【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪

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ロミオとジュリエットと時々、神父。

66話

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 考えれば、考えるほど、社会人として情けなさ過ぎる。
 顔を上げるのも恥ずかしかったが、いつまでも高校生に首根っこをつかまれているのもさらに恥ずかしい。
「リョウ。女性に対して、その態度は、失礼ですよ。あなたらしくない」
 その言葉に、織部くんはわたしの首から手を放してくれた。
 でも、すぐにわたしの二の腕をつかんで引き寄せてしまう。まるで、聞き分けのない犬のリードを引っ張るみたいだ。
 不満と恥ずかしさに、相手の顔など見られる状況ではなかったけど、好奇心のほうが勝る。
 さっき織部くんは、この人のこと“神父”って呼んでたよね。
 織部くんの後ろから、恐る恐る様子をうかがうと、目の前にいたのは、黒い司祭服を着た神父だった。
 白いローマンカラー。首から下げられた大きな数珠みたいな珠を連ねた十字架。
 金髪碧眼の大柄な西洋人。
 声から想像していたよりも若く見えるのは、優しそうな面差しのせいかもしれない。
 学校で遠目に見た聖職者たちは、かなり年配で、きびしそうな雰囲気の人たちだったから。

「初めまして、お嬢さん。わたくしは、レオンハルト。神学を担当しております」
 外国人から丁寧なお辞儀をされて、わたしはあわてた。
 自己紹介をする前に、織部くんが答える。
「これは、志野。俺の婚約者です」
 ……え?
 完全にフリーズするわたしの横で、織部くんは、淡々と続ける。
「本来であれば受付を通してロビーで面会するべきでありましたが、面会時間外でもありましたので、こちらへ通しました」
 こ、……婚約?!
 いつ、どこで、婚約なんてしたっけ?
 わたしだって、できるのなら、織部くんと結婚したい……って思ってたけど……。
 いきなり婚約者なんて?!
 そもそも結婚なんて、話したこともないのに。
 わたしのことをからかって、楽しんでいるの?
 それとも便宜上、ここだけで言ってることなの?
 織部くんは、憎らしいほど落ち着きはらっている。
 わたしだけが、彼の言葉に振り回されているばかりだ。なんだか悔しい。

「彼女をこちらへ通したのは、俺の独断です。申し訳ありません」
「確かに、妙齢の女性がいらっしゃるのは、騒ぎになるかもしれませんね」
 そう言いながら神父は、目を細めてわずかに微笑んだ。
「特に、こんな仔猫のような可愛らしいお嬢さんであれば、なおのこと……」
 猫というのは、今のわたしの状況を言っているのだろうか。
 優しげなのは、その外見だけで、ずいぶんな皮肉屋だ。
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