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執事のいるカフェ。
39話
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「それって調教の成果ってとこかしらね」
「ぶっ!」
わたしは、ペットボトルのお茶を吹き出した。
あわててハンカチで口を押さえるが、飲んでいたお茶が気管に入ったらしく、咳が止まらない。
「あら、図星?」
澄ました顔で言う友人が憎らしい。
「な、な、なんでそうなるのよ」
「だって、優衣がそう言ったじゃない」
「言ってない。ない。ない。ない。ひとことも言ってない!!」
図書館のラウンジだ。自動販売機を設置しているから、職員だけではなく、来館者も利用する。
声を潜めているつもりが、ついつい大きくなってしまう。
思わず、口を押えて周囲を見回した。
小さな子供をつれたお母さんたちのグループがあったが、おしゃべりに夢中で、こちらには気づいていないようだ。
「だって、優衣ってば、彼とキスしたんでしょ」
なんで、こんな話になったんだろう。
誰にも知られちゃいけない関係なのに、彼と一緒に過ごした時間が嬉しくて、翌日になっても、わたしは浮かれてしまっているらしい。
気がつけば、まんまと誘導されて口が滑ってしまったのだ。
「な、な、な、な、なん、なんで、そ、それが調教って」
「路チュー」
奇妙な言い回しを伊万里はした。
ピンクのグロスを塗った唇に人差し指を当てて、思わせぶりな目つきをする。
伊万里は女のわたしから見ても、かなり美人だ。
背も高くてモデルみたいだから、そんな芝居がかかったポーズもよく似合う。
同じことをわたしがやったら、不審者として通報される。
「変な略しかたしないで。路上駐車じゃないんだから」
「チューだけじゃないんでしょ」
「…………」
返事はしない。うかつなことを言えば、そこから追求が始まるからだ。
とにかく落ち着くために、お茶を飲む。
わたしは、つくづく美人に弱い。
自分には縁のないものだからかもしれない。
美しいというだけで、すべては許されてしまう……ような気がする。
織部くんも、もしかしたらあの奇麗な顔に見惚れているうちに言いなりになってしまうのか。
もっとも彼の場合は、顔だけではなくて、いろいろ強引すぎるところがあるんだけど。
いつのまにか、織部くんのペースに巻き込まれているのだ。
後になって、冷静になったときに自分のしでかしたことを思い知らされる。
……死にたい。
「いくら夜道でも、外でイロイロしちゃうのはどうかと思うの」
「ぼはっ!!」
さらにわたしは、むせた。
「あらあら……。まったく年上の恋人がこんなんじゃ彼もたいへんよね」
こぼしたお茶を、手際よく伊万里が拭いてくれる。
わたしは、その場で硬直してしまった。
「優衣は、本当に判りやすい子ね」
「な、なん、なななな、なっ!」
「なんで、そんなこと知っているの。って、言いたいわけね」
「だっ、だ、だだ、だかっ」
「だから、どうしてわたしの言いたいことが判るのよ。……かしら?」
もうそれ以上、わたしは何も言えなくて、ひたすら口をぱくぱくさせていた。
「だって、あたし、優衣に盗聴器つけていたから、全部お見通しなのよ」
えへっと、伊万里は可愛らしく舌を出した。
一瞬にして、わたしはフリーズ状態になる。脳が考えることを拒絶した。
「やだ。冗談よ。優衣ってば、嘘、嘘」
わたしが生ける屍となったのを、心配しているらしい。
両手を目の前で振って、あわてて覗き込んできた。
かろうじて、わたしの脳は再起動する。
「う、……嘘って、それじゃ……なんで歳のこととか……」
本当にどこかで見てたんじゃないでしょうね。
伊万里なら、本気で盗聴器を仕掛けかねない。
「優衣の彼って、あのカトリック系の超有名進学校の生徒でしょ。ってか、外見は落ち着きすぎて生徒って感じじゃないけど、あの制服は目立つもんね」
今まで必死に隠してきたことを、あっさりと見抜かれて、わたしは目の前が真っ白になった。
「な、なんで、そこまで知ってるのよ」
「彼がきた時の優衣の挙動不審な態度は、誰が見てもすぐに判るわよ。あれで隠してるつもりだったの」
「ぶっ!」
わたしは、ペットボトルのお茶を吹き出した。
あわててハンカチで口を押さえるが、飲んでいたお茶が気管に入ったらしく、咳が止まらない。
「あら、図星?」
澄ました顔で言う友人が憎らしい。
「な、な、なんでそうなるのよ」
「だって、優衣がそう言ったじゃない」
「言ってない。ない。ない。ない。ひとことも言ってない!!」
図書館のラウンジだ。自動販売機を設置しているから、職員だけではなく、来館者も利用する。
声を潜めているつもりが、ついつい大きくなってしまう。
思わず、口を押えて周囲を見回した。
小さな子供をつれたお母さんたちのグループがあったが、おしゃべりに夢中で、こちらには気づいていないようだ。
「だって、優衣ってば、彼とキスしたんでしょ」
なんで、こんな話になったんだろう。
誰にも知られちゃいけない関係なのに、彼と一緒に過ごした時間が嬉しくて、翌日になっても、わたしは浮かれてしまっているらしい。
気がつけば、まんまと誘導されて口が滑ってしまったのだ。
「な、な、な、な、なん、なんで、そ、それが調教って」
「路チュー」
奇妙な言い回しを伊万里はした。
ピンクのグロスを塗った唇に人差し指を当てて、思わせぶりな目つきをする。
伊万里は女のわたしから見ても、かなり美人だ。
背も高くてモデルみたいだから、そんな芝居がかかったポーズもよく似合う。
同じことをわたしがやったら、不審者として通報される。
「変な略しかたしないで。路上駐車じゃないんだから」
「チューだけじゃないんでしょ」
「…………」
返事はしない。うかつなことを言えば、そこから追求が始まるからだ。
とにかく落ち着くために、お茶を飲む。
わたしは、つくづく美人に弱い。
自分には縁のないものだからかもしれない。
美しいというだけで、すべては許されてしまう……ような気がする。
織部くんも、もしかしたらあの奇麗な顔に見惚れているうちに言いなりになってしまうのか。
もっとも彼の場合は、顔だけではなくて、いろいろ強引すぎるところがあるんだけど。
いつのまにか、織部くんのペースに巻き込まれているのだ。
後になって、冷静になったときに自分のしでかしたことを思い知らされる。
……死にたい。
「いくら夜道でも、外でイロイロしちゃうのはどうかと思うの」
「ぼはっ!!」
さらにわたしは、むせた。
「あらあら……。まったく年上の恋人がこんなんじゃ彼もたいへんよね」
こぼしたお茶を、手際よく伊万里が拭いてくれる。
わたしは、その場で硬直してしまった。
「優衣は、本当に判りやすい子ね」
「な、なん、なななな、なっ!」
「なんで、そんなこと知っているの。って、言いたいわけね」
「だっ、だ、だだ、だかっ」
「だから、どうしてわたしの言いたいことが判るのよ。……かしら?」
もうそれ以上、わたしは何も言えなくて、ひたすら口をぱくぱくさせていた。
「だって、あたし、優衣に盗聴器つけていたから、全部お見通しなのよ」
えへっと、伊万里は可愛らしく舌を出した。
一瞬にして、わたしはフリーズ状態になる。脳が考えることを拒絶した。
「やだ。冗談よ。優衣ってば、嘘、嘘」
わたしが生ける屍となったのを、心配しているらしい。
両手を目の前で振って、あわてて覗き込んできた。
かろうじて、わたしの脳は再起動する。
「う、……嘘って、それじゃ……なんで歳のこととか……」
本当にどこかで見てたんじゃないでしょうね。
伊万里なら、本気で盗聴器を仕掛けかねない。
「優衣の彼って、あのカトリック系の超有名進学校の生徒でしょ。ってか、外見は落ち着きすぎて生徒って感じじゃないけど、あの制服は目立つもんね」
今まで必死に隠してきたことを、あっさりと見抜かれて、わたしは目の前が真っ白になった。
「な、なんで、そこまで知ってるのよ」
「彼がきた時の優衣の挙動不審な態度は、誰が見てもすぐに判るわよ。あれで隠してるつもりだったの」
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