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執事のいるカフェ。
41話
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「そんなに落ち込まないでよ。優衣みたいな“夢見るオトメ”には、ぴったりのとこに、あたしが連れて行ってあげるわ」
伊万里は、チワワのごとく上目づかいで、こちらを見つめる。
あざとくて可愛い……いわゆる“モテしぐさ”というものらしい。
「それって、伊万里がやったら、本当に可愛いのよ」
「ありがとう。でも、コレ、優衣のモノマネなんだけど」
「わたしが、いつ、そんな恥ずかしいこと?!」
「彼の前で、よくやってるじゃない」
「う、う、う、嘘でしょ……!!!」
「あら、自覚ないのね」
困った顔をして伊万里は、小首をかしげて見せる。
そんな彼女の恥ずかしくて、普通ならできないような“モテしぐさ”は、あくまでシャレでやっていることだ。
あまりにも堂々としているので、もはや冗談とも思えなくなってきている。
でも、まさか、わたし自身が、織部くんの前でやらかしていたの?
自分がやっていたとしたら、恥ずかしさに震えが止まらない。心臓が激しく鼓動する。
「“あざとい”ってのは、計算してやっていることよ。だけど、優衣は、天然の“ボケ”だわ」
「……普通にボケているより、タチが悪いじゃない」
「サブカルでは、萌え要素なのよ。教えてあげるから、仕事が終わったら行きましょ!」
「え?」
「執事カフェよ」
「…………なんで?」
伊万里の発想は飛んでいる。どこから執事カフェなんて話の流れになるんだ。
っていうか、執事カフェって、何?
「だって、彼がドS王子でしょ。それなら、たまには自分がお嬢様になって仕えられる立場になってみたら?」
「……お、織部くんはドSじゃないよ。ただ、ただ意地悪なだけで、いや、違う。意地悪じゃない。ホントは優しいよ」
「その優しい彼が、どんな変態的な行為を迫ってくるのよ?」
「変態じゃないってば!」
「でも、路上で変なプレイをしかけてくるんじゃないの?」
「な、なななな、何、それ」
「首に縄つけて、裸で夜道を徘徊したとか?」
「誰がそんなことするのよ!!!」
「それじゃ、ノーパンで外を歩かせるとか?」
「ちゃんと返してくれたよ!!!」
「は?」
「パンツ!!!」
勢いで叫んでしまった。
親子連れの来館者が目の前を通り過ぎて行く。
“ツ”の口のまま動けない。
さっきまで、賑やかだったママ友グループのおしゃべりが途絶えた。
周囲の冷たい視線が突き刺さるような気がする。
幼稚園児らしき子供が「あのお姉ちゃん、パンツだって」と母親に訴えている声が聞こえた。
ああ、今この瞬間から、わたしの館内での呼び名は“パンツのお姉ちゃん”だ。
伊万里が“不思議の国のアリス”に出てくるチェシャ猫そっくりのニヤニヤ笑いを浮かべてこちらを見ている。
「今の優衣は、彼だけで頭がいっぱいなのよ。これまでの恋愛経験が少ないせいね」
伊万里の言葉は、当たっている。
わたしにとって、織部くんは初めての恋人だから。
彼の言動に一喜一憂して、自分でも自分の感情をうまくコントロールできない。
何をどうしたらいいのかさえ、判らないでいる。
わたしのほうが年上なのに、この状態がいいわけない。
「だから、彼からの無茶な要求に、何でも応えようとするの。違う?」
「そ、そんなことは……」
“ない”とは言い切れない。
伊万里は、チワワのごとく上目づかいで、こちらを見つめる。
あざとくて可愛い……いわゆる“モテしぐさ”というものらしい。
「それって、伊万里がやったら、本当に可愛いのよ」
「ありがとう。でも、コレ、優衣のモノマネなんだけど」
「わたしが、いつ、そんな恥ずかしいこと?!」
「彼の前で、よくやってるじゃない」
「う、う、う、嘘でしょ……!!!」
「あら、自覚ないのね」
困った顔をして伊万里は、小首をかしげて見せる。
そんな彼女の恥ずかしくて、普通ならできないような“モテしぐさ”は、あくまでシャレでやっていることだ。
あまりにも堂々としているので、もはや冗談とも思えなくなってきている。
でも、まさか、わたし自身が、織部くんの前でやらかしていたの?
自分がやっていたとしたら、恥ずかしさに震えが止まらない。心臓が激しく鼓動する。
「“あざとい”ってのは、計算してやっていることよ。だけど、優衣は、天然の“ボケ”だわ」
「……普通にボケているより、タチが悪いじゃない」
「サブカルでは、萌え要素なのよ。教えてあげるから、仕事が終わったら行きましょ!」
「え?」
「執事カフェよ」
「…………なんで?」
伊万里の発想は飛んでいる。どこから執事カフェなんて話の流れになるんだ。
っていうか、執事カフェって、何?
「だって、彼がドS王子でしょ。それなら、たまには自分がお嬢様になって仕えられる立場になってみたら?」
「……お、織部くんはドSじゃないよ。ただ、ただ意地悪なだけで、いや、違う。意地悪じゃない。ホントは優しいよ」
「その優しい彼が、どんな変態的な行為を迫ってくるのよ?」
「変態じゃないってば!」
「でも、路上で変なプレイをしかけてくるんじゃないの?」
「な、なななな、何、それ」
「首に縄つけて、裸で夜道を徘徊したとか?」
「誰がそんなことするのよ!!!」
「それじゃ、ノーパンで外を歩かせるとか?」
「ちゃんと返してくれたよ!!!」
「は?」
「パンツ!!!」
勢いで叫んでしまった。
親子連れの来館者が目の前を通り過ぎて行く。
“ツ”の口のまま動けない。
さっきまで、賑やかだったママ友グループのおしゃべりが途絶えた。
周囲の冷たい視線が突き刺さるような気がする。
幼稚園児らしき子供が「あのお姉ちゃん、パンツだって」と母親に訴えている声が聞こえた。
ああ、今この瞬間から、わたしの館内での呼び名は“パンツのお姉ちゃん”だ。
伊万里が“不思議の国のアリス”に出てくるチェシャ猫そっくりのニヤニヤ笑いを浮かべてこちらを見ている。
「今の優衣は、彼だけで頭がいっぱいなのよ。これまでの恋愛経験が少ないせいね」
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彼の言動に一喜一憂して、自分でも自分の感情をうまくコントロールできない。
何をどうしたらいいのかさえ、判らないでいる。
わたしのほうが年上なのに、この状態がいいわけない。
「だから、彼からの無茶な要求に、何でも応えようとするの。違う?」
「そ、そんなことは……」
“ない”とは言い切れない。
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