【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪

文字の大きさ
上 下
45 / 92
執事のいるカフェ。

45話

しおりを挟む
 いきなり織部くんの手がわたしの膝頭に触れる。
 身体が跳ね上がるように反応してしまう。
 膝の上で円を描くように指先で撫でられた。
 それだけで産毛が総毛立つ。
 くすぐったいだけじゃない。もっと別の感覚。……何、これ。
 ただ、膝を触られているだけなのに。
 身体が、じんわりと熱くなってくる。

「どうした。やましいことはないんだろう」
「な、ななな……なぃ」
 かろうじて言えた。でも、説得力がなさすぎる。
 身体の震えがとまらない。ぞくぞくしているのに身体が、顔が、ひどくほてる。
「ふっ……ふわぁ……あ」
 椅子の肘掛の部分をしっかりと握り締めて堪えていた。
 膝に彼の指先が触れているだけなのに。

「備前が触ったときにも、こんなだったのか……お前」
 底冷えのするような声でなじられて、わたしは必死で首を横に振った。
 備前……特徴のある苗字を思い出した。彼の同級生だ。
 最初にどこかで見た気がしたのは、気のせいではなかった。彼の学校で見たのだ。
 それじゃ、席へ案内してナプキンを置いてくれた執事は、備前くんだったのか。
 伊万里をトイレに連れて行ったのも、そうなの。
 何、ここ執事カフェじゃなくて、男子校カフェ?
 それも超有名ミッション系進学校の生徒。なんだか豪勢だ……って違う。
 よそごとを考えて、少しでも気を紛らわそうとするけど、頭と身体の中がまるで別々になったみたい。
 織部くんの触れた部分から足の付け根にかけて、じんじんと熱が伝わっていく。
 何、これって!?
 伊万里が言ってたヒートって、この状態なの?
 わたしの月経周期はどうだっけ。
 嘘でしょ。わたしは、犬なの?!
 早くトイレから帰ってきてよ。伊万里、何やってんのよ。
 いや、この場合、伊万里がいてもどうにもならない。
 むしろ面白がられるのがオチだ。やっぱり帰ってこなくていい。伊万里!!



 ふいに織部くんの手が、わたしの膝から離れた。
 あっと、思う間もなく今度は頬に伸びてくる。
 長い指先がわたしの頬をつまんで、そのまま横に引っ張った。
 痛くはないけど、わたしの顔は横にひしゃげたカエルか、潰れた大福みたいになっているんじゃないの。
「ひゃ、ひゃめれ……!」
「俺に飽きたのか」
 アキ……た?
 言われている意味を考えるより、今の自分のカエル顔を見られている事実のほうがきつい。
 もう泣きそう。
 さらに、織部くんはわたしの頬を引っ張った。
 強くつねっているわけじゃないから痛みはないけど、そんなことされたら、ますます顔が横に伸びてしまう。
「ひゃふ?」
 自分でも意味不明な言葉を発してしまう。恥ずかしさもマックス。
 発情中の犬から、カエルになったみたい。
 哺乳類から爬虫類に降格。いや、違う。カエルは両生類だっけ。
 よりによって、織部くんの前でこんなバカヅラを公開するなんて、精神的拷問だ。むご過ぎる。
 ……切実に死にたい。



「……俺は、お前から見たら……」
 一度、言葉を途切れさせてから、織部くんは手を放した。
 あれ。
 いつもの織部くんなら、こんなふうに言葉を濁したりしない。
 びっくりして、彼のほうを見た。
 目が合うと先に織部くんのほうが避ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~

花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】 この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。 2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて…… そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。 両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!? 「夜のお相手は、他の女性に任せます!」 「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」 絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの? 大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ! 私は私の好きにさせてもらうわ! 狭山 聖壱  《さやま せいいち》 34歳 185㎝ 江藤 香津美 《えとう かつみ》  25歳 165㎝ ※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。 断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。 夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。 パリで出会ったその美人モデル。 女性だと思っていたら――まさかの男!? 酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。 けれど、彼の本当の姿はモデルではなく―― (モデル)御曹司×駆け出しデザイナー 【サクセスシンデレラストーリー!】 清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー 麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル) 初出2021.11.26 改稿2023.10

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。

青花美来
恋愛
【幼馴染×シークレットベビー】 東京に戻ってきた私には、小さな宝物ができていた。

処理中です...