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3. 王の一番の宝

3-3 王の一番の宝

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ここに潜む何かは、ゼフィランサス王をもってしても発見に至っていないのだから、相当な潜入スキルを持っているのだろう。
ソゴゥは、王宮の庭から、空に浮かぶ浮島群を見上げた。
この次元に姿を見せているのは、神殿のあるヘスペリデスの最高位の者が居る島と、その周辺の神域の島々で、一般的な竜人族が住む浮島群は、次元の向こうにあり、ヘスペリデスの全島が見えているわけではない。
ヘスペリデスについて書かれたものを、レベル5の司書達とイグドラシルの蔵書から探し出して、いくつかの文献から、その内容を合わせて検証した結果、ヘスペリデスの全島を繋ぎ合わせると、この大陸の半分近い大きさとなることが推測されたのだ。
魔物との百年戦争は何としてでも避けたいが、単純に面積だけで考えると、国としての規模はヘスペリデスが上であるため、こちらとも戦う事は何とか回避したいところだ。
竜神王の来訪に備え、首都セイヴを守護する王宮騎士五千、魔導士三百、その他、陸海合わせて十五万、警察官十万が厳戒態勢に入る。
西域の海洋国家ニルヤカナヤ国や、隣国のヴィドラ連邦国のような友好国からではない、まるで情報のない、天空国家元首の来訪にイグドラム全体の緊張が高まっている。
ゼフィランサス王は、国民の不安や混乱を避けるため、竜神王来訪に際し、歓迎の機運を高めるように十三貴族に通達し、またその裏で各主要都市の防衛を固めさせていた。首都をはじめとする、各地では色とりどりの旗や、花が街中に飾られる一方で、各領地間の移動制限、当日の飛行竜の使用制限などについて国民に協力を呼び掛けていた。
国の重要施設である国立図書館本館、通称イグドラシルでもまた、司書、職員合わせて三千が当日に起こりうる最悪を想定したシミュレーションを繰り返し、建物全体と各セクションのセキュリティ強化実施に追われていた。

満天星ドウダンは狩場から、十三領の空に浮かぶ白い積乱雲を見上げていた。
首都の西の海域上空に現れたという天空の国家、その浮島群を、この十三領から見ることは出来ないが、その噂は各棟に広まっていた。
首都セイヴには少し前に、ここの皆で訪れたことがある。
天空の国家とはどのようなものなのだろう、見てみたい気もするが、恐ろしくもある。
ここのエルフ達は、自分たちを過保護なまでに守護し、いつも病気や怪我がないかと心配するだけでなく、辛いことはないか、楽しく過ごせているかと気にかけてくれる。
満天星ドウダンはこの西棟、白虎館を馬酔木アセビと共に管理を任されている。
施設環境を馬酔木アセビの班が、人的な問題を満天星の班が当たり、たまに訪れるソゴゥ様と共に、新しい取り組みを模索したりもする。
主に、困りごとや問題は、全棟の管理責任者であるジキタリス様や、領主であるヨドゥバシー様に相談することとなっているが、ふらりとやって来るソゴゥ様は、その容姿も我々に近い事から、ついなんでも話してしまい、畏れ多いと分かっておりながらも友人の様な感覚を覚えるのだ。ソゴゥ様もそれを望んでおられるようで、畏まった話し方を嫌厭される。
遠くからそのソゴゥ様の声が聞こえ、そちらに目を向けて驚いた。

満天星ドウダン!」
ソゴゥ様が、手を振っておられる場所が、巨大な狼の背中からだったからだ。
付近にいた、鹿たちが一斉に逃げ出し、ソゴゥ様が慌てて「ごめん、ごめん」と狼から降りて、こちらへとやって来られる。
「この狼は、ディーンって言うんだ、鹿からリシチの花を守ってくれているんだよ、向こうの少し小さい方が、奥さんのデルーカ、ヨド達が乗っている」
ヨドゥバシー様が、デルーカという、やはり巨大な狼から降りて、こちらにやって来られる。ヨドゥバシー様とソゴゥ様にそっくりなルキ様もご一緒だった。
「ところで、ちょっと聞きたいんだけど、誰か野菜を育てるのが得意な者はいないかな? 植物の扱いが上手い人がいいんだけど」
「はい、おります。庭石菖ニワゼキショウという者が野菜や花の世話が得意です。エルフの先生からの知識をよく吸収しておりますし、本人も世話が好きなようで熱心に取り組んでおり、彼の担当の畑は育ちが良いと評判です」
「それはいい、その庭石菖ニワゼキショウさんを呼んできてくれない?」
ソゴゥ様に言われ、庭石菖を呼んで来ると、庭石菖と共に狼の背に乗るように言われ、西棟から東の方へ数キロほど進んだ、開けた場所に連れてこられた。
ルキ様が周辺を確認し、地面の一か所を指さされる。

「この場所ニョス」
「ここか、ヨド、この付近に水場はある?」
ヨドゥバシー様が辺りを見回し、東の森の先にある山の位置を見て、現在地を確認される。
「ここなら、あの山道の直ぐ側に湧水が出ている場所がある」
「そんなに離れてないな、水はそこから汲んでくればいいか。ルキ、庭石菖はどうだ?」
ルキ様が庭石菖をじっと見つめられる。
庭石菖は、極東から来た人間のほとんどがそうであるように、彼もまた容姿にコンプレックスを抱えている一人で、その口元を布で覆い隠している。
髪は頭部の右半分からしか生えず、もう半分の表皮が硬い鱗の様であり、腰を超える長い黒い髪を一つに束ねている。背は、このエルフの国へ来てから急成長を遂げて、ヨドゥバシー様と並ぶほどに高く、手足も長い。
ヨドゥバシー様やヒャッカ様が、人と違う事で気に病む必要が無いとどれだけ言っても、やはりそう簡単にはいかないのが現状で、彼は尖った歯を隠すために、口元を布で覆っていた。
だが、ソゴゥ様は庭石菖を見た時から目を輝かせておられた。
「カッコいい」と呟いて、皆がソゴゥ様に向けるような憧れの目を、ソゴゥ様が庭石菖に向けているのだった。
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