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2 エルフの国と生贄の山

2- 10.エルフの国と生贄の山

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「はい、私の父です」
「化け物を世に放ってしまえば、自分達だって無事では済まないだろ?」
「魔獣が地上を破壊する間、有翼人は空へ逃げ延びることが出来るので、絶えるのは飛べない生き物だと父は考えているのかも知れません」
「イグドラシルの知識を使って、一体何をするつもりなんだろう」
「あれじゃ、この子の亡くなった母君を生き還らせるのが目的なんじゃないかの?」
「母は、生きています」
「ハズレかい」と頬を掻くミッツの横で、同じ事を考えていたと目で語るソゴゥ。
「母は父に愛想を尽かして出ていきました。私の父は、長年の苦しみから、理性的な考えと、他人との共感力を失ってしまいました。翼の歪んだ有翼人は長く生きません。でも、父は長く生きた歪んだ翼をもつ有翼人が得る、絶大なカリスマ性と、強運を持っていました」
「ん、ちょっと、途中から何言っているのか解らなくなった」
「あっ、すみません、有翼人の翼は折れたり、引きちぎられても、健康な翼に生え変わります。でも、生まれつき歪んだ翼をもってしまった場合、傷つき再生しても、歪んだ翼が生えてきます。そして、歪んだ翼を持つ者は、空を長時間飛ぶことが出来ません。これは、有翼人にとって大きなストレスになります。それは、心身を衰弱させやがて死に至らしめるほどの。ですから、長く生きる者はマレなのです、そうして、長く生きた者は先ほど言った通り、人をきつけ、説得する力を持ち、また望んだことへの手がかりを得る幸運を授かりやすいという特徴があるのです。まさに、私の父がそれです」
「なるほどね」とイセトゥアンが頷く
彼の両腕に、取り縋るように引っ付く少女たちを視界から排除してソゴゥは「じゃあ、翼を治したいのかな」と尋ねる。
「最初の目的はそうだったのかもしれません。でもいまは、聖地を取り戻すことこそが、父の目的になっているのだと思います」
「俺もよう知らんが、イグドラシルに有翼人は近づけんと、絵本か何かで見た気がするが」
「はい、大昔、世界樹にはあらゆる有翼人が暮らしていたと言われています。けれど、有翼人は気性が荒く、火を好む性質から世界樹そのものから追われてしまったと。でも、枯死し、聖骸となったいまなら、奪えるのではと父は考えたのでしょう」
「それで・・・・・・・」
ソゴゥは言いにくそうに、少女を見つめる。
「二点、確認したいんだけど」
「はい」
「まず、あんたは娘なのに、なんで生贄にされたんだ」
「父にも良心の呵責カシャクがあったのだと思います。父が偶然この地で『災』を見つけたとき、これを利用しようという天啓と共に、魔力の強い生物として真っ先に思い浮かんだのが私だったはずです。であれば、他人の子をサラってくるよりも、まず自分の子をと。悩んだ末にそう決断し、実行するまでには長い時間を費やしたようです。私からしたら、諦めてほしかった・・・・・・・。父が、この場所へ足繫く通い、何かを調べている間、私も様子のおかしい父を案じて、そしてこの魔獣を見つけて、どうにかこれを世に出さないようにできないか考えました。そして今この魔獣が休止しているのは、ある本にあった、星の歌によるものです」
「星の歌?」
「はい、父が調べていた『災』の生態についての文献とは別に、『地に在るもの』との対話に用いられる旋律センリツがあると、本に載っていたのです」
「その旋律で、この魔獣が休止しているというの?」
「そうです。ここにいる皆にも覚えてもらいました。だから、あなた方の様な、魔力が桁外れな者が落ちてきても、直ぐに眠らせることが出来ました。魔獣は、魔力の強い者を吸収するたびに目を覚まそうとしましたが、あの本の歌にあった眠りの歌を、ダメもとで試してみたところ、何とかなりました」
「それはすごいな」
「お手柄じゃ」
「それで・・・・・・・」ソゴゥは目を輝かせる兄達を押しのけ、少女に確認する。
「上では俺たちの兄弟を盾にして、君の父親を含むであろうスパルナ族と、俺たちの国の者が戦っている。戦力的には俺たちに分があるようだったが、人質のせいで両者身動きが取れない。俺は、この状態を打破するつもりだが、そうすると、君たちの身内は命を落とすことになるかもしれない。どうする?」
「まず、ここから出られるのでしょうか?」
少女たちが希望に満ちた目で見てくる。
ソゴゥは横を向き「出られる」とぶっきらぼうに応える。
「この空間では、飢えることも、怪我や病むこともなく、知っている花から見たことのない花まで沢山咲いていて、時折きれいな音楽が聞こえたりして居心地は良かったのですが、流石にもう飽きました。それに、上にいる大人たちは、父であろうと私たちの敵です。どうか気にせず、私たちに協力できることがあったら言ってください」
「協力してくれるの?」
「はい」
少女たちがそれぞれ応える。
「やった、俺ちょっと思い付いたことがあるんだよね」
「ソゴゥ、何企んどるん?」とミトゥコッシーがソゴゥの肩に手を回す。
「この子たちが協力してくれるなら、ちょっと面白いことが出来ると思う。ここに落とされる前、ミッツやヨドがいた場所の後ろ、祭壇のようになっていた奥の壁に彫られていたのって、スパルナ族が確か熱心に崇めている神様だよね」
「はい、アヴァタラ神ですね、種族によって呼び名が異なりますが。私たち有翼人を使役する代わりに永遠の命を授けると言われています」
「よく見えなかったんだけど、どんな姿をした神様なの?」
「色々な動物や種族に身を変えると言われていますが、壁に彫られていたのは、人型のやつですね」
「それ、詳しく」
身を乗り出して、少女の話に聞き入るソゴゥ。
やがて手を打って立ち上がると「よし! お前たち、リハーサルだ! イセ兄の特技と、この子たちとで、ド派手に登場しようじゃないか!」と声を張り上げた。

翼の折れた赤髪の有翼人の長広舌にも飽き飽きしていたころ、ミトゥコッシーから「そちらへ行く」との意思が飛んできた。
有翼人を囲む特殊部隊も、教師たちも、ヨド関係なしにキレて突っ込みそうなイライラ感が、穴を隔て伝わってきていたため、ようやくかとニトゥリーはオスティオスに報告した。

「本当か、それでいつ?」
「もういます」と背後からソゴゥがオスティオスに話しかける。その後ろにミトゥコッシーもいる。
「な! マジか、ソゴゥ!! すげえ!! ミッツ、お前クソッ!!」
「クソて、他に言いようあるやろ!」
「ソゴゥ!!」
教師たちに囲まれ、ソゴゥは一瞬得意げになりかけてすぐに、顔を引き締めた。
「ヨドを助けます。これから来る者には決して攻撃しないように、向こうに合図を送れますか?」
オスティオスは頷き、光の玉を二発打ち上げた。
「待機の合図だが、このタイミングで送ったのだから、何かあると伝わったとは思うが」
「では、行きますよ」
ソゴゥは縁に立ち、両手を突き出した。
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