【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪

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フロイトの反復強迫

92話

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「それに今回のことは、優衣のせいじゃない。あの男の勝手な妄想から始まったことだ」
「……わ、わたしで、いいの? 本当に?」
「バカか?」
「へっ?」
「バカか、と言った。この俺が、優衣以外の何に目を向けたと? 今さら、そんなことを聞く必要があるのか?!」
「だ、だって、……不安だったから、織部くんが執事カフェなんかで、バイトするから!」
「俺は、女の扱いがなってないらしいから」
 痛いところを突かれて、今度は俺が口ごもる番だった。
「何、言ってんの! 女慣れしまくってるよ!!!!」
 “女慣れしまくっている”という彼女の言葉は、ひっかかるものがある。しかし、そう言うなら……。
「きゃん!」
 押し倒されて優衣が仔犬みたいな声を出す。
 鼻先がぶつかりそうな距離まで近づくと、彼女があせっているのが判る。

「慣れてるって……誰と比べて、俺が慣れてると思ったんだ?」
「はい?」
「比べる相手がいたってことだな?」
「そんな人いないよ! わたし、織部くん以外の人と付き合ったことないんだから!」
 自慢にもならないことを必死で言い訳するのがおかしくて、つい笑ってしまう。
「ひどい。からかったの?」
「からかったわけではない。俺も不安だったから確認したかった」
「……わたしが、織部くんを不安にさせたの?」
「どうした? レオンハルトが言っていたことを気にしているのか」
「だって、織部くん、修道院って言葉にすごく反応してた」
 そう言って、優衣は不安げに眉根を寄せる。
 こちらの話に気を取られている隙に俺は、さっさと優衣のブラウスを脱がせてしまっていた。
 以前のような苺柄の下着ではなく、白いレースとサテンのリボン。
 相変わらずの少女趣味。だが、優衣にはよく似合っている。
 レースをずらすと桜色の乳嘴が見える。もう、噛み傷の痕跡もない。

「修道院がどんなものか知ってるか? 食事は粗末で、部屋は寒いし、あんなところに幼児がすごしていたらトラウマにもなるだろう?!」
「そうだったんだ……なんだ……よかった……あん!」
 優衣が声を上げたのは、胸の先端を指先で弾いたからだ。
 男の前で下着姿になれば、その先に進むであろうことも予想していないのだろうか。内科の診察でもあるまいに。
 優衣は、本当に単純で騙されやすい。

「環境はよくないが、修道士たちは、厳格で人格的にも立派な人ばかりだった」
「今の織部くんの人格形成は、そのころに出来上がったのね」
「いや、今の俺は、優衣で出来ている」
 組み伏した優衣の頬に触れ、くちづける。
 触れて、確かめたい。
 彼女の体温。呼吸。胸の鼓動。
 唇。鼻。目。頬から耳にかけて、舌先でなぞり、歯を立てると、それだけで、優衣はたまらない声をあげた。
 貪るように口づけをして、優衣を確認する。彼女がここにいることを。

「わたしも……わたしも、織部くんがいるから」
 無防備なまま優衣は、俺に身をゆだねている。
「だって、織部くんがいるから、わたしは、わたしでいられるのよ」
 優衣は、両腕を伸ばして俺の首にしがみつく。
 どうやら俺にとって、重要なのは“確認する”ではなく、今、心から大切に思えるこの存在を“認める”だけのようだ。
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