上 下
14 / 46
2 エルフの国と生贄の山

2- 11.エルフの国と生贄の山

しおりを挟む
薄暗い洞窟の中、穴の中心あたりの天井付近が眩しく光った。
ソゴゥが編み出したオリジナル魔術の立体映像による、光の球だ。
皆の視線がそちらへと向く。

「何だアレは!」
敵味方の声が聞こえ、ソゴゥは視線をそこへ固定する。
まるで召喚するように、残りの子供たちをそこへ瞬間移動させる。

光りが弾け、中から現れたように、浮遊する翼を持つ者たち。
その中心にあるモノを見て、スパルナ族は歓喜に打ち震え、感嘆の声を上げ、気絶する者まて現れた。

輝く長い髪、桃色を帯びた黄金色コガネイロの肌、腹をベルトのように抑える二本の腕のほかに、四本の腕はそれぞれ蓮の花、牡丹、百合、タイサンボクを持ち、四枚の赤い翼はメラメラと燃え続けている。
額に一つの縦長の目、そのほか四つの目が赤い光彩を光らせ、下半身に金の布を纏っている。そして、その中心のモノに付き従うように、赤く燃える翼を持った青い肌をもつ少女たちが取り囲む。

「おお、我らが神よ」
ひれ伏す者たち、そして啞然として立ち尽くす赤髪の男。
この瞬間に、ヨドゥバシーが特殊部隊によって奪還されていたにも拘らず、スパルナ族たちはそれどころではないと、神を崇め奉っている。
こちら側から見れば、中心のイセトゥアンを有翼人の少女が抱え、もう一人、有翼人の少女が背中側に張り付き、手を四本、翼を四枚に見えるように飛んでいるのが丸わかりなのだが、向こうからは見えないように工夫されている。

「俺、プロデュース」と、ドヤ顔で振り返るソゴゥ。
夜な夜な練習していた、立体映像やプロジェクションマッピングの要領で、このエンタメ空間を生み出している。とはいえ、楽しんでいるのはソゴゥただ一人だったが。

オスティオスもニトゥリーも、イセトゥアンとその他の有翼人が、何らかの方法で神々しく演出されていることは理解しているが、その方法の難解さと、それをやっているのがこの十歳のソゴゥだということに驚愕し、固まっていたのだ。
ソゴゥは、向こう側でスパルナ族が制圧されたのを確認し、イセトゥアンをこちらに呼び戻す。少女たちもやってきて、感謝を伝えるようにソゴゥを取り囲み、涙と鼻水で顔を汚しながらも大はしゃぎだ。

「ちびコーチ見てくれましたか!」
「よくやったなお前たち! 赤毛もよく頑張ってイセ兄を持ち上げた。上出来だ」
「グレナダです私の名前、ちびコーチの名前も教えてください」
「ソゴゥだ」と耳を真っ赤にしてソゴゥが横を向く。相変わらず、ふざけていないとまもに異性と話せないようだ。
「イセ兄よ、それどうなっとるん?」
「イセ兄は、変身出来るんだよ。別人に変身することもできるし、肌の色や、目の色を変えたり、髪の毛や爪の長さを変えられるんだ。俺は、イセ兄が別人になりすまして、女子の追跡から逃れているのを目撃して知ったんだけどね。その後、何ができるか追求しまくって、この魔法のことを吐かせた」
「魔法はともかく、クソじゃ」
「クソよ」と唾棄するように言うニトゥリーとミトゥコッシー。
「いや、まずは褒めてくれよ~」
「それで、ソゴゥ、この有翼人の少女たちは?」
「園長先生、この子たちも俺たちのように、化け物に生贄にされたんだ。お家に帰してあげて!」と急に子供らしい、ウルウルした目で訴えるソゴゥ。
兄弟達からは「わざとらしすぎない?」と言われているが、教師たちには覿面テキメンである。
教師たちはとにかく園の子供には甘い。そして自覚がないのである。

スパルナ族の大人たちは全て拘束され、特殊部隊が有翼人たちの国、ガルトマーン王国の衛兵を呼んできて引き渡した。
駆け付けた衛兵は赤い翼をもつガルーダ族だった。
化け物は一所に留まることはない。いずれ目を覚まし、早めに何処へ行ってくれることをオスティオスは願う。

スパルナ族の男が、自分の娘をあの化け物に捧げて、十年以上が経過していた。一瞬動き出した星蝉は、何故かすぐに休止状態となったという。実は自分の娘が、星蝉を中から眠らせていたのだが、そうとは知らず、カルトの様な洗脳で仲間を集め、魔力の強い子供を拐ってきては投げ入れ続けた。
それが、効果がないと見切りをつけ、もっと魔力の強い者が必要だと、十年前白羽の矢が立ったのが、この兄弟達だった。
そして十年越しの計画により、連れ去りを成功させたのだ。
星蝉の中にいた少女たちは、十年の時の経過に驚いていた。彼女たちは、投げ入れられて、せいぜい数ヶ月くらいに思っていたという。
特殊部隊五人のうち三人と、数人の教師を状況説明のために残し、オスティオスと子供たちは帰国の途に着く。
全てが終わったと安堵の帰路へつかんとする中、約一名だけが、いまだ号泣し続けている。

「恐がっだよう、マジでみんな喰われちゃったがど思っだよう、うあああん」
ソゴゥの腰に取り付いて泣き続けるヨドゥバシー。
「うぜえ、離れろ」
「だって、だって、うあああん」
「こいつ、人の服で鼻水拭いてる・・・・・・・」
オスティオスは年相応の反応を見せるヨドゥバシーに、ほっこりした気持ちになる。
ソゴゥに至っては、中に成人男性が入っているんじゃないかとさえ疑っていた。
肝が据わりすぎている。
「ヨドよ、お前が有翼人に捕まって、震えながら兄弟を心配している間、イセ兄はのう、有翼人の女子にひとり囲まれて、ハーレムをご満悦よ」
「マジで?」
「おう、マジでじゃ」
「勇者様って言われて、ご満悦だった」
「いやいやいや、ちがうって、そんなことないって」
光速で首を振るイセトゥアン。
ヨドゥバシーはイセトゥアンを冷めた目で一瞥したのち「俺、今日ソゴゥと寝る~」と甘えだした。
「ソゴゥ、マジ無敵」
「それな」
「よせよ~、もっと褒めろ、お願いします」
ふんぞり返るソゴゥを、ヒョイと持ち上げ、ペル・マムは自分の飛行竜に乗せる。
「さあ、そろそろ帰りましょう」
「母さん、じゃなかった、先生・・・・・・・」
「うふふ、皆が無事で本当に良かったわ」
一行は飛行竜に乗ってガルトマーン王国の火山群を飛び立った
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11) <内容紹介> ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。 しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。 このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう! 「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。 しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。 意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。 だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。 さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。 しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。 そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。 一年以上かかりましたがようやく完結しました。 また番外編を書きたいと思ってます。 カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...