師。
ビオラ、ローズ、ソゴゥは園でも特に優秀な子供たちだが、その個性はかなり強く、特にソゴゥは何を仕出かすかわからない。破天荒とも言わざるを得ない性格をしている。
今回も、オスティオス園長に彼らの司書適性の同行を任された際も、とにかく無事故、安全第一で、何事もなく園へ送り届けるまで気が抜けない思いでいた。
何か壊したりしないでくださいよ、弁償できないので。
組んだ手に汗が滲む。ソゴゥに貸していたハンカチを握りしめ、三人の様子を見守る。
だいぶ人が捌けて、やっと何をしているのかが見え、ソゴゥは首を傾げた。
何をしているのかは分かるが、何をどう見ればいいのか分からない。
「では次、こちらに両手をのせてください」
子供が呼ばれ、壁側を向いて、30㎝四方、高さ150㎝ほどの、白い床と一体となった四角い物に手をのせるが、特に何も起きず悲嘆の声が上がる。
やがて、張り切って列に並んでいたローズの番になる。
「では、次」と呼ばれ、ローズはスカートの裾を掴んで一礼をする。
「アホかあいつは」
「うちの子可愛い」と、ソゴゥと教師。
ローズが両手をのせたとき、ソゴゥは初めてそれを目撃した。
手をのせた白い台から、床を伝って、青白い光が目の前の壁へ、そしてイグドラシルを象った溝に流れていき、薄ぼんやりしていたイグドラシルの下方の一部を、ハッキリと光で浮き上がらせた。
「レベル3ですね」と司書から小さなカギを渡されるローズ。
なるほど。なんとなくソゴゥは基準を理解した。
次のビオラはもっと光が進んでレベル4となった。
どこからか「さすが高貴園の子供だ」と声が聞こえた。
ちょっと待って、この流れで俺があの壁まで光が届かなかったら、俺悲惨じゃない?
ていうか「高貴園」って訳され方初めて聞いた。
マジか、この空気できっと兄達はやらかしたんだな・・・・・・・それで、誰もこのことを話さなかったんだ・・・・・・・。
ソゴゥはブルルっと震え、両腕を摩った。
面の皮が厚いことに定評のあるソゴゥだが、実は見栄っ張りで恥ずかしがり屋でもある。自分の失敗だけでなく、共感性羞恥心を発揮して、他人の甘酸っぱいシーンを目撃して身悶えたりもする。
ガクブルで自分の番を待つ間、何かとてもつもない事が起きて延期になって、その後、うやむやになればいいなどと考えていた。
「では、最後ですね、どうぞこちらへ」
ソゴゥは一応、後ろを確認する。誰もいなかった。
自分の番が終わった奴らは、速やかに帰れやい!
正直、一番最後が一番目立つ。何故なら、終わった子らがみんな席について、段の上の子供はソゴゥ一人だけだからだ。
ここで出ていくついでに、ベタにコケたりはしない。クールに出ていき「え? 今何かあった?」と誰の記憶にも残らない結果と存在感で、スマートに去っていくのが上策だ。
ソゴゥは不自然ではない程度に早足で台の前に立ち、ほぼ同時に両手を着いた。
だが、光は手を着いたと同時に壁を巡り、イグドラシルの全貌が青白く光り輝いた。
驚いたソゴゥが手を放すが、光はそこへ留まり、エメラルドグリーンの光へと変わって宝石のように照り輝き、イグドラシルが甦り、葉をつけ、風に枝葉が揺れているように見えた。
あれ、壊した?
ソゴゥがオロオロと振り返って会場の教師を見ると、教師も「え? 壊した?」とオロオロとしていた。
二人とも同じポーズで頭を抱えている。
「レベル7だ」と司書がポツリと言った。
レベル7はこのイグドラシルの適性でMAX値であり、その存在はイグドラシルが生きていた頃からの歴史上、イグドラシルの巫覡として最初に仕えた初代だけである。
ボルドーの制服を着たレベル5の司書達が、大変なことが起きたとざわつく中「壊したわけじゃないのか」と安堵する二人。
半ば連行されるように連れていかれるソゴゥに「え、どこに連れて行くんですか? うちの子、それ壊してないですよね?」と追い縋る教師と、付いてくるビオラとローズ。
「貴方が保護者ですね、ちょうどいい、付いて来てください」
「先生・・・・・・・」
病院に連れて行かれる猫の様な悲壮感を漂わせ、観念したように引き摺られるソゴゥを、興奮気味に突き倒す少女たち。
会場には、レベル3から4の司書が残り、適正結果とその後のイグドラシルに携わることを希望する者への説明を他の子供たちと保護者に始めている。
高貴園一行は、会場を出て来賓室のような場所へと連れてこられた。
フカフカのソファーに喜ぶ少女たち、青い顔をして校長室に呼ばれた親子の様な、少年とその先生。
「まずは、先ほどの結果ですが、レベル7と出ました。これは前代未聞のことなので、まだはっきりと確定とはなりませんが、レベル5以上はその重要性から、もう一つ別の検査を受けていただくことになります。その結果をもって、レベル5以上となった場合、その瞬間からこのイグドラシルを出ることが出来なくなります」
「はあ?」
「どういうことですか!」
子と保護者が異議を申し立てる。
「正確には、三年間はということです。それ以降は王族の許可があれば、首都セイヴを出ることが出来、王の許可があれば国外に出ることが可能です」
「では、もし、この子がそのレベル5以上だった場合、イグドラシルの中で暮らすということでしょうか?」
「そうなります」
「先生、大丈夫です。あれ、たぶん壊れてた」
「いや、それはそれで困る。先生の給料では弁償できる気がしない」
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