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2. 太陽の石

2-3 太陽の石

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二人は、こうしてたまに集まって、宮廷内の他人の色恋沙汰を観察しては、色々予想しあったりして楽しんでいた。
イセトゥアンのことを好きな女性エルフは、グロリオサだけではない。イセトゥアンを観察していると、この手に話題に事欠かないので、つい視線で追ってしまい、リンドレイアナ姫が、イセトゥアンを想っているなどという不本意な噂が立ってしまっていた。
イセトゥアンのような競争率が激しく派手なエルフは、リンドレイアナやサルビアにとっては苦手とするところだった。

「アナのタイプってどんな人?」
サルビアがこんなに砕けて、まさに女子トークといったことを話せる相手はリンドレイアナだけである。
二人は年が近く、幼い頃からよく顔を合わせており、サルビアの類稀なる魔術の才能が早い段階で認められて王宮魔導士のもとで就学するにあたり、第八領の実家の城から、イグドラム王宮へ移り住んでからは、二人はしょっちゅう遊んでいた。
床に置いたクッションの上に寝そべりながら、お菓子を摘まんで、おすすめの本や、宮廷内の事を面白おかしく話して、普段の公務の緊張をひと時の間忘れ去るのだ。
「タイプっていうのはとくにないよ」
リンドレイアナは起き上がり、部屋の大きな飾り窓の外に浮かぶ雲を眺めながら「でも」と続ける「私が結婚するなら、こんな感じかなって思うイメージはあるんだよ。なんて言うか、こう、大きな光のイメージ」
「大きな光?」
「うん、金色の。今のところ、そのイメージに合致した人はいないんだけど」
「うん、まあ、私達まだ幼年期だしね、そんなに慌てなくてもいいから気が楽だよ~、エルフは恋愛の個体差が大きいし、幼年期でも、相手を見つけることのできるエルフもいるけれど、だいたいは青年期に入ってからが多いしね」
「そうだよねえ、私たちが人間だったら、もう結婚の話が出てもおかしくないもんね」
「エルフで良かったよね~」
「ね~、ところで、サルビアはいないの? 好きな人」
「私は、ノディマー家の兄弟を傍目から見ているだけで楽しいよ」
「サルビアは、図書館にもよく行っているもんね」
「うん、でも第一司書様は滅多に公の場所には現れないけどね。たまにお見かけしても聖職者扱いされていて、不純な動機では近寄りがたい感じ。だから、女子は遠巻きにしているよ。それでなくても、他の司書達からのガードが凄いんだよ。でも、それを見るのも面白いんだけれどね」
「あの第一司書の彼ね、ものすごい異性に奥手らしいよ、七歳くらいの感性だってノディマー家の現当主が言ってたよ」
「えー、そうなんだ、大人びて見えるのにね、黒髪でなんか神秘的だし」
「ね、公務の時は気を張っているんだと思う。お兄さんのノディマー伯爵と一緒の時は、素の可愛らしいエルフの兄弟のやりとりが見られたよ」
「えっ、いいな~、私も見たい!」
「でも、公務は気をつかうよね~」
「ね~」
二人はゴロリと転がり、仰向けになって高い天井を見上げた。
リンドレイアナはこの広い部屋の隅っこに、クッションやブランケット、お菓子や水差し、本などを配置して、頭からブランケットを被り、本を読んで過ごし室内の端に引きこもっていることが多い。
「あー、部屋出たくないよう、ドレス着たくないよう、王族に向いているのってアンダーソニー兄さんぐらいだよ~」
「ロブスタス様は、いかにもな王子様だけど?」
「ロブ兄さんも、こっち寄りだよ、王子を演じていると思う。私にはわかる」
「そうなんだ、いっつもイセトゥアン様に突っかかっているじゃない? あれはどうして?」
「あれも半分はワザとだと思う。才能ある年の近いエルフに嫉妬した、無能で、傲慢な振りを演じているんだと思う、あと本当の嫉妬も半分あるとは思うけど」
「なにそれ、複雑」
「ロブ兄さんにも私達のような、本心をさらせる友達がいればいいんだけれど」
「そうだね」
「ロブ兄さんは、ヘスペリデスから貴重なものを預かって来ちゃって、それを無事に返すまで、気が休まらないんじゃないかと思う」
「国立美術館に展示されている、太陽の石だよね。私も見に行きたいと思っているんだ、外交としては、友好の証みたいで良かったんじゃないの?」
「イヤイヤ」とリンドレイアナは首を振る。
「もし壊したり、盗まれたりしたら大惨事ですよ。それに、外遊から帰って来た父さんにロブ兄さんが、ヘスペリデスの事を石の事を含めて報告したら、かなり素っ気なかったの。褒めるでも、怒るでもなくて、何か諦めの境地の様な顔をしていたのが気になる。たぶん、父さんの望まない結果だったんだと思うの。それは、ロブ兄さんも感じたみたいで、ロブ兄さん悄然としてて可哀そうだった」
「でもさ、難しいよね。そんな貴重な物は預かれません、なんて言って、その場でもめでもしたら、もともこもないし」
「それを上手く断るのが、王族の勤めなのですよ。王族に失敗は許されないの、絶対」
「それで、アナはその重責に耐えかねて、スミっこ暮らしに」
「部屋の中でまで王女っぽいことはしたくないの、真逆に生きたい」
リンドレイアナはパタリと倒れ込む。
サルビアが寝転んだまま、こちらへと転がってくる。
「可哀そう、ほ~ら、よしよし」
サルビアは仰向けのまま、手だけ伸ばしてリンドレイアナの頭を探り当てて撫でる。
「雑ッ、なんか雑!」
「動きたくないんだよ~、眠いし、昨日からほとんど寝てないし、でも寝たくない」
サルビアのように王宮魔導士の肩書を持つ者は魔法省に所属し、王宮を含めた各省庁から持ち込まれる案件の対応に駆り出され、日々激務に追われている。
「わかる、休日って、眠いけど、何かしたいっていう葛藤カットウのうちに終わるよね~」
「それな~」
王女と王宮魔導士の幼馴染コンビは、結局休みの半分を昼寝で潰してしまうのだった。
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