【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪

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このツンデレは、仕様。

7話

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 勤務する図書館の閉館時間は、いつも午後6時。
 でも、週に2回だけ午後8時まで開いている。
 閉館後の後片付けをすると、もう夜の九時を過ぎていた。
 図書館と駅はほんの眼と鼻の先なのだが、大きな公園と隣接しているため夜道はちょっと怖い。
 同じ方向へ帰る人もいなかったのでわたしは、小走りで駅に向かった。

「優衣」
 夜の闇に吸い込まれるようなしっとりとした声が響く。
 ――織部くん?
 わたしは驚いて振り返ると、やっぱり彼が学生服のままそこにいた。

「どうしたの。こんな時間に」
「優衣を待っていたんだ」
「えっ、だって織部くんが図書館に来たのは夕方だったのに……この時間まで、どうしてたの」
「本を読んでた」
「どこで? 図書館閉まってたでしょ」
「公園の街頭の下」
「こんなところで? 寒かったんじゃないの。それに門限は大丈夫なの。目が悪くなるわ!」
「一度にまくしたてるな」

 織部くんの声は、ほとんど感情が読み取れない。
 怒っているのか、それとも心配してくれているのか。
 たぶん、その両方なんだと思う。
 彼にそんな思いをさせてしまう自分が、なんとも情けない。
 もっとわたしがしっかりしていたら、そんな心配させたり、怒らせたりしないのに。

「……ご、ごめんね……」
「優衣が泣きそうな顔をしていたから、帰るに帰れなかった」
 あなたに叱られて悲しかったんです。
 あなたとの格差に打ちのめされていました。
 とは、とても言えない……。
 でも、そんなわたしのことを織部くんは、心配してくれていたんだ。
 そんな優しいこと言われたら、また泣きたくなってしまう。
 年齢のことだけじゃない。
 自分という人間の器の小ささが恥ずかしくなる。

「……ごめんな、……しゃい」
 本当に涙をこらえていたら、鼻声になってしまった。
 ――シャイってなんだ。シャイって、わたしは5歳の子供か?!
 とてつもない恥ずかしさに、必死に自分で自分に虚しいツッコミを入れる。
 織部くんは、はすかいに目を細めてわたしを見下ろす。

「気にすることはない。俺が勝手に待っていたんだから」
 そう言って彼は、わたしの頭を力任せにぐりぐりと撫でる。
 大きな手で髪がくしゃくしゃになるほど押さえつけられて、わたしは顔に血が昇った。
 織部くんは高校生のくせにわたしより、頭一つ分くらい背が高い。
 そんなことをされてしまうと、本当にどっちが大人だか判らなくなってしまう。

「送ろう」
「ありがとう。ねえ、お腹すかない? お給料日だから、なんでも好きなものご馳走するよ」
 言ったとたん、織部くんが眉間に皺を寄せた。
 いけない。こういうことに彼はものすごく敏感なのだ。

 まだ学生で親のすねかじりのくせに、わたしが奢ると言うとすぐに機嫌が悪くなる。
 それなら割り勘でと思うが、それもダメ。
 若いくせに、古風で困る。今の時代、割り勘なんてわりと普通だと思うんだけど……。
 いや、すねかじりとか若いとか言ったら、また怒られそう。彼はちゃんと仕事をもっていて、それでデート代をまかなっているそうだ。
 詳しく聞いたことなかったけど、ネットビジネスみたいなものらしい。

 でも、忙しい合間に、こうして会いにきてくれるのが本当に嬉しくってたまらない。
 ああ、わたしはやっぱり織部くんが好きなんだわ。
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