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執事のいるカフェ。

45話

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 いきなり織部くんの手がわたしの膝頭に触れる。
 身体が跳ね上がるように反応してしまう。
 膝の上で円を描くように指先で撫でられた。
 それだけで産毛が総毛立つ。
 くすぐったいだけじゃない。もっと別の感覚。……何、これ。
 ただ、膝を触られているだけなのに。
 身体が、じんわりと熱くなってくる。

「どうした。やましいことはないんだろう」
「な、ななな……なぃ」
 かろうじて言えた。でも、説得力がなさすぎる。
 身体の震えがとまらない。ぞくぞくしているのに身体が、顔が、ひどくほてる。
「ふっ……ふわぁ……あ」
 椅子の肘掛の部分をしっかりと握り締めて堪えていた。
 膝に彼の指先が触れているだけなのに。

「備前が触ったときにも、こんなだったのか……お前」
 底冷えのするような声でなじられて、わたしは必死で首を横に振った。
 備前……特徴のある苗字を思い出した。彼の同級生だ。
 最初にどこかで見た気がしたのは、気のせいではなかった。彼の学校で見たのだ。
 それじゃ、席へ案内してナプキンを置いてくれた執事は、備前くんだったのか。
 伊万里をトイレに連れて行ったのも、そうなの。
 何、ここ執事カフェじゃなくて、男子校カフェ?
 それも超有名ミッション系進学校の生徒。なんだか豪勢だ……って違う。
 よそごとを考えて、少しでも気を紛らわそうとするけど、頭と身体の中がまるで別々になったみたい。
 織部くんの触れた部分から足の付け根にかけて、じんじんと熱が伝わっていく。
 何、これって!?
 伊万里が言ってたヒートって、この状態なの?
 わたしの月経周期はどうだっけ。
 嘘でしょ。わたしは、犬なの?!
 早くトイレから帰ってきてよ。伊万里、何やってんのよ。
 いや、この場合、伊万里がいてもどうにもならない。
 むしろ面白がられるのがオチだ。やっぱり帰ってこなくていい。伊万里!!



 ふいに織部くんの手が、わたしの膝から離れた。
 あっと、思う間もなく今度は頬に伸びてくる。
 長い指先がわたしの頬をつまんで、そのまま横に引っ張った。
 痛くはないけど、わたしの顔は横にひしゃげたカエルか、潰れた大福みたいになっているんじゃないの。
「ひゃ、ひゃめれ……!」
「俺に飽きたのか」
 アキ……た?
 言われている意味を考えるより、今の自分のカエル顔を見られている事実のほうがきつい。
 もう泣きそう。
 さらに、織部くんはわたしの頬を引っ張った。
 強くつねっているわけじゃないから痛みはないけど、そんなことされたら、ますます顔が横に伸びてしまう。
「ひゃふ?」
 自分でも意味不明な言葉を発してしまう。恥ずかしさもマックス。
 発情中の犬から、カエルになったみたい。
 哺乳類から爬虫類に降格。いや、違う。カエルは両生類だっけ。
 よりによって、織部くんの前でこんなバカヅラを公開するなんて、精神的拷問だ。むご過ぎる。
 ……切実に死にたい。



「……俺は、お前から見たら……」
 一度、言葉を途切れさせてから、織部くんは手を放した。
 あれ。
 いつもの織部くんなら、こんなふうに言葉を濁したりしない。
 びっくりして、彼のほうを見た。
 目が合うと先に織部くんのほうが避ける。
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