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女人禁制の部屋。
54話
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目の前にいる織部くんが、だんだん遠くになってしまいそうで泣きたくなってきた。
ダメだ。鼻の奥がつんと熱くなって、本当に涙出てきた。泣くな。わたし!
ここは、大事な話し合いの場だ。泣いてちゃ、話にならない。
「何よ。ゲームしてたことには、否定しないのれ」
しまった。また噛んだ。
織部くんがちょっと呆れた顔してる。……もっともあんまり表情が変わらないので、そんな気がするだけなんだけど。
「そ、それじゃやっぱり他の女の子の前で、“野球拳”とかしたんだ。じゃんけんで負けるたびに一枚一枚脱いでた……んら」
涙をこらえていると、その水分が鼻の方へ抜けてくる。
怒っているはずなのに、だんだん間抜けな鼻声になってしまう。おちつけ、わたし!
「どこから、脱衣ゲームになったんだ。中途半端な知識ばっかり持っているな。お茶屋遊びなら負けたら罰杯だ。負けたほうが酒を飲むんであって脱衣はしない」
「未成年だから呑め、ないくしぇ、に!!」
「飲んでなければ、脱ぎもしていない。このバカが」
「どうせ、バカよ! わたしなんてアナタから見たら脳みそないのよ。ペンギンなのよ。よくって、クマムシなんら」
「ペンギンにクマムシだと……?」
織部くんは眉間に皺を寄せて、こちらを見下ろした。
年下の織部くんより、遥かに頭の悪い発想しか浮かばない自分がなさけない。
相も変わらず表情は変わらない。見ているだけで怒りとも、悲しいとも自分でも収集のつかないもやもやとした気持ち胸の奥から込み上げてきた。
そんな難しい顔したって、やっぱりカッコいいじゃないですか。
どうせ、一般人のわたしとはつり合いがとれません。あなたが王子さまなら、わたしはド庶民です。
そばにあったティッシュを勝手に失敬して、思いっ切り鼻をかんでやった。
もう散々恥ずかしいところを見せてきたんだ。
「どうせ、そうですよ。わたしの頭なんて、釘の打てるバナナほどの値打ちもないのよ」
「いや、バナナで釘は打てないだろうが、どこからそんな話になったんだ」
「もう、いい。どうせ、陰獣なんだから!」
「インジュウってなんだ。また、くだらない本でも読んだのか」
「読んでないよ。BLは、伊万里の趣味だもん」
「BLってなんだ。変に略すな」
「ぼ、ぼ、ぼーいずらぶ」
「ボーイズラブ? なんだ。それは」
「…………しょ、少年野球の、チーム名……!」
余計なことを言ってしまった。
とっさに、ごまかしたつもりだが話が変な方向へきたぞ。
こっちが怒っていたはずなのに、妙に冷静な彼のペースにはめられてしまっているような気がする。
「嘘だろう?」
眉一つ動かさずに、織部くんが言う。
ぞわっと、背中に悪寒が走った。
どうしよう。どこかで地雷を踏んだのかもしれない。
膝がぶつかりそうなほど、織部くんが近づいてくる。こちらは椅子に座ったままだから後ろに下がることもできない。背後は机だ。
いきなり腕をつかまれたかと思うと、強引に椅子から立ち上がらされた。
そのままベッドの上に放りだされて、顔面からのダイブ。
マットレスがあったとしても、これはキツイ。シーツに魚拓ならぬ顔拓がついたら恥ずかしすぎる。
「ひどい!!」
あせって身体を起こしかけたところを押さえ込まれる。ウエストをつかまれたかと思うと、そのまま持ち上げられた。
なんだ、この状況?!
ダメだ。鼻の奥がつんと熱くなって、本当に涙出てきた。泣くな。わたし!
ここは、大事な話し合いの場だ。泣いてちゃ、話にならない。
「何よ。ゲームしてたことには、否定しないのれ」
しまった。また噛んだ。
織部くんがちょっと呆れた顔してる。……もっともあんまり表情が変わらないので、そんな気がするだけなんだけど。
「そ、それじゃやっぱり他の女の子の前で、“野球拳”とかしたんだ。じゃんけんで負けるたびに一枚一枚脱いでた……んら」
涙をこらえていると、その水分が鼻の方へ抜けてくる。
怒っているはずなのに、だんだん間抜けな鼻声になってしまう。おちつけ、わたし!
「どこから、脱衣ゲームになったんだ。中途半端な知識ばっかり持っているな。お茶屋遊びなら負けたら罰杯だ。負けたほうが酒を飲むんであって脱衣はしない」
「未成年だから呑め、ないくしぇ、に!!」
「飲んでなければ、脱ぎもしていない。このバカが」
「どうせ、バカよ! わたしなんてアナタから見たら脳みそないのよ。ペンギンなのよ。よくって、クマムシなんら」
「ペンギンにクマムシだと……?」
織部くんは眉間に皺を寄せて、こちらを見下ろした。
年下の織部くんより、遥かに頭の悪い発想しか浮かばない自分がなさけない。
相も変わらず表情は変わらない。見ているだけで怒りとも、悲しいとも自分でも収集のつかないもやもやとした気持ち胸の奥から込み上げてきた。
そんな難しい顔したって、やっぱりカッコいいじゃないですか。
どうせ、一般人のわたしとはつり合いがとれません。あなたが王子さまなら、わたしはド庶民です。
そばにあったティッシュを勝手に失敬して、思いっ切り鼻をかんでやった。
もう散々恥ずかしいところを見せてきたんだ。
「どうせ、そうですよ。わたしの頭なんて、釘の打てるバナナほどの値打ちもないのよ」
「いや、バナナで釘は打てないだろうが、どこからそんな話になったんだ」
「もう、いい。どうせ、陰獣なんだから!」
「インジュウってなんだ。また、くだらない本でも読んだのか」
「読んでないよ。BLは、伊万里の趣味だもん」
「BLってなんだ。変に略すな」
「ぼ、ぼ、ぼーいずらぶ」
「ボーイズラブ? なんだ。それは」
「…………しょ、少年野球の、チーム名……!」
余計なことを言ってしまった。
とっさに、ごまかしたつもりだが話が変な方向へきたぞ。
こっちが怒っていたはずなのに、妙に冷静な彼のペースにはめられてしまっているような気がする。
「嘘だろう?」
眉一つ動かさずに、織部くんが言う。
ぞわっと、背中に悪寒が走った。
どうしよう。どこかで地雷を踏んだのかもしれない。
膝がぶつかりそうなほど、織部くんが近づいてくる。こちらは椅子に座ったままだから後ろに下がることもできない。背後は机だ。
いきなり腕をつかまれたかと思うと、強引に椅子から立ち上がらされた。
そのままベッドの上に放りだされて、顔面からのダイブ。
マットレスがあったとしても、これはキツイ。シーツに魚拓ならぬ顔拓がついたら恥ずかしすぎる。
「ひどい!!」
あせって身体を起こしかけたところを押さえ込まれる。ウエストをつかまれたかと思うと、そのまま持ち上げられた。
なんだ、この状況?!
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