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3 図書館暮し始めました
3- 3.図書館暮し始めました
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少女たちの目は、司書たちに釘付けだ。
彼らは、王宮官職の上層に位置する者よりもエリート集団とされ、文武魔術とあらゆる面での最高峰の実力を備えているとされている。また、彼らは司書であるとともに、この世界の重要な聖骸を守ることも義務付けられているからだ。
「素敵だわ、私、司書様になりたい」
「私も!」
俺は嫌だなと、ソゴゥは口に出さず思う。
「ずっと、ここに閉じ込められて、窮屈だと思わないのか?」
「司書になったら、一生食べるのに困らないじゃない、素敵!」
「ね~、チョーいいよね!」
「意外に現実的な理由だった・・・・・・・制服が格好いいとか、エリートとかに憧れて言っているのかと思ったのに」
「ソゴゥ、もっとしっかりしないと! 食べていくためには、ちゃんとした職業につかないと! 憧れとか言っちゃってないで」
「園の中で甘やかされてばかりいるから~、もっと、地に足をつけて、将来を考えないと」
「そんな格好しているお前らに言われてもな」と呟くも、同じ身長の二人にはすぐに拾われて、髪の毛を掴まれそうになる。
「髪はやめろ、男に対しその攻撃は絶対ダメ、責任取ってもらうぞ!」
「何言っているのか分からない」
そうだった、エルフに禿頭はいない。
「ソゴゥって、ちょっと変わっているよね」
「たまに、わけ分からないこと言ってくるしね」
司書と話していた先生が戻ってきて、付いてくるように言うのに従い、エントランスホールを横切り、右側の水の流れた、せせらぎの空間を通る。
この図書館は、出鱈目だ。砂が敷き詰められていたり、川が流れていたり、よくわからない動物もいる。尻尾を掴んだら、めちゃくちゃ悲しそうな顔をされたので、もうしませんと誓う。
一階の公共部分は、動物園や植物園の様な趣だ。
テーマパークのアトラクションか何かだと思えばいいのかも知れない。
建物を奥に進み、二つ目の建物への通路扉の前にいる司書に、先生が声を掛けた。
「『高貴なる子らの園』の子供たちです。この三人が、今月誕生日を迎える者です」
園の子供たちの中には、誕生日の分からない子供もいる。そのため、同じ年の子らは誕生日を同じ日にされる。
「まずは、おめでとうございます。お待ちしておりました」
ソゴゥは保健体育的な、大人な何かを見せられるのではと、ウンザリしつつも若干の期待を持って案内の司書に続く。
後から付いてくる先生に小声で「僕、ハンカチ忘れちゃったので、貸してもらえますか」と、尋ねる。
「いいけど、何かに使うのかい?」
鼻血を心配しているとは言えず「持っていると安心なので」と謎の理由をつける。
通路を通り、二つ目の建物に入ってしばらく行くと、扉の左右に司書がいて「どうぞ」と
扉を開ける。
「皆さん、それに先生も中にお入りください」
案内の司書と共に、扉の中へと入る。
天井が高く、広い空間には自分たちのように、教師に連れられた子供たち、あるいは両親や祖父母を伴ってきた子供たちが点在し、白い椅子に座って思い思いに過ごしている。
そこには貴賤を問わず、ただ十五歳になるという者が集められていた。
椅子のない場所で「お座りください」と司書が言う。
まだ何もしていないのに、ビオラとローズがソゴゥの肩を左右から掴んでくる。まだ、何もしていないのに。
司書が床を踏み鳴らすと、少し後方から椅子が生えてきた。
女子二人は「ふう」と息を吐き、掴んだ手を放す。
先生と自分たちが座ると、司書は「それでは、こちらで失礼します」と壁側に移動していった。
「何が始まるんだろうね?」とソワソワするローズ。
先生はニコニコしているだけで、何も教えてくれない。
ソゴゥはハンカチを膝の上で握りしめ、準備万端だ。
今日、白いシャツ着てこなくてよかった。
「私本で読んだんだけど、むかしある砂漠の国で、王様が占い師のお婆さんに、赤い竜の年の八の月に生まれた子供が次の王様になるって言われて、権力の座に長く就きたかった王様は、その年に生まれた国中の子供たちを、誕生日会を盛大に祝うお祭りをするって、嘘をついて集めて・・・・・・・」
「おい、何て話をするんだ。鳥肌がたっただろ、場所を選べ」
「先生も鳥肌がたちました」
「ビオラちゃんってば・・・・・・・」
「あはは、ごめんなさい」
白い壁と床、それに天井はドーム状で、白と金のステンドグラスのようになってそこから陽光が射している。
正面の壁の前に段があり、壁には倒れる前のイグドラシルの絵がうっすらと彫られている。
微かな陰で分かったが、よく見ないとただの白い壁だ。
やがて、背後の扉から他の司書と違うボルドー色の制服を着た者が数人現れて、段の上に上がった。
誰かが「レベル5の司書様だ」と声を上げた。
より大人な講釈ができる、選ばれし大人なのか。とソゴゥの意識は斜め上に行っていた。
レベル5と呼ばれた司書官の一人が、厳かに声を上げる。
「お集りの十五歳となられる皆様、おめでとうございます。イグドラム国家において、このイグドラシルがどのように重要な場所かはすでにご存知でしょうが、今日はイグドラシルの話と共に、このイグドラシルに仕えることが出来るかどうかの、皆さまの適性を確認させていただくために、お集まりいただきました」
ソゴゥは内心「え?」と思っていた。「話が違う」とも。
「まずは・・・・・・・」と話し始める内容は右から左に抜け、途中で飽きたころ、思い出したように「先生、これ返す」とハンカチを隣の先生に押し付けた。
もはやいつ鼻をほじり出してもおかしくない態度だ。足もプラつかせ始めた。
それに引き換え、二人の女子は目を爛々と輝かせている。
獲物を前にした肉食獣の様だ。腹の横で拳を握っている。
場がざわつき出し、子供たちが段の方に集まっていくのを、ぼんやりと眺めていたソゴゥは「貴方も行くんですよ」と促されて「え? 何しに?」と明らかに話を聞いていない返事をして怒られた。
「とにかく、あの列に加わって、前の人と同じことをすればいいですからね。レベル3以上が司書資格を持ちます。レベル4までは任意、レベル5は強制的に司書にならなくてはなりませんが、レベル5は百年に一人出るか出ないかです」
ソゴゥは壇上の暗赤色の制服の司書たちを見て、百年に一人の逸材が、あんなにうじゃうじゃ集まっていますけど・・・・・・・とは口に出さず、ソゴゥは真面目な顔で頷き、段へと向かった。
彼らは、王宮官職の上層に位置する者よりもエリート集団とされ、文武魔術とあらゆる面での最高峰の実力を備えているとされている。また、彼らは司書であるとともに、この世界の重要な聖骸を守ることも義務付けられているからだ。
「素敵だわ、私、司書様になりたい」
「私も!」
俺は嫌だなと、ソゴゥは口に出さず思う。
「ずっと、ここに閉じ込められて、窮屈だと思わないのか?」
「司書になったら、一生食べるのに困らないじゃない、素敵!」
「ね~、チョーいいよね!」
「意外に現実的な理由だった・・・・・・・制服が格好いいとか、エリートとかに憧れて言っているのかと思ったのに」
「ソゴゥ、もっとしっかりしないと! 食べていくためには、ちゃんとした職業につかないと! 憧れとか言っちゃってないで」
「園の中で甘やかされてばかりいるから~、もっと、地に足をつけて、将来を考えないと」
「そんな格好しているお前らに言われてもな」と呟くも、同じ身長の二人にはすぐに拾われて、髪の毛を掴まれそうになる。
「髪はやめろ、男に対しその攻撃は絶対ダメ、責任取ってもらうぞ!」
「何言っているのか分からない」
そうだった、エルフに禿頭はいない。
「ソゴゥって、ちょっと変わっているよね」
「たまに、わけ分からないこと言ってくるしね」
司書と話していた先生が戻ってきて、付いてくるように言うのに従い、エントランスホールを横切り、右側の水の流れた、せせらぎの空間を通る。
この図書館は、出鱈目だ。砂が敷き詰められていたり、川が流れていたり、よくわからない動物もいる。尻尾を掴んだら、めちゃくちゃ悲しそうな顔をされたので、もうしませんと誓う。
一階の公共部分は、動物園や植物園の様な趣だ。
テーマパークのアトラクションか何かだと思えばいいのかも知れない。
建物を奥に進み、二つ目の建物への通路扉の前にいる司書に、先生が声を掛けた。
「『高貴なる子らの園』の子供たちです。この三人が、今月誕生日を迎える者です」
園の子供たちの中には、誕生日の分からない子供もいる。そのため、同じ年の子らは誕生日を同じ日にされる。
「まずは、おめでとうございます。お待ちしておりました」
ソゴゥは保健体育的な、大人な何かを見せられるのではと、ウンザリしつつも若干の期待を持って案内の司書に続く。
後から付いてくる先生に小声で「僕、ハンカチ忘れちゃったので、貸してもらえますか」と、尋ねる。
「いいけど、何かに使うのかい?」
鼻血を心配しているとは言えず「持っていると安心なので」と謎の理由をつける。
通路を通り、二つ目の建物に入ってしばらく行くと、扉の左右に司書がいて「どうぞ」と
扉を開ける。
「皆さん、それに先生も中にお入りください」
案内の司書と共に、扉の中へと入る。
天井が高く、広い空間には自分たちのように、教師に連れられた子供たち、あるいは両親や祖父母を伴ってきた子供たちが点在し、白い椅子に座って思い思いに過ごしている。
そこには貴賤を問わず、ただ十五歳になるという者が集められていた。
椅子のない場所で「お座りください」と司書が言う。
まだ何もしていないのに、ビオラとローズがソゴゥの肩を左右から掴んでくる。まだ、何もしていないのに。
司書が床を踏み鳴らすと、少し後方から椅子が生えてきた。
女子二人は「ふう」と息を吐き、掴んだ手を放す。
先生と自分たちが座ると、司書は「それでは、こちらで失礼します」と壁側に移動していった。
「何が始まるんだろうね?」とソワソワするローズ。
先生はニコニコしているだけで、何も教えてくれない。
ソゴゥはハンカチを膝の上で握りしめ、準備万端だ。
今日、白いシャツ着てこなくてよかった。
「私本で読んだんだけど、むかしある砂漠の国で、王様が占い師のお婆さんに、赤い竜の年の八の月に生まれた子供が次の王様になるって言われて、権力の座に長く就きたかった王様は、その年に生まれた国中の子供たちを、誕生日会を盛大に祝うお祭りをするって、嘘をついて集めて・・・・・・・」
「おい、何て話をするんだ。鳥肌がたっただろ、場所を選べ」
「先生も鳥肌がたちました」
「ビオラちゃんってば・・・・・・・」
「あはは、ごめんなさい」
白い壁と床、それに天井はドーム状で、白と金のステンドグラスのようになってそこから陽光が射している。
正面の壁の前に段があり、壁には倒れる前のイグドラシルの絵がうっすらと彫られている。
微かな陰で分かったが、よく見ないとただの白い壁だ。
やがて、背後の扉から他の司書と違うボルドー色の制服を着た者が数人現れて、段の上に上がった。
誰かが「レベル5の司書様だ」と声を上げた。
より大人な講釈ができる、選ばれし大人なのか。とソゴゥの意識は斜め上に行っていた。
レベル5と呼ばれた司書官の一人が、厳かに声を上げる。
「お集りの十五歳となられる皆様、おめでとうございます。イグドラム国家において、このイグドラシルがどのように重要な場所かはすでにご存知でしょうが、今日はイグドラシルの話と共に、このイグドラシルに仕えることが出来るかどうかの、皆さまの適性を確認させていただくために、お集まりいただきました」
ソゴゥは内心「え?」と思っていた。「話が違う」とも。
「まずは・・・・・・・」と話し始める内容は右から左に抜け、途中で飽きたころ、思い出したように「先生、これ返す」とハンカチを隣の先生に押し付けた。
もはやいつ鼻をほじり出してもおかしくない態度だ。足もプラつかせ始めた。
それに引き換え、二人の女子は目を爛々と輝かせている。
獲物を前にした肉食獣の様だ。腹の横で拳を握っている。
場がざわつき出し、子供たちが段の方に集まっていくのを、ぼんやりと眺めていたソゴゥは「貴方も行くんですよ」と促されて「え? 何しに?」と明らかに話を聞いていない返事をして怒られた。
「とにかく、あの列に加わって、前の人と同じことをすればいいですからね。レベル3以上が司書資格を持ちます。レベル4までは任意、レベル5は強制的に司書にならなくてはなりませんが、レベル5は百年に一人出るか出ないかです」
ソゴゥは壇上の暗赤色の制服の司書たちを見て、百年に一人の逸材が、あんなにうじゃうじゃ集まっていますけど・・・・・・・とは口に出さず、ソゴゥは真面目な顔で頷き、段へと向かった。
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