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4 夜の消失
4-1.夜の消失
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ヨルが消えて数日後に、カルミアさんの娘さんを探しに向かっていた母から手紙が届いた。極東への立ち入りに際しては、現役の司書しか認められないと人間の国の各国から物言いが入ったことと、亡国の民の母の病状が悪く、最期にイグドラシルの最高位と話がしたいとの申し出があったことについて書かれていた。
母からの手紙を携えて、イグドラム国王へ国外への渡航許可の申告に王宮に向かう。
イグドラム国内において、ゼフィランサス王と、イグドラシル大司書は同等の権威となるため、ソゴゥが大司書となった暁には、ゼフィランサス王がイグドラシルへ来訪するという事態もあるが、今はまだ第一司書のため、ソゴゥが王宮に赴くのが決まりとなっている。
王宮の親しい来客用の応接に通されると、既にゼフィランサス王が待っていた。
ゼフィランサス王は無駄を嫌うため、勿体つけた登場や挨拶はない。
前王はあらゆる魔術に精通していて、二つ名を持つ世界的にも有名な王だったが、ソゴゥは今の現イグドラム国王のゼフィランサスを、前王のように派手な特徴を持たなくても、考え方、そして行動力を高く評価し尊敬していた。
迅速な裁量や判断が常でありながらも、決して浅慮ではなく、理論的であり合理的で無駄や不足がない。
ソゴゥが度肝を抜かれるような、大胆な決断も、最終的にはあらゆる事象を回収して、最適なところへと納めるといった、先見の明もある。
正しく年を重ね、国の最重要な責任を受け止めてきた、厳しく清らかな年輪をその顔に刻んでいる。
「護衛の悪魔の事は聞いた、太歳の時の功労者であった。残念であったな」
「はい」
素直に応える。
「さて、カルミアの娘の事は、余もずっと気掛かりであったのだ。当時は王宮を挙げての大掛かりな捜索がなされ、今現在も警察機関での継続捜査と合わせ、国外でも手がかりを得られるよう、外事に際し、人員の異動時には申し送り事項として必ず子の特徴が伝えられ、捜索が続いている。だが、その手掛かりが極東から届くとは」
「極東の小さな図書館に赴任していた司書が持ち帰りました。カルミアに確認してもらったところ、彼女の娘の持ち物であるという事が判明いたしましたので、カルミアと前司書長のジャカランダ、前大司書のヒャッカと、その夫のカデンが極東へ向かったところ、人間の国の各国の取り決めにより、現在亡国に立ち入りが許されている、小さな図書館を管理する現役の司書しか足を踏み入れる事が出来ないとの事で、足止めを受けている様です」
「極東戦争の戦争当事国は、極東の島を囲む大陸の東端に位置する、海に面した四つの国だ。これらが、今亡国の監視と周辺海域に縄張りを広げ、島の西側の海洋にまで領域を主張する空壁を展開し、海洋資源の採掘による海域の深刻な汚染が生じている」
「戦争当事国は、外部の者が亡国へ肩入れするのを排除し、亡国の民が物言わぬようにした上で、外部の者を遠ざけ極東海域の資源を独占するのが目的なのでしょうか?」
「それが分からぬのだ。外部の救済を拒んでいるのは、亡国の民側であることは間違いない」
「ですが、前大司書によると、十年前、極東に小さな図書館を作る話が上がった際の戦争当事国の横やりは凄まじかったそうで、細かなところまで監視と、査察が入り、武器やそれに転用できるものという理由で、図書館建物以外のインフラを整備することもにも許可が下りなかたようです。ただ、今回は亡国の母が私を指名してこられましたので、直ちに極東へ向かおうと思います」
「あい分かった。それについてだが、ここに海将を呼んでいる」
ゼフィランサス王が護衛の騎士に手を挙げ、来客室のドアを開けて、中へと将軍職のエルフを招き入れる。
海将はゼフィランサス王に一礼し、ソゴゥを向いた。
「お初にお目にかかります、イグドラシル第一司書殿。私は海上幕僚長、ヴァーグ・パイシースと申します」
短く刈った灰色の髪に、鉄色の瞳、海軍らしく潮焼けした逞しい体躯をしていて、思慮深さと豪胆さを併せ持った風貌をしている。年のころは、ゼフィランサス王と同年代か少し若いようだ。
「イグドラシル第一司書、ソゴゥ・ノディマーです」
海軍の最高位の登場に、ソゴゥは説明を求めるようにゼフィランサス王へと視線を戻す。
「第一司書よ、海将の船に同乗してはどうか」
「海将殿、極東へは航路で何日掛かりますか?」
「極東へは三十日といったところです」
「出来れば、私は一日も早く極東へ向かいたいのですが」
「うむ、当然そうであろう。であれば、少しタイミングを合わせなくてはならぬな」
「どういうことなのでしょう?」
ソゴゥがゼフィランサスに尋ねる。
「極東には一万弱の民がおり、戦時下における土地の汚染に未だに苦しみ続けているという。亡国の母は、何故難民申請をして民を国外に退避させないのであろう」
唐突にゼフィランサス王が、ソゴゥとヴァーグに問う。だが、答えを求めるために疑問を口にしたわけではないようだ。
「王は、何か事情があるとお考えなのですね」
ヴァーグの言葉にゼフィランサス王が頷く。
「第一司書は、まずはカルミアの子の事を頼む」
「はい」
「海将、それに第一司書よ、私の考えを聞いてそして判断して欲しい。これから話すことを二正面の愚策とするか、出来得る限りの手を打って、好機と転ずるか」
ゼフィランサスの十八番が出たなと、ソゴゥはどこかワクワクした気持ちで王の言葉を待った。
母からの手紙を携えて、イグドラム国王へ国外への渡航許可の申告に王宮に向かう。
イグドラム国内において、ゼフィランサス王と、イグドラシル大司書は同等の権威となるため、ソゴゥが大司書となった暁には、ゼフィランサス王がイグドラシルへ来訪するという事態もあるが、今はまだ第一司書のため、ソゴゥが王宮に赴くのが決まりとなっている。
王宮の親しい来客用の応接に通されると、既にゼフィランサス王が待っていた。
ゼフィランサス王は無駄を嫌うため、勿体つけた登場や挨拶はない。
前王はあらゆる魔術に精通していて、二つ名を持つ世界的にも有名な王だったが、ソゴゥは今の現イグドラム国王のゼフィランサスを、前王のように派手な特徴を持たなくても、考え方、そして行動力を高く評価し尊敬していた。
迅速な裁量や判断が常でありながらも、決して浅慮ではなく、理論的であり合理的で無駄や不足がない。
ソゴゥが度肝を抜かれるような、大胆な決断も、最終的にはあらゆる事象を回収して、最適なところへと納めるといった、先見の明もある。
正しく年を重ね、国の最重要な責任を受け止めてきた、厳しく清らかな年輪をその顔に刻んでいる。
「護衛の悪魔の事は聞いた、太歳の時の功労者であった。残念であったな」
「はい」
素直に応える。
「さて、カルミアの娘の事は、余もずっと気掛かりであったのだ。当時は王宮を挙げての大掛かりな捜索がなされ、今現在も警察機関での継続捜査と合わせ、国外でも手がかりを得られるよう、外事に際し、人員の異動時には申し送り事項として必ず子の特徴が伝えられ、捜索が続いている。だが、その手掛かりが極東から届くとは」
「極東の小さな図書館に赴任していた司書が持ち帰りました。カルミアに確認してもらったところ、彼女の娘の持ち物であるという事が判明いたしましたので、カルミアと前司書長のジャカランダ、前大司書のヒャッカと、その夫のカデンが極東へ向かったところ、人間の国の各国の取り決めにより、現在亡国に立ち入りが許されている、小さな図書館を管理する現役の司書しか足を踏み入れる事が出来ないとの事で、足止めを受けている様です」
「極東戦争の戦争当事国は、極東の島を囲む大陸の東端に位置する、海に面した四つの国だ。これらが、今亡国の監視と周辺海域に縄張りを広げ、島の西側の海洋にまで領域を主張する空壁を展開し、海洋資源の採掘による海域の深刻な汚染が生じている」
「戦争当事国は、外部の者が亡国へ肩入れするのを排除し、亡国の民が物言わぬようにした上で、外部の者を遠ざけ極東海域の資源を独占するのが目的なのでしょうか?」
「それが分からぬのだ。外部の救済を拒んでいるのは、亡国の民側であることは間違いない」
「ですが、前大司書によると、十年前、極東に小さな図書館を作る話が上がった際の戦争当事国の横やりは凄まじかったそうで、細かなところまで監視と、査察が入り、武器やそれに転用できるものという理由で、図書館建物以外のインフラを整備することもにも許可が下りなかたようです。ただ、今回は亡国の母が私を指名してこられましたので、直ちに極東へ向かおうと思います」
「あい分かった。それについてだが、ここに海将を呼んでいる」
ゼフィランサス王が護衛の騎士に手を挙げ、来客室のドアを開けて、中へと将軍職のエルフを招き入れる。
海将はゼフィランサス王に一礼し、ソゴゥを向いた。
「お初にお目にかかります、イグドラシル第一司書殿。私は海上幕僚長、ヴァーグ・パイシースと申します」
短く刈った灰色の髪に、鉄色の瞳、海軍らしく潮焼けした逞しい体躯をしていて、思慮深さと豪胆さを併せ持った風貌をしている。年のころは、ゼフィランサス王と同年代か少し若いようだ。
「イグドラシル第一司書、ソゴゥ・ノディマーです」
海軍の最高位の登場に、ソゴゥは説明を求めるようにゼフィランサス王へと視線を戻す。
「第一司書よ、海将の船に同乗してはどうか」
「海将殿、極東へは航路で何日掛かりますか?」
「極東へは三十日といったところです」
「出来れば、私は一日も早く極東へ向かいたいのですが」
「うむ、当然そうであろう。であれば、少しタイミングを合わせなくてはならぬな」
「どういうことなのでしょう?」
ソゴゥがゼフィランサスに尋ねる。
「極東には一万弱の民がおり、戦時下における土地の汚染に未だに苦しみ続けているという。亡国の母は、何故難民申請をして民を国外に退避させないのであろう」
唐突にゼフィランサス王が、ソゴゥとヴァーグに問う。だが、答えを求めるために疑問を口にしたわけではないようだ。
「王は、何か事情があるとお考えなのですね」
ヴァーグの言葉にゼフィランサス王が頷く。
「第一司書は、まずはカルミアの子の事を頼む」
「はい」
「海将、それに第一司書よ、私の考えを聞いてそして判断して欲しい。これから話すことを二正面の愚策とするか、出来得る限りの手を打って、好機と転ずるか」
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