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6 巨悪

6-7. 巨悪

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イグドラムの船団真上に瞬間移動して来たソゴゥと金目の悪魔は、一斉砲撃が開始されると、金目の悪魔の能力で時間操作を開始した。
打ち合わせなどしていなかったが、まさにというタイミングで悪魔が時間を止め、ソゴゥの目には砲弾が上空で留まっているように映った。
ソゴゥは自分と悪魔以外の時間が止まっている間に、見えている全ての砲弾をマーキングしては大気圏外へ移動させる魔術を延々と繰り返した。

やがて、時間が戻り、あれだけあった砲弾が全て音も聞こえないようなハルか上空の宇宙に近い場所で炸裂サクレツした。
着弾を想定していた、ヴァーグは一瞬で砲弾が消えたことを信じられずに、何が起こったのだと周囲、上空を見回して、砲弾の残滓ザンシを成層圏に発見した。
第二、第三と繰り返される砲撃も同じようにイグドラム船団に到達する目前で消えて、次の瞬間には上空で炸裂しているといったことが起きた。
島の方に向かった弾は、着弾する前に黒い炎にかき消されている。
見ると、島を取り囲むように黒い光の円がいくつも浮かび上がり、攻撃を阻止している。
ミトゥコッシーはソゴゥの様子を見て、悲鳴に近い声で叫ぶ。
ソゴゥの瞳は黄緑色に発光し、両目から血を流していた。

「艦長!」
ミトゥコッシーは、各艦でやり取りが可能な通信機関から、第一戦艦のヴァーグ海上幕僚長に訴えるように叫ぶ。
「決行!」とヴァーグは叫び、第一戦艦の副長と第二戦艦のミトゥコッシー、それに第三戦艦の船員がそれぞれ各戦艦に設置されている法螺貝ホラガイのような巨大な装置に息を吹き込んだ。
金目の悪魔が、フッと笑みをもらし、ソゴゥの肩に軽く触れる。

「特等席で、これが見られるのを期待していたのです」
悪魔が言い「もう、大丈夫そうですよ」と小刻みに瞳孔を動かし続けている、ソゴゥの目を手でオオった。
海中からいくつもの船が浮上して、イグドラムの船団を攻撃していた四か国のすべての戦艦を取り囲んだ。
その数は千をはるかに凌駕リョウガし、海の様子は一変した。
その万はあるかという潜水艇は、同盟国ニルヤカナヤ国と、もう一か国、この東域の海洋人の国家アトランテス国の一団であった。
四か国の艦隊の魚雷は、彼らによって撃墜されており、海中から四か国の船はスクリューが破壊され、次々と推進力スイシンリョクが失われていった。
 
「もう大丈夫だ」とソゴゥは悪魔の手をはがし、何が起きたのか周囲を見て思わず「おお!」と声を上げていた。
「ソゴゥ! こっちに来んさい!」
ミトゥコッシーが軍艦の甲板から呼んでいるのを聞き、ソゴゥは自分自身を取り巻く魔力を抑え、悪魔を伴って瞬間移動する。
「ミッツ、よかった無事で」
「お前が無事に見えん! ヨドも来とるから、治療してもらいや、中央の民間客船におる」
「それにしても、よくこれだけ集まってくれたね」
「おう、王様が協力を取り付けてくれたんよ。ニルヤカナヤ国の人たちが、ここまで俺たちの船を牽引してくれて、予定の半分近い速さで来られたんじゃ」
ミトゥコッシーがソゴゥに教える。
突然船が大きく揺れ、海面が隆起しているのが見えた。
見ると、第一戦艦の前方に海中からゴ〇ラもかくやと言う程の巨大な海竜が姿を現した。
「わわわ」
ソゴゥがミトゥコッシーに抱き着いて、「わ」を連呼している。
横では、金目の悪魔が瞳をキラキラと輝かせていた。
ミトゥコッシーは苦笑しながら「俺も、最初に海王様にお会いしたときはそうなったわ」とソゴゥの背を擦る。
プレシオサウルス類のような長い首をこちらに向けており、その顔は恐竜やドラゴンのようで角度によって白や紫に見える鱗に覆われ、口からは動くもの全て捉えて食べそうなギザギザした牙が覗いている。
『もっと早う、呼ばんかいワレ』
何か違う。
ソゴゥはミトゥコッシー越しに、アトランテスの海王を見た。
ヴァーグは海王に敬意を示し、感謝を述べている。
こうしている間にも、海洋人の船は、人間の国の戦艦に攻撃を加えて、砲台を破壊したり、粘着質なもので砲管を塞いだりして戦力を削いでいる。
『凄まじい魔力を感じたが、そこの坊はイグドラム人か?』
海王と目が合う。
ソゴゥは間違いなく、自分に向けられている言葉だと理解し「イグドラシル第一司書のソゴゥです」と答える。
『可哀そうに、坊は目を怪我しておるではないかい、ほな、ワシが舐めて治しちゃるけ、こっちこい』
海王が口をグアーーと開ける。
ミトゥコッシーがソゴゥを背中に隠し、ソゴゥはミトゥコッシーの背中に顔を押し付けて震えている。
『冗談や』
放射能吐いてくるかと思った。
「アトランテス王、我々はこのまま島へ行き、島の人間を乗船させてから離脱いたします」
『さよか、ほな、ワシらはあんたらが無事島のもんを、その船に乗せてこの海域を離れるまで守ったる。その先は、いよいよ待ちに待った、ワシらの棲み処を汚したあれらを、こうして、こうして、こうしたったる』
アトランテス王が、長い首を右に、左に空を叩きつけるように振り、手で海面を叩いた。
船縁に達するような大波が発生し、船が大きく揺さぶられる。
島に採掘とは無関係な人間がいたせいで、攻撃に踏み切れなかったアトランテス国は、これでやっと、諸悪の者達とぶつかり合うことが出来ると王自らやって来たのだ。
『まずは、この先にある地下資源を掘削している施設を破壊してやろうかのう、海洋、陸上の各国へは、ワシに代わりゼフィランサス王が既にこの海域への百年追放宣言をワシの名のもとに行っておるからの、海洋に進出してくるあれらの国の船を徹底的に排除したるわい』
ともあれ、海洋人の連合軍により、すでに海面に漂うだけの人間の艦隊は、戦意を折られ、アトランテス王の出現に絶望を感じているようだ。
四か国の艦隊が島より遠ざけられたため、イグドラムの船団はただちに島に接岸した。
一足先にソゴゥは島の人間の元に向かい、船へと誘導し避難を開始した。
極東の人達は、外で起きていたことを見張りをしていた仲間から聞き、この機会を作ってくれたエルフと海洋人たちの好意を真っ直ぐ受け止めて、速やかに退避を行った。
イグドラムの大型民間客船と、ヴィドラ連邦より借り受けた大型客船の二隻とニルヤカナヤ国の巨大潜水輸送船に、一万人をそれぞれ分けて全島人を乗船させる。
ものの三十分と満たない間に、乗船が完了すると、海域の離脱を開始する。
ソゴゥは最後に、イグドラシルの若木に島の事を任せ、小さな図書館にカギを掛けた。
「いずれ、また」
司書二人とジキタリスを伴い、最期に乗船する。

「私との約束ですが」と金目の悪魔が、ソゴゥに耳打ちする。
「そんなのでいいのか? 分かった、探しておく」
ソゴゥは言い、ヨルと一緒に金目の悪魔の見送りに手を振って別れる。
そしてようやく、イグドラムの船団と、ニルヤカナヤ国の一団は共に、また九千キロの帰路へと着いたのだった。
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