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執事のいるカフェ。
44話
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「な、なななななな、何……してる……の。織部くん!!!!」
まるで酸欠寸前の金魚のように、ぱくぱくと口を動かしながら、ようやくそれだけ言った。
「ようやく、お気づきになりましたね。お嬢様」
織部くんは、唇の端だけをきゅっと上げて笑った。
何よ。その冷たい笑顔……怖い。本気で怖すぎるよ。
「そのわざとらしい敬語、止めてよ」
「優衣お嬢様は、“これ”がお好みではないのですか」
「は、は、はい……いや、違う!!!!」
うっかり返事をしてしまった。
ヤバイと思ったときには、もう遅い。
別に好みなんかじゃない。強く言われて、つい返事しただけであって……。
でも、そんな言い訳が通じる相手ではない。
何も言えないでいると、織部くんは下から睨みつけてくる。
織部くんの背後に暴風雪が吹き荒れているみたいだ。
今のわたしは、南極の昭和基地にいる。
「なぜ、お嬢様がこんな場所にいらっしゃるのですか」
声のトーンがいちだんと低くなる。
ますます怖い。
本気で怒ってるかもしれない。
会社の同僚に誘われて初めてきたキャバクラで、なぜかキャバ嬢になっている妻と遭遇した夫の気分。
わたしも悪いかもしれないけど、そっちだって執事カフェでバイトしてるなんて聞いてない。わたしというものがありながら……とか言い返してやろうか。
「お、織部くんこそ……なんなの。そのかっこ……ぅ」
強気に出ようとして失敗した。気がつくと語尾が小さくなっていく。
妻の尻に敷かれた気の弱い夫の立場って、こんなものだろうか。
「わたくしという執事がありながら、なぜお嬢様はこんなところへいらしたのですか。わたくしでは満足できませんか」
こちらが言おうとしたことを先取りされてしまった。
こんな性格の悪い執事がいるものだろうか。
膝を折りまっすぐに背中を伸ばして、こちらを見つめる姿は、執事というより王子さまのほうがお似合いだ。
「わ、わ、わたしは……友達に誘われただけで」
「友達に誘われたら、よその男に膝を触らせるのか」
急に、がらりと口調が変わった。
その途端、体感気温が急激に下がっていく。
南極通り越して、液体窒素に頭から突っ込まれたような気分だ。
確実に瞬間凍結されてる。
今ならバナナで釘が打てるかもしれない。
「そ、そ、そそそそ、そ、そんなこと……してないもん」
こわばる口を無理やり動かす。自分でも笑えるくらいどもってしまう。
「嘘をつけ。備前にさせていただろうが」
「ご、ごめんなさい……」
思わず、謝った。
伊万里の言う調教の成果か。
それともいつも職場で織部くんに怒られているから、すぐに謝るクセがついてしまっただけなのか。
そもそもビゼンって誰?
最近は、織部くんが図書館に来なくなったせいで、あまり叱られることもなかった。
よく考えてみると、上司に注意されるより、ただの来館者である織部くんからのお小言のほうが多い。
だからって、どうしてわたしが一方的に叱られているわけ。
織部くんだって、こんなお店でバイトしてるなんて、これも立派な浮気になるんじゃないの。
謝ってばかりではいけない。
わたしは、敢然と……ではないけど、少しだけ織部くんへの反論を試みた。
「べ、別に触らせてない。普通にナプキン置いてもらっただけで、そんなやましいことなん、れ」
噛んだ。
言い直そうとしたけど、もはやわたしの気合いと根性は、擦り切れてしまった。
織部くんは、ひざまずいているから自然と下からこちらを見上げる形になっているはずなのに。
なぜだろう。見下げられてる気がするのは……。
まるで酸欠寸前の金魚のように、ぱくぱくと口を動かしながら、ようやくそれだけ言った。
「ようやく、お気づきになりましたね。お嬢様」
織部くんは、唇の端だけをきゅっと上げて笑った。
何よ。その冷たい笑顔……怖い。本気で怖すぎるよ。
「そのわざとらしい敬語、止めてよ」
「優衣お嬢様は、“これ”がお好みではないのですか」
「は、は、はい……いや、違う!!!!」
うっかり返事をしてしまった。
ヤバイと思ったときには、もう遅い。
別に好みなんかじゃない。強く言われて、つい返事しただけであって……。
でも、そんな言い訳が通じる相手ではない。
何も言えないでいると、織部くんは下から睨みつけてくる。
織部くんの背後に暴風雪が吹き荒れているみたいだ。
今のわたしは、南極の昭和基地にいる。
「なぜ、お嬢様がこんな場所にいらっしゃるのですか」
声のトーンがいちだんと低くなる。
ますます怖い。
本気で怒ってるかもしれない。
会社の同僚に誘われて初めてきたキャバクラで、なぜかキャバ嬢になっている妻と遭遇した夫の気分。
わたしも悪いかもしれないけど、そっちだって執事カフェでバイトしてるなんて聞いてない。わたしというものがありながら……とか言い返してやろうか。
「お、織部くんこそ……なんなの。そのかっこ……ぅ」
強気に出ようとして失敗した。気がつくと語尾が小さくなっていく。
妻の尻に敷かれた気の弱い夫の立場って、こんなものだろうか。
「わたくしという執事がありながら、なぜお嬢様はこんなところへいらしたのですか。わたくしでは満足できませんか」
こちらが言おうとしたことを先取りされてしまった。
こんな性格の悪い執事がいるものだろうか。
膝を折りまっすぐに背中を伸ばして、こちらを見つめる姿は、執事というより王子さまのほうがお似合いだ。
「わ、わ、わたしは……友達に誘われただけで」
「友達に誘われたら、よその男に膝を触らせるのか」
急に、がらりと口調が変わった。
その途端、体感気温が急激に下がっていく。
南極通り越して、液体窒素に頭から突っ込まれたような気分だ。
確実に瞬間凍結されてる。
今ならバナナで釘が打てるかもしれない。
「そ、そ、そそそそ、そ、そんなこと……してないもん」
こわばる口を無理やり動かす。自分でも笑えるくらいどもってしまう。
「嘘をつけ。備前にさせていただろうが」
「ご、ごめんなさい……」
思わず、謝った。
伊万里の言う調教の成果か。
それともいつも職場で織部くんに怒られているから、すぐに謝るクセがついてしまっただけなのか。
そもそもビゼンって誰?
最近は、織部くんが図書館に来なくなったせいで、あまり叱られることもなかった。
よく考えてみると、上司に注意されるより、ただの来館者である織部くんからのお小言のほうが多い。
だからって、どうしてわたしが一方的に叱られているわけ。
織部くんだって、こんなお店でバイトしてるなんて、これも立派な浮気になるんじゃないの。
謝ってばかりではいけない。
わたしは、敢然と……ではないけど、少しだけ織部くんへの反論を試みた。
「べ、別に触らせてない。普通にナプキン置いてもらっただけで、そんなやましいことなん、れ」
噛んだ。
言い直そうとしたけど、もはやわたしの気合いと根性は、擦り切れてしまった。
織部くんは、ひざまずいているから自然と下からこちらを見上げる形になっているはずなのに。
なぜだろう。見下げられてる気がするのは……。
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