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6 巨悪
6-4. 巨悪
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皆が、星の中へ引かれ消えていくと、そこにはソゴゥとヨルとジキタリス、そして金目の悪魔ともう一人の青年の亡者「巨悪」だけが残った。
「なぜ、天の国は私に門を開かない。何故だ!」
「おや、貴方は賭けに負けたのですよ、貴方は選ばれなかった」
「ですが、そっちの悪魔とあの亡国の母と呼ばれる人間とで、戦争被害者の魂をすべて救うように契約したと言っていたではないですか!」
「お前のどこが、戦争被害者なんだよ」とソゴゥが口を挟む。
「お前の過去を見た。戦争を始めた首謀者はお前だ。権力に酔い、腐るところまで腐っていた。権力という万能感に酔いしれて、外道を極めながらも表沙汰にならないよう、幼い子供から、若い娘から使い捨てにして部下に殺させ、あるいは家族を人質に取って、やりたい放題よ、その後の国民のほとんどは戦争ではなく、悪政で病気と飢えで死んだ。お前が、国民をなぶり殺しにしたようなものだ。お前は、この世界に転生し、前世で出来なかった事を、この国でやり尽くした。クソ異世界人だったわけだ。お前が死んでいて残念だ、俺は、お前が生きながら、どれだけの苦痛を味わいながら死んでいけるか、その方法を、そればかりを考えている」
ヨルが、ソゴゥの肩に手を置く。
「マスター」
「ヨル、俺は酷い顔をしているだろう? 幻滅したか」
「いや、マスター、我なら、その魍魎に千万の苦痛を与えることが可能である。我に任せるがよい」
「これは、私の獲物ですよ、まったく」
呆れたように金目の悪魔が言う。
「何を言い出すのか、エルフの国に寄生している移民如きが、何の手も打たず賭けに興ずる愚人と私を侮っておられるようですが、賭けは、これからですよ」
巨悪の顔が、黒い靄に包まれ、青年から全く別人の初老の男の顔に変わる。
「この島国にいる全ての人間の命は私が握っています。これらを、一人残らず殺されたくなければ、私を天の国へ向かい入れるよう力を貸すのです」
「どういう事です?」
金目の悪魔が興味深そうに、男を見る。
男の顔は、初老の白髪から、また別の砂色の髪の頭髪の薄い壮年の男へ、そして狡猾そうな太った中年男性から、神経質そうな女性の顔にかわった。
一巡すると、また元の青年の顔に戻る。
「今の顔は、現在この島を取り囲む人間の国のトップの者達です。この者達には、不安と恐怖、そしていつか仕返しをされるという強迫観念を植え付けておいたのですよ。島の人間を、島の外へ出すな、他国の支援を受け付けさせるな、力を付ければいずれ武器を持ち、島の外へ出て、各国に取り付いて姿を隠しながら転覆をもくろむ、獅子身中の虫となり、国に災いを齎すこととなるでしょう。そう枕元で囁き続けてきたのです。時に彼らに、利益となる知恵を授け、この私の声を天啓と捉えるよう、育てた者達です。私の一言で、彼らは、四か国全ての軍艦をこの島へ、あっという間に出撃させるでしょう」
「この島にいる人たち全てを、島の外へ逃がす」
「あははは、まあ、そんなことは万に一つもないとは思いますが、貴方の要請でイグドラムの軍艦が救助に駆け付けたとして、エルフの国の軍艦は十数艦がいいところ、どうやってこの海を制する四か国の千を超える艦隊を突破しようというのですか。物を知らないというのは恐ろしい事ですね。ああ、当然空も無理ですよ、四か国上空を通らず、この島へは辿り着けませんし、西側より回り込んでも、空壁と艦隊の砲撃の餌食となるだけですからね」
「なるほど、それは厄介ですね」と金目の悪魔が面白そうに、ソゴゥと巨悪のやり取りに口を挟む。
「それで、俺にどうしろと?」
「そちらの悪魔に貴方の魂を与え、私の魂を救いなさい。そうすれば、この島へ攻撃は致しません。断れば、即時出撃を命じるよう、先ほどお見せした者達に語り掛けますよ」
「すでに、怨霊と化していたのか。だけど、まあ、想定内だな」
「どういう事です、負け惜しみですか?」
「人間の国の四か国が、この島の人達の救済を拒んでいたことから、この島の人達を外に逃がすのはとても難しそうだってことは、とうに分かっていた。亡国の母が、どこかの国に援助を求めたりしたら、それを機に言いがかりをつけて一気に殲滅を企てようとしていることも予想していた。この島周辺の海域の資源を、四か国が貪り始めてから、この島の人達は彼らにとって邪魔でしかなかっただろう。だが、この島に人がいたおかげで、四か国はやりたい放題出来ていたのだが、そこまでは思いやりを持たないお前たちには、気づけなかったのだろうな。あとは、亡国の母が俺を信じて、助けを求めてくれさえすればよかった。そして彼女は、俺に助けてと言った」
ソゴゥはニヤリと笑った。
「俺の勝ちだ」
「貴方が何をできるというのです」
「俺の国の外交はすごいんだ、王が賢王だからね。だから、お前の賭けには乗らない。乗る必要が無いからな、お前は地獄へ行っとけ」
「だそうです。では、私の考えたメニューをこなしてもらいましょうかね。とりあえず、戦争で亡くなった方の一億回の死を、貴方に体験してもらいましょうか。飢えの苦しみが多いようですが、凄惨な拷問を受けて亡くなった者、嬲り殺しにあった者、人体実験なんかも多いようですね」
悪魔の瞳が金色に光る。
「おい、人間! いいのか! この島への攻撃を命令したぞ! すぐに、千の艦隊がここへ到着する。今ならまだ、撤回を命令することが出来る! 死ぬぞ! この島の全ての人間がお前のせいでだ!」
「責任を転嫁するなよ、お前のせいであって、俺のせいじゃない。それに、何度も説明したくないんだが、心配には及ばない、島の人達は誰一人死なないからな。じゃあな、怨霊。みんなの苦しみを味わえよ」
ソゴゥは悪魔に一礼して、踵を返した。
「なぜ、天の国は私に門を開かない。何故だ!」
「おや、貴方は賭けに負けたのですよ、貴方は選ばれなかった」
「ですが、そっちの悪魔とあの亡国の母と呼ばれる人間とで、戦争被害者の魂をすべて救うように契約したと言っていたではないですか!」
「お前のどこが、戦争被害者なんだよ」とソゴゥが口を挟む。
「お前の過去を見た。戦争を始めた首謀者はお前だ。権力に酔い、腐るところまで腐っていた。権力という万能感に酔いしれて、外道を極めながらも表沙汰にならないよう、幼い子供から、若い娘から使い捨てにして部下に殺させ、あるいは家族を人質に取って、やりたい放題よ、その後の国民のほとんどは戦争ではなく、悪政で病気と飢えで死んだ。お前が、国民をなぶり殺しにしたようなものだ。お前は、この世界に転生し、前世で出来なかった事を、この国でやり尽くした。クソ異世界人だったわけだ。お前が死んでいて残念だ、俺は、お前が生きながら、どれだけの苦痛を味わいながら死んでいけるか、その方法を、そればかりを考えている」
ヨルが、ソゴゥの肩に手を置く。
「マスター」
「ヨル、俺は酷い顔をしているだろう? 幻滅したか」
「いや、マスター、我なら、その魍魎に千万の苦痛を与えることが可能である。我に任せるがよい」
「これは、私の獲物ですよ、まったく」
呆れたように金目の悪魔が言う。
「何を言い出すのか、エルフの国に寄生している移民如きが、何の手も打たず賭けに興ずる愚人と私を侮っておられるようですが、賭けは、これからですよ」
巨悪の顔が、黒い靄に包まれ、青年から全く別人の初老の男の顔に変わる。
「この島国にいる全ての人間の命は私が握っています。これらを、一人残らず殺されたくなければ、私を天の国へ向かい入れるよう力を貸すのです」
「どういう事です?」
金目の悪魔が興味深そうに、男を見る。
男の顔は、初老の白髪から、また別の砂色の髪の頭髪の薄い壮年の男へ、そして狡猾そうな太った中年男性から、神経質そうな女性の顔にかわった。
一巡すると、また元の青年の顔に戻る。
「今の顔は、現在この島を取り囲む人間の国のトップの者達です。この者達には、不安と恐怖、そしていつか仕返しをされるという強迫観念を植え付けておいたのですよ。島の人間を、島の外へ出すな、他国の支援を受け付けさせるな、力を付ければいずれ武器を持ち、島の外へ出て、各国に取り付いて姿を隠しながら転覆をもくろむ、獅子身中の虫となり、国に災いを齎すこととなるでしょう。そう枕元で囁き続けてきたのです。時に彼らに、利益となる知恵を授け、この私の声を天啓と捉えるよう、育てた者達です。私の一言で、彼らは、四か国全ての軍艦をこの島へ、あっという間に出撃させるでしょう」
「この島にいる人たち全てを、島の外へ逃がす」
「あははは、まあ、そんなことは万に一つもないとは思いますが、貴方の要請でイグドラムの軍艦が救助に駆け付けたとして、エルフの国の軍艦は十数艦がいいところ、どうやってこの海を制する四か国の千を超える艦隊を突破しようというのですか。物を知らないというのは恐ろしい事ですね。ああ、当然空も無理ですよ、四か国上空を通らず、この島へは辿り着けませんし、西側より回り込んでも、空壁と艦隊の砲撃の餌食となるだけですからね」
「なるほど、それは厄介ですね」と金目の悪魔が面白そうに、ソゴゥと巨悪のやり取りに口を挟む。
「それで、俺にどうしろと?」
「そちらの悪魔に貴方の魂を与え、私の魂を救いなさい。そうすれば、この島へ攻撃は致しません。断れば、即時出撃を命じるよう、先ほどお見せした者達に語り掛けますよ」
「すでに、怨霊と化していたのか。だけど、まあ、想定内だな」
「どういう事です、負け惜しみですか?」
「人間の国の四か国が、この島の人達の救済を拒んでいたことから、この島の人達を外に逃がすのはとても難しそうだってことは、とうに分かっていた。亡国の母が、どこかの国に援助を求めたりしたら、それを機に言いがかりをつけて一気に殲滅を企てようとしていることも予想していた。この島周辺の海域の資源を、四か国が貪り始めてから、この島の人達は彼らにとって邪魔でしかなかっただろう。だが、この島に人がいたおかげで、四か国はやりたい放題出来ていたのだが、そこまでは思いやりを持たないお前たちには、気づけなかったのだろうな。あとは、亡国の母が俺を信じて、助けを求めてくれさえすればよかった。そして彼女は、俺に助けてと言った」
ソゴゥはニヤリと笑った。
「俺の勝ちだ」
「貴方が何をできるというのです」
「俺の国の外交はすごいんだ、王が賢王だからね。だから、お前の賭けには乗らない。乗る必要が無いからな、お前は地獄へ行っとけ」
「だそうです。では、私の考えたメニューをこなしてもらいましょうかね。とりあえず、戦争で亡くなった方の一億回の死を、貴方に体験してもらいましょうか。飢えの苦しみが多いようですが、凄惨な拷問を受けて亡くなった者、嬲り殺しにあった者、人体実験なんかも多いようですね」
悪魔の瞳が金色に光る。
「おい、人間! いいのか! この島への攻撃を命令したぞ! すぐに、千の艦隊がここへ到着する。今ならまだ、撤回を命令することが出来る! 死ぬぞ! この島の全ての人間がお前のせいでだ!」
「責任を転嫁するなよ、お前のせいであって、俺のせいじゃない。それに、何度も説明したくないんだが、心配には及ばない、島の人達は誰一人死なないからな。じゃあな、怨霊。みんなの苦しみを味わえよ」
ソゴゥは悪魔に一礼して、踵を返した。
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