【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪

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彼のお仕置き。

58話

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「まだ泣いているのか?」
 耳もとで織部くんの低い声が囁かれる。
 彼の息がかかって、ぞくぞくっと身体が震えてしまう。
「そんなに痛かったのか」
 見上げると困ったような、それとも心配しているのか。なんともいえない織部くんの顔がある。
 表情が変わらないのになぜ、そんなことが判るのだろう。
 でも、わたしには、感じられる。
 今の彼がわたしを気遣ってくれているのが、わたしの痛みを理解しようとしてくれているのが……。
「ち、違うの……もう痛くない」
 あわててわたしは言った。本当にお尻はもう痛くなかった。
 ぶたれたショックが大きすぎて、ものすごく痛いような感じがしただけだったみたい。

「そうか」
 織部くんは、わたしの頬をくちづけた。
 涙の痕を舐めとるようにして、彼の舌と唇がわたしの顔をゆっくりと撫でるのだ。ビロードみたいな感触。
 くすぐったいのに、気持ちいい。
 わたしは、織部くんの膝の上で、身体を縮みこませた。
 織部くんの唇は、頬から顎を伝って、首筋まで降りてくる。
 ざわざわっとした感じが背筋にきた。
 あれ?……と思っているうちに、ブラウスのボタンを一つずつ外された。
 え、まさか。こんなところで?
 でも、でも、織部くんがすごく、あの……わたしに感じてくれているのが、はっきりと分かる。だから、抵抗できない……っていうより、したくない。
 頭の中で、どこか冷静な自分がいて「ここをどこだと思っているの?! 場所を考えなさい!!」と叫んでいるのに、聞こえないふりしてるダメなわたし。
 こんなときは、絶対に“冷静な自分”の言葉を聞くべきなのに、意志の弱いわたしは流されてしまう。
 そうやって流されっぱなしだから、路上でパンツまで脱がされちゃうんだ。
 わたしのバカ。

 心臓の音がただことではないほど激しい。身体の奥でものすごい勢いで脈打っている。
 ブラウスの前身ごろが開かれる。
 明るい照明の下で、白いキャミソールとブラジャーが見えた。
 それを見た瞬間、わたしは頭からバケツの水をかけられたような気がした。
 よりによって、こんな時にこんな物をわたしは着ているんだろうか。

 光沢のあるサテンジョーゼットに小さな苺の模様がプリントされている。
 ピンクのリボンとフリルが、さらに子供っぽさを強調していた。
 勝負下着どころか、残念感が重く漂う。
 今日は織部くんに会うこともないと思っていたから着てしまったわけで……いや、違う。
 彼と会うことになっていたとしても、下着なんて見せちゃいけないんだってば。
 とにかく、この事態は想定外だ。
 ネット通販で選んだ時には、ちょっとカワイイ系のつもりだったんだけど写真で見たよりも現物は幼すぎて、気の抜けた感じ。
 女としても終わってる。
 わたしは、あわてて見られまいとして胸元を隠した。
 この状況にいたって、またしても“冷静な自分”が訴える。――下着のことより、今の状況は危険すぎる。犯罪だ。
 学校の中で、この状況は“男子高校生を誘惑した女”ということになる。
 やっぱり、まずい。
 “不純異性交遊”に、“青少年保護育成条例”だ。
 確実に逮捕される。
 その上、学校に潜り込んだ“家宅侵入罪”まで加わると、弁解の余地もない。
 “恋は盲目”っていうけど今のわたしは、確実に冷静な判断力が皆無だ。
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