17 / 19
8章
17
しおりを挟む
小降りだった雨が激しさを増してきた。
馬車を降りかけるリアに、侍従が傘を差し掛けてくれる。大きく広がったスカートに泥が跳ねないように気をつけながら、聖堂までの歩道を進む。
ベルゼの所属する修道会の管轄下にある教会は多い。
そのためかリアが告解をしたいと言うと、聴聞司祭が誰であるのかをアルジャントゥイユ伯爵は何度も確認している。
もう一度、ベルゼに会えるかもしれない……というリアの願いは叶わなかった。
垂れ込める雨雲で空は、暗くなってきている。
今のリアの心情をそのまま映しているかのようだ。
あわてて礼拝堂の扉を開けて中に滑り込むと、遠くで雷鳴が聞こえてくる。
雷は、昔から苦手だった。
暗い僧房で震えていた幼い自分を思い出す。
相部屋の修道女たちが早々と眠りにつく中で、自分だけがいつまでも眠ることができなかった。
暗くて寒いばかりの修道院が、今は懐かしい。
暗い聖堂の奥に、黒い僧服を着た司祭の姿があった。
まるで闇の中に溶け込んでしまいそうな黒い僧服が、ベルゼを思い出させる。
そんな夢想をしてしまう自分が、リアは虚しくなってしまう。
アルジャントゥイユ伯爵はベルゼのことを警戒している。
伯爵の支配下にあるリアが、彼に会えることはない。
黒衣の司祭がベルゼではないことを確かめたくなかった。
まるで、床に張り付いたように脚が動かない。
立ちすくむリアの前に、司祭がゆっくりと近づいてきた。
手を伸ばせば触れられそうな距離に来た時、司祭の外衣から白金の髪がこぼれるのを見た。
「まだ、雷が怖いのですか」
低い静かな声。
その声に誘われるようにして、リアは外衣の下の司祭の顔を覗き込んだ。
冷たい輝きを放つ暗い眸。
透き通るような白い肌は、豪奢な陶器の人形のようだった。
凄まじい雷鳴が響いて、聖堂内が白く照らされた後、すぐに暗くなる。
リアは思わず、ベルゼに身を寄せた。
「どうして……ベルゼが」
黒い僧衣からは、仄かに涼やかな香りが立ち上がる。彼の懐に潜り込んでいた子供の頃と同じ香りだった。
「わたしは、聴聞司祭ですから」
「あたしの告白を聞いてくれるの?」
「ええ、あの時のように」
彼の言う“あの時”のことを思い出して、リアは身体中が熱くなるのを感じた。
「告解室は寒い。わたしの書斎へおいでなさい」
ベルゼの声は、さらに低くわずかに甘い。
――……書斎?
ぎこちなくリアはうなずいた。以前なら、きっと大喜びで彼について行っただろう。
今は、違う。今のリアは、お菓子を期待する子供ではない。
伯爵家の従僕は、馬車で待っている。
だが、結婚前の告解に時間が、かかることはよくあることだ。
馬車を降りかけるリアに、侍従が傘を差し掛けてくれる。大きく広がったスカートに泥が跳ねないように気をつけながら、聖堂までの歩道を進む。
ベルゼの所属する修道会の管轄下にある教会は多い。
そのためかリアが告解をしたいと言うと、聴聞司祭が誰であるのかをアルジャントゥイユ伯爵は何度も確認している。
もう一度、ベルゼに会えるかもしれない……というリアの願いは叶わなかった。
垂れ込める雨雲で空は、暗くなってきている。
今のリアの心情をそのまま映しているかのようだ。
あわてて礼拝堂の扉を開けて中に滑り込むと、遠くで雷鳴が聞こえてくる。
雷は、昔から苦手だった。
暗い僧房で震えていた幼い自分を思い出す。
相部屋の修道女たちが早々と眠りにつく中で、自分だけがいつまでも眠ることができなかった。
暗くて寒いばかりの修道院が、今は懐かしい。
暗い聖堂の奥に、黒い僧服を着た司祭の姿があった。
まるで闇の中に溶け込んでしまいそうな黒い僧服が、ベルゼを思い出させる。
そんな夢想をしてしまう自分が、リアは虚しくなってしまう。
アルジャントゥイユ伯爵はベルゼのことを警戒している。
伯爵の支配下にあるリアが、彼に会えることはない。
黒衣の司祭がベルゼではないことを確かめたくなかった。
まるで、床に張り付いたように脚が動かない。
立ちすくむリアの前に、司祭がゆっくりと近づいてきた。
手を伸ばせば触れられそうな距離に来た時、司祭の外衣から白金の髪がこぼれるのを見た。
「まだ、雷が怖いのですか」
低い静かな声。
その声に誘われるようにして、リアは外衣の下の司祭の顔を覗き込んだ。
冷たい輝きを放つ暗い眸。
透き通るような白い肌は、豪奢な陶器の人形のようだった。
凄まじい雷鳴が響いて、聖堂内が白く照らされた後、すぐに暗くなる。
リアは思わず、ベルゼに身を寄せた。
「どうして……ベルゼが」
黒い僧衣からは、仄かに涼やかな香りが立ち上がる。彼の懐に潜り込んでいた子供の頃と同じ香りだった。
「わたしは、聴聞司祭ですから」
「あたしの告白を聞いてくれるの?」
「ええ、あの時のように」
彼の言う“あの時”のことを思い出して、リアは身体中が熱くなるのを感じた。
「告解室は寒い。わたしの書斎へおいでなさい」
ベルゼの声は、さらに低くわずかに甘い。
――……書斎?
ぎこちなくリアはうなずいた。以前なら、きっと大喜びで彼について行っただろう。
今は、違う。今のリアは、お菓子を期待する子供ではない。
伯爵家の従僕は、馬車で待っている。
だが、結婚前の告解に時間が、かかることはよくあることだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
秘密 〜官能短編集〜
槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。
まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。
小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。
こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
麗しのシークさまに執愛されてます
こいなだ陽日
恋愛
小さな村で調薬師として働くティシア。ある日、母が病気になり、高額な薬草を手に入れるため、王都の娼館で働くことにした。けれど、処女であることを理由に雇ってもらえず、ティシアは困ってしまう。そのとき思い出したのは、『抱かれた女性に幸運が訪れる』という噂がある男のこと。初体験をいい思い出にしたいと考えたティシアは彼のもとを訪れ、事情を話して抱いてもらった。優しく抱いてくれた彼に惹かれるものの、目的は果たしたのだからと別れるティシア。しかし、翌日、男は彼女に会いに娼館までやってきた。そのうえ、ティシアを専属娼婦に指名し、独占してきて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる