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ロミオとジュリエットと時々、神父。
71話
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「もう一度、言います。わたくしは貴方がたの味方です。修道僧ロレンスのようにね」
神父のほうは、わたしほどの衝撃を受けなかったらしい。
当然か。当事者はわたしなのだ。
まだ頭がくらくらしているわたしをよそに、織部くんは挑発的に言った。
「ジュリエットにその効能さえよく判らぬ薬を飲ませるというあの破戒僧ですか」
「シェイクスピアの戯曲も、あなたにかかったら形無しですね」
苦笑するらしい神父の様子に、わたしも戸惑ってしまった。
シェイクスピアに、ジュリエット?
ロレンスというのが、誰のことか判らなかったわたしにもようやく呑み込めた。
“ロミオとジュリエット”に登場する二人を結ばせようと奔走する神父のことだ。
親に望まぬ結婚を迫られたジュリエットに仮死状態となる薬を飲ませ、恋人と駆け落ちさせようとしたが、計画を知らずロミオは自害してしまう。
後で目覚めたジュリエットも後を追うという話だったはずだ。
ロレンス神父は、二人を結婚させてくれた恩人でもあるのに……。
「そのように誰かまわず、噛みついていては生きにくいでしょうに……。何事も一人で解決できる問題ばかりではありません。たまには年長者の言うことを聞くものですよ」
穏やかに神父は、そう言った。
首から下げられた銀のロザリオが、織部くんの背中からこっそり伺うわたしのちょうど眼の高さにある。
暗い廊下に響く静かで、優しい声。
どうして神に仕えるこの方に、織部くんは反発してしまうのだろう。
「ここで騒いでいるのが他の生徒に見られては、そのお嬢さんの姿を晒すことになりませんか」
「……やむを得ない……。では、少し時間をいただけますか」
「あなたも着替える時間が必要ですね。ですが、できるだけお早目に願います。わたくし以外の者に気づかれてはいけませんから」
「承知しております」
言い終わるのが早いか、織部くんはわたしの腰をさらうようにして部屋に放り込むと、音を立ててドアを閉めた。
「織部くん。そんなことしたら……」
あの方に失礼じゃない。
そう言いかけた言葉を唇で塞がれた。
唇を割って、彼の熱い舌が入り込んでくる。
まるで燃えているみたいに熱い。
とっさに、逃げてしまうのをすばやくとらわれる。絡みつき、舌の根が痛いほど吸われてしまう。
乱暴なキス。
でも、それが本来の織部くんなのだ。
誰も知らない彼の熱さ。激しさを知っているのは自分だけで、それを感じることは全身が痺れるほどの幸せだった。
さっき、彼が“彼女の夫”と言ってくれた時の嬉しさと相まって、頭が変になってしまいそう。
いや。すでにわたしの脳細胞は、崩壊しているに違いない。
ドアの向こうには、神父が待っているというのに、突っ立ったまま今が真昼だというのが申し訳ないようなくちづけをしている。
唾液が溢れ、呑み込まれずに唇の端からこぼれた。
必死に彼について行こうとするのに、もう身体中が弛緩して立っていることもできない。
骨抜きにされるっていうのは、こういうことを言うんだろうか。
相手は、まだ高校生の男の子なのに……。
神父のほうは、わたしほどの衝撃を受けなかったらしい。
当然か。当事者はわたしなのだ。
まだ頭がくらくらしているわたしをよそに、織部くんは挑発的に言った。
「ジュリエットにその効能さえよく判らぬ薬を飲ませるというあの破戒僧ですか」
「シェイクスピアの戯曲も、あなたにかかったら形無しですね」
苦笑するらしい神父の様子に、わたしも戸惑ってしまった。
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後で目覚めたジュリエットも後を追うという話だったはずだ。
ロレンス神父は、二人を結婚させてくれた恩人でもあるのに……。
「そのように誰かまわず、噛みついていては生きにくいでしょうに……。何事も一人で解決できる問題ばかりではありません。たまには年長者の言うことを聞くものですよ」
穏やかに神父は、そう言った。
首から下げられた銀のロザリオが、織部くんの背中からこっそり伺うわたしのちょうど眼の高さにある。
暗い廊下に響く静かで、優しい声。
どうして神に仕えるこの方に、織部くんは反発してしまうのだろう。
「ここで騒いでいるのが他の生徒に見られては、そのお嬢さんの姿を晒すことになりませんか」
「……やむを得ない……。では、少し時間をいただけますか」
「あなたも着替える時間が必要ですね。ですが、できるだけお早目に願います。わたくし以外の者に気づかれてはいけませんから」
「承知しております」
言い終わるのが早いか、織部くんはわたしの腰をさらうようにして部屋に放り込むと、音を立ててドアを閉めた。
「織部くん。そんなことしたら……」
あの方に失礼じゃない。
そう言いかけた言葉を唇で塞がれた。
唇を割って、彼の熱い舌が入り込んでくる。
まるで燃えているみたいに熱い。
とっさに、逃げてしまうのをすばやくとらわれる。絡みつき、舌の根が痛いほど吸われてしまう。
乱暴なキス。
でも、それが本来の織部くんなのだ。
誰も知らない彼の熱さ。激しさを知っているのは自分だけで、それを感じることは全身が痺れるほどの幸せだった。
さっき、彼が“彼女の夫”と言ってくれた時の嬉しさと相まって、頭が変になってしまいそう。
いや。すでにわたしの脳細胞は、崩壊しているに違いない。
ドアの向こうには、神父が待っているというのに、突っ立ったまま今が真昼だというのが申し訳ないようなくちづけをしている。
唾液が溢れ、呑み込まれずに唇の端からこぼれた。
必死に彼について行こうとするのに、もう身体中が弛緩して立っていることもできない。
骨抜きにされるっていうのは、こういうことを言うんだろうか。
相手は、まだ高校生の男の子なのに……。
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