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戦略は、馬刺しと囲碁。
19話
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「本当なのか」
「う……ん」
詰め寄られてわたしは、なんとか返事をした。
思わず、ハイとか言いそうになった。
いつの間にか織部くんから敬語がなくなっている。
それが嬉しくて今だけは、この先のことなんて考えられない。
「明日、会えるか」
「……うん」
「優衣と呼んでもいいか」
「うん」
名前を呼ばれて、頭がくらくらした。
どうしよう。織部くんに名前、呼ばれちゃった。
「優衣にキスしてもいいか」
「うん」
続けて彼が言うから、そのまま返事してしまった。
あれ?
「もう遅い」
彼は、屈んで顔を寄せた。
突然のことに、わたしは体を硬くして、それでもあわてて眼を閉じる。
額に柔らかい唇の感触を感じて、驚いて眼を開けると、今にも笑い出しそうな彼の顔があった。
唇へのキスを期待してしまっていた自分を見透かされていたようで、カッと全身が熱くなる。
まんまとしてやられた!
なんだか、ものすごく悔しい。
年下の彼に、遊ばれてる。
わたしは、とんでもない返事をしてしまったのではないだろうか。
「さあ、早く帰ろう。でないとせっかく築いたお父さんの信頼を失ってしまう」
織部くんは、わたしの頭をぽんと叩いて、そう言った。
いつの間にか立場が逆転している。完全に織部くんのペースなんだけど。
気恥ずかしいのと、年下の彼にいいように扱われたことが悔しくって、どうしたらいいのか判らない。
もう、やだ。
顔から火が、噴出しちゃいそう。
わたしが黙り込んでいると、彼は耳元でこっそり囁く。
「優衣のお父さんに気に入られようとして、囲碁まで勉強した俺の努力を無駄にしないでくれ」
「えっ、織部くんは囲碁が好きで、うちに来てたんじゃないの」
「俺は将棋しか知らん。囲碁は優衣のために覚えた」
「なんで」
「将を欲すば、まず馬を射よ」
「マズイ馬を喰え? やっぱり織部くん、夕食の馬刺し嫌いだったのね。無理して食べなくてよかったのに」
わたしがそう言うと、織部くんは少し呆れた様子で答えた。
「杜甫の五言律詩“前出塞九首其六”だ。バカ」
考えてみれば、わたしが彼にバカと呼ばれたのは、あれが最初だったかもしれない。
「う……ん」
詰め寄られてわたしは、なんとか返事をした。
思わず、ハイとか言いそうになった。
いつの間にか織部くんから敬語がなくなっている。
それが嬉しくて今だけは、この先のことなんて考えられない。
「明日、会えるか」
「……うん」
「優衣と呼んでもいいか」
「うん」
名前を呼ばれて、頭がくらくらした。
どうしよう。織部くんに名前、呼ばれちゃった。
「優衣にキスしてもいいか」
「うん」
続けて彼が言うから、そのまま返事してしまった。
あれ?
「もう遅い」
彼は、屈んで顔を寄せた。
突然のことに、わたしは体を硬くして、それでもあわてて眼を閉じる。
額に柔らかい唇の感触を感じて、驚いて眼を開けると、今にも笑い出しそうな彼の顔があった。
唇へのキスを期待してしまっていた自分を見透かされていたようで、カッと全身が熱くなる。
まんまとしてやられた!
なんだか、ものすごく悔しい。
年下の彼に、遊ばれてる。
わたしは、とんでもない返事をしてしまったのではないだろうか。
「さあ、早く帰ろう。でないとせっかく築いたお父さんの信頼を失ってしまう」
織部くんは、わたしの頭をぽんと叩いて、そう言った。
いつの間にか立場が逆転している。完全に織部くんのペースなんだけど。
気恥ずかしいのと、年下の彼にいいように扱われたことが悔しくって、どうしたらいいのか判らない。
もう、やだ。
顔から火が、噴出しちゃいそう。
わたしが黙り込んでいると、彼は耳元でこっそり囁く。
「優衣のお父さんに気に入られようとして、囲碁まで勉強した俺の努力を無駄にしないでくれ」
「えっ、織部くんは囲碁が好きで、うちに来てたんじゃないの」
「俺は将棋しか知らん。囲碁は優衣のために覚えた」
「なんで」
「将を欲すば、まず馬を射よ」
「マズイ馬を喰え? やっぱり織部くん、夕食の馬刺し嫌いだったのね。無理して食べなくてよかったのに」
わたしがそう言うと、織部くんは少し呆れた様子で答えた。
「杜甫の五言律詩“前出塞九首其六”だ。バカ」
考えてみれば、わたしが彼にバカと呼ばれたのは、あれが最初だったかもしれない。
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