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愛情表現は、歪んでいるもの。

27話

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 できるだけ早足で彼女の自宅から離れる。
 コンビニまでは、そうたいした距離ではない。
 住宅街なので人通りもほとんどなかった。
 家々の玄関灯と、外灯だけが道を照らしている。
 夜道が怖いのだろうか。
 優衣は、抱き寄せられたまま俺のシャツを強くつかんだ。
 彼女の髪からは、シャンプーの匂いがする。
 微かな甘い香りだ。
 いきなり立ち止まると、彼女はその場でつんのめった。
 足元がおぼつかない優衣の身体を支えるようにして、腕をつかんで引き寄せる。

「……あ」
 優衣のかすかな声に煽られて俺は、そのまま強引にくちづけした。
 軽いキスのつもりが、理性の箍は完全に外れてしまったらしい。
 外気の冷たさに冷え切ってしまった唇が、ふっくらとしていかにもうまそうだったからか。
 俺は、貪るように彼女の唇を奪った。
 突然のことで驚いたのか、優衣は逃れようともがく。
 唇を離してやると、もとから大きな眼をいっそう見開いている。
 文句を言いたいのか口をパクパクさせているが、言葉にはならない。

「なんだ。もっと欲しかったのか」
 意地悪く言ってやると、夜目でも判るほど真っ赤になって首を横に振る。
 そのしぐさが、やけに子供っぽく見えて俺は、また笑ってしまう。
 笑いと性欲はまったく別のところにあるはずなのに、優衣に関してだけは違うらしい。
 俺は彼女の顎をつまみ上げる。

「ば、場所を考えてよ。もう……やっ、やだ」
 顔を背けようとするが、足もとがおぼつかない。
 腕をつかまれて爪先立っている。
 大して力を入れているわけではないから、逃げようと思えばできるはずなのに、そうしないのは俺を受け入れてくれるつもりなのか。
 あるいは、彼女の優しさなのか。
 わざとらしく眉をしかめて、怒ったふうな顔をしてみせる。
 もとより童顔だから、むしろよけいに幼く見えた。
 面白いから、もうちょっとからかってやりたい。
 早く煙草を買って帰らないといけないのだが。

「いやなのか。……俺が」
 耳もとに近づいただけで優衣は、夜目でも判るほど顔を赤くした。
「ち、違っ。違うってば……いやじゃないよ。本当よ」
 すぐに騙されるな。こいつ。
 それなら、彼女の優しさにつけ入れさせてもらおうか。

 もう一度、くちづけた。
 優しくしてやろう。
 そう思ったのも確かだったが、いざとなるとできない。
 必死で閉じる唇をこじ開けて舌を差し入れる。
 逃げる小さな舌を捕らえて絡ませ強く吸うと、彼女は湿った吐息を漏らす。
 下唇を噛んだり、咥内を舐めてやったりすると、たまらない声を出す。

 キスだけで簡単に堕ちそうだ。
 唇を離すと銀色の糸が伝う。
 優衣は、まだぼうっとしている。
 それをいいことに、彼女の胸の膨らみをつかんだ。
 思ったより、でかい。俺の手に余るほどだ。そのわりに感度はいい。
 服の上から触っているだけなのに、今にも泣き出しそうな顔をして震えている。
 この下から、すくい上げるような上目遣いがなんともいえない。
 そそられるとでも、いうのだろうか。
 ますます、イジメたくなる。
 調子にのって俺は、ブラウスの襟の間から手をつっこんでやった。
 これには、優衣も怒った。
 怒ったといっても顔は赤らんで涙目になっているのだから、少しも迫力がない。
 むしろ挑発するようなものだ。
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