【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪

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このツンデレは、仕様。

8話

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「あの……ごめんね」
「優衣は謝ってばかりだな」

 織部くんは、わたしの肩を抱いて引き寄せた。
 気がついたら、ずっと織部くんのペースに巻き込まれている。
 彼のことが、すごく好きなのに……。
 こうやって手のひらで転がされているというのが、ちょっと悔しくなるときがある。
 わたしばっかりが、彼のことを好きみたいで負けたような気がする。
 なんだか、つまらない。
 彼の体を押し返した。

「だめよ。いつも言ってるでしょう。誰かに見られたら大変だってば」
「大丈夫だ。暗くて顔まで判るものか」
 わたしの抵抗を軽くかわして、織部くんはわたしを抱きしめる。
 ここが路上であることを、彼は判っているのか。

「ちょっと、織部くん」
「動くな。ずっとこうしたかったんだ」
 低い声で彼は、わたしの耳元で囁く。
 年上の威厳もあったものじゃない。
 わたしは彼の腕の中にすっぽり収まってしまう。

「すまなかったな」
「織部くん」
「俺がきついことを言ったから、あんな顔をしていたんだろう」

 自分よりも年下の高校生に、胸のうちを見透かされている。
 恥ずかしくなって、いっそう顔がほてった。
 あんまり顔が熱くって、耳が焼けてしまいそう。
 うつむいているから彼には、見えていないのがせめてもの救いかもしれない。

「優衣が仕事をしている姿は……」
 織部くんは少し言いよどんで、わたしを抱きしめる腕に力が入る。
「俺には、お前が遠くに見えて寂しくなるんだ」
「えっ?」

 彼らしくないその言葉に、びっくりしてわたしは顔を上げる。
 照れくさそうなその顔。
 いつも余裕綽綽な人なのに、こんな顔するの? なんだかそれって……ずるい。

「だから、少しイジメてみたくなる」
「ええっ!!」
「泣きそうな顔して俺を見つめる優衣の顔が好きなんだ。とても年上には見えないから」

 彼は、年齢詐欺だ。
 こんな高校生がいるものか!!
 わたしがむくれて横を向くと、織部くんが言った。

「そんなにふくれたら、顔が元に戻らなくなるぞ」
「失礼ね。これが素の顔よ」
「そうか。もとが餅みたいな顔だから、判らなかった」
「どんな顔だって言うのよ!!」
「こんな顔だ」
「ひゃめて」

 両手でわたしの頬をつかんで引っ張った。
 大きなごつごつした手で引っ張られたまま、止めてと言うつもりが言葉にならない。
「…………」
 織部くんは手を緩めて、顔を寄せる。触れるか触れないかの軽い口づけ。
 ふっと眼を細めて、彼が笑う。
 ああ、またこの表情。
 喉を締め上げられるような切なさで、たまらなくなる。
 わたしは、思いっきり背伸びして、自分から彼にくちづけた。

 こちらから、口づけしたはずなのに、気が付けば、彼に主導権を握られている。
 織部くんの手が、わたしの首筋を支えて、何度もついばむようなキスを繰り返す。
「やっぱり、優衣はツンデレだな」
 織部くんのその言葉は、わたしのほうこそ、あなたに言いたかったことだ。
 でも、何も言えない。
 わたしは、彼のなすがままだったから。
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