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戦略は、馬刺しと囲碁。

17話

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「志野さん。俺は、あなたが好きだ」
 織部くんはわたしの方に向き直りながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
 その言葉に一瞬、わたしの思考がショートする。

 いきなりですか?
 それとも、今のわたしの幻聴かしら。
 まさかの告白……?
 って、いけない。
 自分の都合のよい方へ解釈してしまいそう。

 織部くんは、まっすぐにこちらを見て、わたしの返事を待っている。
 冗談とか、まさかの罰ゲーム?
 まさか、織部くんに限ってそれはナイ。
 それなら、ただの友情?
 うん。たぶん、そうだ。そうに違いない。

「わたしも大好きよ。織部くん」
 できるだけ笑おうと思うのに、顔がこわばってうまくいかない。
 赤くなっちゃいけない。そう思うのに顔がほてる。
 どうしよう。わたし、起きたまま寝てるの?
 これって夢?

「俺が言っているのは、愛しているということだ。友人としてではない」
 真剣な顔で彼が言う。
 好き、とか付き合って欲しいとか、一緒にいると楽しいなんてことなら言われたこともあるけど。

 愛してるなんて……そんなことを真顔で言えるのも、高校生だから?
 見据えられて、わたしは呼吸が止まる。
 いつもは薄墨色の眸が、周囲の暗さを吸い取って今は真っ黒に見えた。
 触れれば切れてしまいそうな、まっすぐで、むき出しの感情の激しさが痛いほど伝わってくる。

 たぶん、それが本来の彼自身なのかもしれない。
 いつも落ち着いていて、物静かな織部くんの初めて見る高校生らしい姿だった。
 わたしの胸から心臓が飛び出しそうな勢いで脈打っている。
 苦しいほど早い速度で高鳴っている。

 静まれ、わたしの心臓。
 ちゃんと、大人らしい返事をしなくてはいけないと思うのに、言葉が見つからない。
 嬉しい。嬉しくて……死んじゃいそう。

 だけど、いいの? ずっと、あなたよりわたしは年上なんだよ。
 いつか、彼は自分と年の近い女の子に目がいってしまう。
 そのときわたしは、どうしたらいいの。

 彼の手が伸びて、わたしの頬に触れる。
 気がつかないうちに泣いていたらしい。
 節の高い指が、わたしの涙を拭う。
 されるままに動かないでいると、織部くんが眉をよせた。

「すまない」
「え?」
「志野さんが迷惑に思うのは当然だ。だから、泣かないで欲しい」
「ちが……」
「忘れてくれていい。俺は、自分の気持ちに整理をつけたかっただけかもしれない。志野さんを巻き込んでしまって申し訳なかった」

 そう言う彼の顔は、今まで見たことがないほど儚げで、この人の方こそ泣きそうに見えた。
 口ぶりこそは、しっかりしていて大人びて見えるけど今、彼は必死なのだ。
 どれほどの思いを込めて告げてくれたのだろう。
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