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猫舌と珈琲。
10話
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ダメな大人のわたしは、渋い珈琲専門店でも、おたおたしてしまう。
ブルーマウンテンに、キリマンジャロ。マンデリン。どれも苦いばかりに感じる。
織部くんは、思いっきり火傷しそうに熱いコーヒーがお好み。砂糖もミルクも入れない。
そんな彼の前で、わたしはミルクの入ったカップを両手でもって、ふうふうと口を尖らして冷ます。
ちょっと舌先で温度を確認しないと猫舌なので飲むのにも躊躇する。
これでは、どっちが大人なんだか判らない。
わたしは、熱いブラックのコーヒーがちょっと苦手だ。
でも、アンティークな調度の中で織部くんは絵になる。
飴色の照明が、彼の顔の輪郭を縁取るのを、わたしは見惚れてしまう。
きつい眼もとが伏せられると、思いっきり彼を見つめることができる。
カップを持つ長い指先。
小指の付け根にタコができている。これってペンダコ?……にしては、場所的に変よ。
小指ってペンを持つところじゃないし。
やっぱり勉強してるのよね。だって高3。受験生だもの。
いいのかな。付き合わせてしまって。
わたし、彼のお荷物になってない?
「どうした?」
突然、織部くんがカップを置いて言う。
あ……やっぱり、変よね。ずっと見てたら気持ち悪いよね。
あわてるけど、よく考えたら高校生と社会人では共通の話題なんて無いに等しい。
仕方ない白状しよう。
「お、織部くんの……手ね……あの」
「手?」
「見てたの。タコがあるから……ペンだこじゃないし、鉄棒?」
体操選手じゃあるまいし、自分でも変なこと言ってると思う。
「俺は、弓の持ち方の基本ができていないからな」
「弓? あ、そうだよね。弓道部だから」
判りきったことをあらためて、確認するようにわたしは、力なく笑って見せた。
どうして、こんなに緊張してしまうのかしら。
世間の恋人同士って、こんな感じなの?
話の接ぎ穂を失うと、また、わたしたちの間には沈黙が流れる。
ゆっくりと動く彼の喉もと。
高校生といえば、まだ成長の過渡期にあるのかもしれないのに彼は、すべてにおいて完璧だった。
すてきな人だな。
でも、わたしよりずっと年下なのよね。
どうして、こんなにこの人が好きなのかしら。
彼といっしょにいるだけで、わたしは心臓が破れそうな気がする。
「優衣」
「……ん?」
「なんだ」
織部くんは、眉を寄せてわたしに言う。
ちょっと不機嫌そうに見えるけど、別に怒っているわけじゃないのは判ってる。
たぶん、わたしが、ずうっと見ていたのに気づいたらしい。
「なんでもないよ」
「そうか」
カップを置いて今度は、織部くんがわたしを凝視する。
「な、なんなの」
「なんでもない」
わたしが言ったことを真似してる。性格悪いよ。
恥ずかしくなって、横を向いた。
かすかに織部くんが笑ったような気がして、つい彼の方を見てしまう。
目が合うとふいに、笑ってくれた。
ダメだ……。
その顔を見てるだけで、わたしはフライパンの上のバターさながら、蕩けてしまう。
いつか彼が、本当の恋を知るまでは、こうして一緒にいてくれるのかな。
うああぁぁあぁ、ダメ。
思考がすでにメンヘラだ。
ブルーマウンテンに、キリマンジャロ。マンデリン。どれも苦いばかりに感じる。
織部くんは、思いっきり火傷しそうに熱いコーヒーがお好み。砂糖もミルクも入れない。
そんな彼の前で、わたしはミルクの入ったカップを両手でもって、ふうふうと口を尖らして冷ます。
ちょっと舌先で温度を確認しないと猫舌なので飲むのにも躊躇する。
これでは、どっちが大人なんだか判らない。
わたしは、熱いブラックのコーヒーがちょっと苦手だ。
でも、アンティークな調度の中で織部くんは絵になる。
飴色の照明が、彼の顔の輪郭を縁取るのを、わたしは見惚れてしまう。
きつい眼もとが伏せられると、思いっきり彼を見つめることができる。
カップを持つ長い指先。
小指の付け根にタコができている。これってペンダコ?……にしては、場所的に変よ。
小指ってペンを持つところじゃないし。
やっぱり勉強してるのよね。だって高3。受験生だもの。
いいのかな。付き合わせてしまって。
わたし、彼のお荷物になってない?
「どうした?」
突然、織部くんがカップを置いて言う。
あ……やっぱり、変よね。ずっと見てたら気持ち悪いよね。
あわてるけど、よく考えたら高校生と社会人では共通の話題なんて無いに等しい。
仕方ない白状しよう。
「お、織部くんの……手ね……あの」
「手?」
「見てたの。タコがあるから……ペンだこじゃないし、鉄棒?」
体操選手じゃあるまいし、自分でも変なこと言ってると思う。
「俺は、弓の持ち方の基本ができていないからな」
「弓? あ、そうだよね。弓道部だから」
判りきったことをあらためて、確認するようにわたしは、力なく笑って見せた。
どうして、こんなに緊張してしまうのかしら。
世間の恋人同士って、こんな感じなの?
話の接ぎ穂を失うと、また、わたしたちの間には沈黙が流れる。
ゆっくりと動く彼の喉もと。
高校生といえば、まだ成長の過渡期にあるのかもしれないのに彼は、すべてにおいて完璧だった。
すてきな人だな。
でも、わたしよりずっと年下なのよね。
どうして、こんなにこの人が好きなのかしら。
彼といっしょにいるだけで、わたしは心臓が破れそうな気がする。
「優衣」
「……ん?」
「なんだ」
織部くんは、眉を寄せてわたしに言う。
ちょっと不機嫌そうに見えるけど、別に怒っているわけじゃないのは判ってる。
たぶん、わたしが、ずうっと見ていたのに気づいたらしい。
「なんでもないよ」
「そうか」
カップを置いて今度は、織部くんがわたしを凝視する。
「な、なんなの」
「なんでもない」
わたしが言ったことを真似してる。性格悪いよ。
恥ずかしくなって、横を向いた。
かすかに織部くんが笑ったような気がして、つい彼の方を見てしまう。
目が合うとふいに、笑ってくれた。
ダメだ……。
その顔を見てるだけで、わたしはフライパンの上のバターさながら、蕩けてしまう。
いつか彼が、本当の恋を知るまでは、こうして一緒にいてくれるのかな。
うああぁぁあぁ、ダメ。
思考がすでにメンヘラだ。
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