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5 おもてなし開催

5-8. おもてなし開催

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食事が終わった際は、スタンディングオベーションを贈りたい気分だった。
ソゴゥは立ち上がり、オーナーのもとへ行く。

「僕の事を考えて用意していただいた食事は、どれもとても素晴らしかった。どうか、握手をしてもらえますか?」
ソゴゥが手を差し出す。
「もちろんです、喜んで頂けることが私の喜びなのです」
オーナーが差し出した手を握り、もう片方の手で包む。
「貴方の、記憶を見せていただきます」
ソゴゥは初めて、相手にカルミアの指輪の事を告げた。
オーナーは頷き、視界が彼の記憶へと引きずられていく。

白髪で目元のシワも美しい女性が頭を押さえていた、明らかに具合が悪いとわかる。
女性はオーナーの妻で、そして彼は病院へ彼女を連れていくのを躊躇タメラっていた。
信頼している友人が務める病院ならばと思い立ち、オーナーは遠出をしてそこに彼女を連れて行くことにした。
彼女はすぐに入院が決まり、不安な気持ちで、オーナーは家へと一旦戻った。

謎の病原菌が蔓延し、大病院では連日百を超える死亡者が出ていた。
チマタでは生物兵器が使用されたのだと噂されていたが、国はそれを否定していた。
間もなく、病原菌に対する治療薬が完成したというニュースが世間を安堵させた。しかし、症状が初期の段階でしか治療薬が効かないため、少しでも症状のある者はすぐに病院行くようにと通達がされた。
その国の通達に、オーナーは懐疑的カイギテキだった。
毎日あれだけの人間が、病院へ行ったその数日後に亡くなっている。謎の病気に罹患リカンしても、自宅療養をしていた者は、すぐに亡くなる事はなく、数週間はたえていたと聞く。

明らかに普通じゃない。
その夜、友人から至急の通信を受け取り、病院へと駆け付けた。
時刻は夜中になっていたが、病院で彼の名を告げると医務室の場所を受付で案内され、彼の部屋に向かった。
部屋のドアをノックすが、応答はなく、待ちくたびれて眠ってしまったのかとドアを開ける。

目の前の光景を理解するのに、かなりの時間を要した。
そこには、木のハリヒモを通して首をった友人の姿があった。
急いで、椅子イスを彼のもとに運んで、椅子に乗り、彼の体を持ち上げて縄紐ナワヒモから首を外し、転がるように二人分の体を床に叩きつけるようにして落ちた。
友人の顔を叩き、息を確認し、心臓を圧迫して蘇生ソセイを試みるも、初見から彼がすでに息絶えていることは分かっていた。
すでに弛緩シカンした筋肉から、ありとあらゆる体液が漏れ出て臭気を放ち、万が一の可能性もなくムクロとなっていたが、それすら理解できないほど動転していたのだ。
どうしてこんなことを。
彼を床に横たわらせ、窓を開けようと、机に近寄りそこに自分あての手紙を見つけた。

明日の朝、ここに入院した多くの患者が死ぬ。
君の奥さんも、このままでは殺される。

彼の手紙には、これまで患者に処方して来た薬が、国から支給された毒薬だと記されていた。
国内に持ち込まれた生物兵器により、多くの国民が感染しており、感染者をいち早く排除することで、禍根カコンを取り除くのが、国の方針だという事。
医療費に金が回ることのないよう、不要なものを排除し、軍事費にのみに予算を使用するための方策であること。
具合が悪いといって来院したものは、感染していようがいまいが、無差別にその家族も呼びつけられ、薬を飲むように渡されること。
そして、それを知って、医者たちは訪れた患者に薬を処方して来たこと。

もう耐えられない。
手紙は彼の吐血するような想いで終わっていた。

オーナーはすぐに部下を呼びつけて、何台かの大型魔鉱車両を病院へ持ってこさせ、院内の医者や看護師を催眠魔法で眠らせると、自分は医者の白衣を着て、入院患者全てを車へと移動させて病院から連れ去った。

部下達は事情を聞かず、真夜中から明け方にかけて、病院から患者を連れ出すという大仕事を達成し、そして、連れ去った先、彼の経営する国内最大のホテルへと案内した。
以前は一万を超える従業員も、今は戦争に引っ張られていき、半数に満たない残ったスタッフで軍上層部の保養所となっていた施設から、軍人たちを追い出して立てこもりを始めた。
そこでは、妻と患者たち、そして自分が巻き込んでしまったスタッフが最期を過ごすこととなった。

人生の最後を、イヤしと安らぎのある空間で過ごして欲しい。
患者たちと接するスタッフたちもまた、感染し、次々に倒れていく。
私のエゴで、彼らの死期を早めてしまった。
本当に申し訳ない事をした。
私がしたかったことは、国への復讐フクシュウでしかなかったのかもしれない。
経営者として、従業員の健康とその命をソコねてしまったのでは、罪深き独裁者と変わらない。

それでも、ソゴゥは彼の記憶の中のスタッフ達が、最期まで笑顔でいたのを見ていた。
皆事情を知って彼についてきたのだ。

「貴方のおもてなしは本物でした。押しつけではない、いつだって相手を思って接しておられた」
ソゴゥは最後に握手の手を強く握った。
「いえ、お粗末様でございます」
「とんでもない、良い夜でした」
そのまま、にこやかな女性スタッフの後に続き、部屋へと戻る。
彼らもまた、オーナーの記憶にあった人達だった。

「今日はもう、これで寝ていいんだよな?」
部屋にいた悪魔に問う。
「はい、もう今日はこれまでにしましょう」
あと二人。
オーナーからもらった本には、罪状は六までしかなく、残りは扇動者センドウシャとなっている。
あと一人は、何の罪状なのか、それとも罪なき亡者なのだろうか。
これまで会った、亡者達の罪状は彼らの後悔であり、本当の罪とは違うとソゴゥは感じていた。

悪魔の退出後、本日三度目のシャワーを浴びて、ベッドに潜り込む。
首の上にぬるりとした感触が伝わり、乗っかってきた黒いイタチのような魔獣を引っぺがそうとするも、カタクナなにがれない。
起き上がって様子を見ると、何かショックを受けたように震えていた。

「何かあったのか?」
返事があるわけではないが、樹精獣のこともあり、つい動物に話しかけてしまう。

掛ふとんの上に丸まっている魔獣を撫でているうちに、いつの間にか眠っていた。
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