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4 . 竜の島の冒険
4-11 竜の島の冒険
しおりを挟む机に突っ伏して、ひくついているソゴゥに、イセトゥアンが突く。
「それでソゴゥ、換金はどうだった? ここの支払いは大丈夫なんだろうな」
ソゴゥは顔を上げて涙を拭い、深呼吸をして何とか平静を装う。
「うん、大丈夫。ラードーンを入手したよ。十億になった」
「は?」
「九十億だって言われたけど、今日用意できるのが十億だけだからって、十億だけもらってきた。さっきのちゅ~〇が三千ラードーンここの支払いが、四百五十掛ける四で、千八百ラードーン。あと、九億九千九百九十九万五千二百ラードーンあるよ」
「ヨル、ソゴゥは何を言っているんだ、石は売れなかったのか?」
「いや、まったく本当の事を言っている。かなりの高額買取となって、持て余しておるのだ。浮島に別荘を建てることも可能であろうな。通えるかは別であるが」
「マジか」
「ああ、こんな大金持ち歩くの初めてで、正直ビビってる。それで、そっちは太陽の石のことはどれくらい分かったの?」
ソゴゥは無料で提供された茶を飲みながら、イセトゥアンに尋ねる。
「太陽の石の鉱山はとっくに閉山していて、今ではその場所は秘匿され、厳重に隠されているよだ。そもそも、純粋な太陽の石が採取できる鉱床はほとんどなく、見つかった鉱山も不純物の多い質の悪い物しか産出されていなかったようだ」
「竜神王の命で、太陽の石は劣化処理が施されたもの以外の取引を一切禁止しており、さらに国外の持ち出しに対しての禁輸措置が取られていた。竜神王は、太陽の石を劣化させることで、爆弾材料にならないようにした上で、さらに国外や、魔族の手に渡らないようにしていたんだ」
ロブスタスの言葉に、ソゴゥは頷き硬く目を閉じた。
報告から得た情報を嚙みしめているのではなく、五大饂飩発言を思い出し、笑ってしまいそうになるのを堪えているのである。
「ああ、そう言えば、ちょうどランカ島の首枷の話しが聞けたんだ。ランカ島の首枷には、太陽の石を使用した爆弾が詰められているらしい。どれくらいの規模の爆発を引き起こすのか分からないが」
「ソゴゥ殿、先ほど回収されていた首枷を見せてくれるか?」
「ロブスタスさん、『殿』はいらないですよ、呼び捨てでお願いします」
「なら、ソゴゥも私をイセトゥアンのように呼び捨ててくれて構わない」
「分かりました」
ソゴゥは、リュックから首枷の一つを取り出す。
ロブスタスはそれを手に取り、しげしげと眺めてから、ソゴゥに戻す。
ソゴゥはそれを直ぐにリュックにしまった。
「首枷内の、太陽の石の爆弾の規模は、人の首を吹き飛ばすまでの威力はないようだ。だが、爆発すれば、顔や首に大やけどを負い、酷ければ命を落とすこともあるだろう」
「見ただけで、そんなことが分かるんですか?」
ソゴゥが尋ねると、ロブスタスは王族の特徴的な優雅な肯定の仕草を見せる。
「分かるようになったのだ、物の価値や本質を見抜く特殊魔法を得た。今回の私の失態で太陽の石を、その価値を解らずに預かった後悔から得ようと努力して、何とか身に着けることが出来た。恥ずかしい話、私には、イセトゥアンやソゴゥの様な特殊魔法が使えなかったのだ。知っての通り、父である王には先見と、憑依の特殊魔法があり、母と妹は同じで、自分に害意のある者を見抜く能力。母に至っては、この害意の把握から、害意の排除、好意への転換にまで能力を昇華させている」
「克服に向けた努力によって、容易ではない特殊魔法を取得されたこと、素晴らしいと思います」
ソゴゥの真っ直ぐ言葉に、ロブスタスは舞い上がるほどの歓喜を覚え、顔に出さないようにするのがやっとだった。
ソゴゥはソゴゥで、ロブスタスを見ると何度でもぶり返してくる笑いに、今日はもうきっと寝るまで駄目だと諦めた。
やがて、それぞれに頼んだ料理が運ばれて、木のヘラで突いたり、掬ったりして料理を口に運んで饂飩を味わった。
ロブスタスの料理には、木くずのようなラクリッツというスパイスが抜きになっており、消化しにくくお腹を壊しやすいというだけで、味は問題のない肉を咀嚼しながら、ランカ島の首枷についての話に戻す。
「首枷の爆弾を無効化するのに、中の太陽の石を劣化させるため、かなり単価の高い鉱石を用いて、照射処理を繰り返し施すことで、爆発しないまでに劣化させてから、切り落として外しているそうだ。その鉱石の費用だけで、特に手数料もなくランカ島からの避難民の首枷を大学施設で外しているようだ」
「太陽の石を劣化させることが出来るなら、あの大きな太陽の石の結晶も爆弾の材料にならないよう、無効化できるという事ですね」
「大きさに比例して、劣化速度が減少するようだから、かなりの長い年月と、大量の劣化反応を引き起こす鉱物が必要となるだろうな。だが、あの石は魔族に盗まれてしまった・・・・・・」
イセトゥアンとソゴゥは、もちもちの饂飩を噛みながら、真実を伝えずにいることを申し訳なく思っていた。
リンドレイアナ姫を取り戻すことが出来たなら、ロブスタス王子にも太陽の石は、ソゴゥが持っていると話す予定でいた。
老竜人がお茶のお代わりをコップに注いでくれながら、竜人は饂飩の喉越しを楽しむため、咀嚼せずに、喉につるりと流し込むのだと教えてくれた。
ただ、エルフの喉だと、噛まずに飲み込むと途中で詰まらせて窒息する恐れがあるので、ソゴゥ達は、歯ごたえを楽しむことにしている。
食事を終えると、ソゴゥは水色の水晶を取り出してお会計を済ませて店を出た。
相手側には、水晶の残高が見えないようになっているため、ソゴゥが気軽に出した水晶が実は一億の有価証券だとは分からない。
「さて、今夜の宿を決めてから、爆弾の処理に向かおうと思うけど、どうかな?」
「ああ、宿は日の高いうちにとっておいた方が安心だな。野宿となった際の危険が予測付かないし」とイセトゥアンがソゴゥに同意する。
「妹が心配ではあるが、今は出来ることがない。ここは切り替えて、作戦を成功させるためにも、充分に体力を温存しておかねばならないだろう」
ロブスタスも概ね同意のようだ。
「さっきの冒険者施設で、宿泊施設の場所と施設紹介がのったマップを貰って来たんだよね、何処がいいか決めよう!」
「実は、我は気になっているところがある」
ヨルが珍しく意見を言い、マップの一か所を指す。その場所は、この五大学島からさらに西にある、東域温泉群島の「一の島」で、一の島は風光明媚で、山々と滝と湖のある自然豊かな大きな浮島だった。
「一の島アジュール温泉郷。絶叫フワトロ大浴場が、老若男女問わず大人気の宿」と、ヨルが指したマップの温泉施設をソゴゥが読み上げる。
「フワトロ?」
「温泉と絶叫が結びつかないんだが?」
ソゴゥとイセトゥアンが首を傾げる。
「それを言うなら、浮島群に温泉も結びつかない。そもそも、浮島に火山や、地下からの湧水が存在するのだろうか?」とロブスタス。
「地熱や地下水の温泉ではないのかもしれません、ここは是非行って確かめてこないと!」
ソゴゥは、自身の声が興奮で高くなっていることにも気づかずに言う。
ヨルはソゴゥが最も好きそうな宿だと思い、ここを選んだのだ。
案の定ソゴゥはご機嫌マックスで、謎のステップを踏みながら歩きだし、飛行竜を預けている場所へと向かった。
飛行竜を回収すると、四人はアジュール温泉郷を目指して一の島に向かったのだった。
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