【R18】伯爵令嬢は悪魔を篭絡する

真守 輪

文字の大きさ
上 下
7 / 19
3章

7

しおりを挟む
「うごぉっ!」
 内臓が口から飛び出すかと思った。
 小間使いにコルセットの紐を締め上げられてリアは呻いた。
 衣裳部屋の大きな鏡には、コルセットと下履きのスカートをつけた下着姿のリアが映っている。
 髪と化粧は、すでに整えられているが、衣装の着付けは、まだこれからだ。
「お静かに、お嬢様」
 家庭教師グーヴェルナントのビアン男爵夫人が厳しい声で言う。
 髪を高く結い上げた背の高い中年女性だ。
 内臓が変形しそうなほどの圧迫感。いつもこんなコルセットをつけて、にこやかに夜会で踊るのが伯爵令嬢というものらしい。
 リアが修道院から伯爵家に戻って最初にしたことは、貴族としてふさわしい装いだった。
 鯨骨の入ったコルセット。大きく張り出したスカート。貴婦人たちの身体は人工的に創りだされた美しさのようだ。

「ビアン男爵夫人。お嬢さまは、もともと痩せておいでなのですから、ここまで締め上げることはないのでは?」
 若い小間使いが気の毒そうに言った。
「ええ、もちろん。痩せすぎているぐらいです。修道院のお育ちであれば、仕方のないことですが」
 ビアン男爵夫人は、コルセットで押さえつけたリアの胸元を覗き込んでくる。
 自分ひとりだけが下着姿でいるのが恥ずかしくて、リアは手で胸を隠した。

「ただ、流行のドレスを着るには、身体全体のバランスが、あまりよくありません」
 やれやれとばかりにビアン男爵夫人は、胸を隠すリアの両手をつかんで降ろさせる。
 ――家庭教師がお嬢様に対して、ずいぶん横柄な態度じゃない!!
 内心では 文句の一つも言いたがったが、伯爵家でのリアの立場は不安定だ。修道院の沈黙の戒律を思い出して、やり過ごすしかない。

「手で隠してはいけません。お嬢様のお胸が大きすぎるのです」
「はぁ?」
 黙っているべきだと思っていたのに、つい声が出てしまった。
 背が高いとか低い。太っているとか痩せている以外で身体の一部について、リアは考えたことなどなかったのだ。
 後ろで、コルセットの紐を結んでいた小間使いも怪訝な顔をしている。
「……そうなの?」
 リアが尋ねると、小間使いは首を横に振った。
「今の流行は、胸元が大きく開いたドレスです。お嬢様のようにウエストは細く、お胸が大きい方が綺麗に着こなせるはずです」
「お嬢様! 小間使いと家庭教師であるわたくしの言葉と、どちらを信用するおつもりなのですか?!」
 靴音を立ててビアン男爵夫人は、リアに詰め寄ってきた。
 あわてて小間使いは、部屋の隅に下がる。
 女性家庭教師というのは、“専制的で高圧的な存在”だと、本で読んだことがあった。彼女もその手のタイプらしい。

「よろしいですか。お嬢さま!」
 家庭教師は、いきなりリアの胸もとに手を突っ込んだ。
 突然のぶしつけな行為に、リアは抵抗する余裕もなかった。
 絹の下着がずらされ、締め上げられたコルセットの上で乳房がこぼれる。
「うわっ!!」
 慌てて隠そうとした手が、ピシャリと音をたてて払い避けられる。
「隠してはいけないと、先ほど申し上げたはずです。両手は下ろしたまま、動いてはいけません」
 ビアン男爵夫人は、リアの乳房の重みを確かめるようにして、両手ですく上げた。薄桃色の先端まであらわになってしまう。
 小間使いに着替えを手伝ってもらうことさえ、慣れていないリアにとっては、衝撃が大きすぎた。
 理不尽な今の状況が分からず、恥ずかしさに、声も上げることができない。

「まるで陶器のような肌。この張りと弾力は、若さ特有のものです。すばらしい」
 ビアン男爵夫人は乳房をすくい上げたまま、タプタプと揺する。まるで乳牛の品定めをしているようだ。
 ――さっき、バランスが悪いとか、大きすぎるとか、言ってたの誰よ!?
 そう思ったが、黙っていたほうが早く終わるかもしれない。リアは黙って耐えることにした。
 リアが無抵抗なのをいいことに、ビアン男爵夫人は乳首を指先でつまみ上げる。
「やっ!」
 いきなりのことにリアは叫んだ。
 ビアン男爵夫人は腰をかがめ、むき出しにした乳首にしゃぶりついてきた。まるで蛭のように吸いついてくる。
 家庭教師の謎過ぎる行動に反応できず、リアは硬直してしまう。
 
「お嬢様に何をなさるんですか!」
 小間使いが叫んだ。
「使用人は黙っていなさい。わたくしは、伯爵様のお言いつけに従っているのです」
 ビアン男爵夫人に、きつく言われると小間使いは黙ってしまった。
 ――ダメだ。小間使いは当てにならない。
 リアは、喚き出したいのをこらえて言った。
「お、お、お父様がこんなこと、言いつけるわけがありません。放してください!」 
「いいえ、伯爵様ご夫妻から、お嬢様のことは、一任されておりますのよ。これも大切なお勉強です」
 ビアン男爵夫人は、強気に答えた。
 ――そんなバカな勉強があるもんか!!
 ビアン男爵夫人は、行儀作法の教師である。ドレスの着付けにまで口を出すのは、宮廷服の裾さばきなどの身のこなしを習うためだった。
 それがなぜ、こういう事になるのか、さっぱり理解できない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...