【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪

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苦手なのは、世界で最も美しい数式。

37話

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 下から見上げる彼女は、こんなに小さかったのだろうか。
 ふわふわと柔らかく、甘い香りがする。
 このまま抱きしめてしまえば、俺の腕の中で壊れてしまうかもしれない。
 同じ人間という生物でありながら、男と女ではこれほどまでに違うのが不思議な気がする。
 男のような骨っぽさがない。まろやかな肩。
 柔らかな髪からは、甘いシャンプーとリンスの香りがする。
 俺の胸にもたれかかる優依の身体が触れるのが、今の俺には非常に苦痛だ。
 大腿の上に感じる柔らかな彼女の尻の柔らかさ。華奢な足。
 小柄なくせに体だけはしっかりと成長している。
 ……いや、相手は立派に成人した女性なのだから、成長しきっているのはあたりまえだ。
 それは、すでに確認したことでもある。
 服を着ていても張り出した胸の形の良さがうかがえる。大きさ、質量ともに非の打ち所がない。完璧だ。
 今なら触っても優衣は、怒らないだろう。
 前にも触れたことのある眩しいほど白い乳房を思い出す。
 男の手に余るほどの碗を伏せたようなつんと上を向いた胸。
 その中央で震える小さな蕾。
 このまま襟ぐりから手を突っ込んで、じかに揉みしだきたい。
 いつかの夜のように、無理やりでも服を脱がせて、下着を奪い獲ってやりたい。
 狂暴な感情が沸き起こる。
 今まで感じたことのない下腹から突き上げてくる欲望。
 それを実感することは、自分も世間なみの男に戻れたのだと歓ぶべきことかもしれない。
 幼少期のトラウマは長らく引きずっていたのに、そんなものさえ霧散してしまうほど今の俺は、こいつに欲情している。
 膝の上に感じる小さな丸い尻の温かさ。寄りかかる身体のふにゃっとした頼りなさ。



 いかん。何を考えているんだ。
 もうすぐ彼女の父親も帰ってくるし、いつ母親が茶菓を持ってくるか判ったものではない。
 冷静になれ。
 せっかく今まで築いてきた信用をなくしてどうする。
 まずい。
 膝の上で優依が身じろぎする。
 こんなまかせきった顔をしているこいつは、俺がどんな眼でみているのか、気がついていないのか。
 それとも、本当は解っていて、やっていることなのか。

 こいつのほうが俺より年上だ。
 俺以外の男を知っていても当然かもしれない。
 考えたくもないことだが、それは仕方のないことだ。
 仕方ない……。
 いや、ダメだ。落ち着け。落ち着くんだ。俺。
 π/4=atn(1)=1-1/3+1/5-1/7+1/9-1/11+ ……いや、これは単純な形をしているが収束が遅い。
 オイラーの公式ならπ/4=atn(1/2)+atn(1/3)

 ……俺はいったい何をやっているんだ。
 恋人を膝にのせて円周率の計算している場合か。
 こんなとき、どうやってやり過ごすんだ。
 そういえば、理系のやつが言ってたな。
 有理数の無限和がπという超越数になるのを感動すべきなんだとか。まったく感動しないぞ。
 俺が理系じゃないからか?
 円周率の略表記より、今、目の前にあるパイから目が離せない……って、オヤジギャグもいいところだ。
 いや、この場合は、ただのエロオヤジなので、間違ってはいないのか。
 じりじりと冷や汗がにじみ出てくる。
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