【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪

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彼のお仕置き。

56話

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「ふえっ、えっぐ……えっ、えっぐぅ」
「痛いか?」
「……う、ん……ぇぐずっ……ふぇ……っ」
「返事してるのか、ハナをすすっているのか判らんな」
「痛いよぉおぉおっ!」
「そうか。痛いか」
 なんだろう。
 織部くんの声が嬉しそうな気がする。織部くんは、そっちの趣味があるんだろうか。
 わたしはムリだ。痛いばっかりで、変な扉が開いたりしないから。
 ノーマルなんだってば!!!
 ホントにこれ、辛いよ。

「……痛いってば」
 べそをかきながら答えると、織部くんはわたしの脇の下に手を差し入れて、子供を抱き上げるみたいに軽々と持ち上げた。
 そのまま膝の上に乗せようとするので、あわててわたしは抵抗した。
「やっ、やらっ!!」
「おとなしくしてろ。痛くしないから」
 そっと膝の上に降ろされるのを、我慢して耐える。お尻は、熱をもってじんじんしている。
「ほら、ハナをかめ」
 手近にあったティッシュをぐりぐりと、わたしの顔に押しつけてくる。
 ハナをかめと言われて、どうしろというのか。
 自分でするのなら、ともかく……どうして、そんなお世話までしようというのか。
 ためらっていると鼻も目もごっちゃに拭かれた。
 乱暴なようで、意外と丁寧な扱いをしてくれる。おかげで、すっきりすることができた。
 わたしは、ようやく落ち着きを取り戻して、彼の顔を見上げる。
 年上の恋人のお尻をぶつようには見えないほど、涼やかな美貌。
 そんな場合でもないのに、またしても見惚れてしまいそうになる自分が情けない。

「俺も痛かったんだぞ。お前の名前があの店にあったのを見て」
「え、名前って?」
「予約していただろう」
「し、してないよ!」
 とんでもない誤解だわ。
 必死になって答えると、織部くんはわたしの顔をじっと凝視した。

「………………本当か」
 なんだ。その間は?
 信用されていないのか。
「本当だって、あの店行くのも初めてだったし」
「それなら、なぜ、お前の名前が」
「たぶん、伊万里がわたしの名前使ったのかも……そ、それにわたし、あんなお店なんか行かなくても、織部くんが」
 言いかけて、ちょっと織部くんの様子をうかがう。
「その……織部くんがいいの」
 何、言っちゃってるんでしょうか。わたし。
 恥ずかしすぎます。
 そう思うけど、やっぱり誤解されているのはつらい。
 だから、ちゃんと伝えるべきことは言わなきゃ……と思って、がんばってみたけどダメなの?
 織部くんは、何も答えてくれないし、表情も変わらない。
 USJのジョーズでさえ、もうちょっと愛嬌があったはずだ。

「う、嘘じゃないよ。だって、もうこれ以上お尻叩かれたら椅子に座れなくなっちゃうから、嘘なんて……言い、ませ……ん」
 だめだ。正直に話しているのに、語尾がちいさくなっていく。
 なんで、こっちのほうが年上なのに敬語になってしまうのか。相手は高校生なのに。
 情けない。
 身についた奴隷根性なのか。
 って、違う。違うぞ。
 決してわたしは、調教なんてされてない。
 そっちの世界には、まったく全然、皆目、一切、これっぽっちも興味ないんだって。
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