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3章
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「うごぉっ!」
内臓が口から飛び出すかと思った。
小間使いにコルセットの紐を締め上げられてリアは呻いた。
衣裳部屋の大きな鏡には、コルセットと下履きのスカートをつけた下着姿のリアが映っている。
髪と化粧は、すでに整えられているが、衣装の着付けは、まだこれからだ。
「お静かに、お嬢様」
家庭教師のビアン男爵夫人が厳しい声で言う。
髪を高く結い上げた背の高い中年女性だ。
内臓が変形しそうなほどの圧迫感。いつもこんなコルセットをつけて、にこやかに夜会で踊るのが伯爵令嬢というものらしい。
リアが修道院から伯爵家に戻って最初にしたことは、貴族としてふさわしい装いだった。
鯨骨の入ったコルセット。大きく張り出したスカート。貴婦人たちの身体は人工的に創りだされた美しさのようだ。
「ビアン男爵夫人。お嬢さまは、もともと痩せておいでなのですから、ここまで締め上げることはないのでは?」
若い小間使いが気の毒そうに言った。
「ええ、もちろん。痩せすぎているぐらいです。修道院のお育ちであれば、仕方のないことですが」
ビアン男爵夫人は、コルセットで押さえつけたリアの胸元を覗き込んでくる。
自分ひとりだけが下着姿でいるのが恥ずかしくて、リアは手で胸を隠した。
「ただ、流行のドレスを着るには、身体全体のバランスが、あまりよくありません」
やれやれとばかりにビアン男爵夫人は、胸を隠すリアの両手をつかんで降ろさせる。
――家庭教師がお嬢様に対して、ずいぶん横柄な態度じゃない!!
内心では 文句の一つも言いたがったが、伯爵家でのリアの立場は不安定だ。修道院の沈黙の戒律を思い出して、やり過ごすしかない。
「手で隠してはいけません。お嬢様のお胸が大きすぎるのです」
「はぁ?」
黙っているべきだと思っていたのに、つい声が出てしまった。
背が高いとか低い。太っているとか痩せている以外で身体の一部について、リアは考えたことなどなかったのだ。
後ろで、コルセットの紐を結んでいた小間使いも怪訝な顔をしている。
「……そうなの?」
リアが尋ねると、小間使いは首を横に振った。
「今の流行は、胸元が大きく開いたドレスです。お嬢様のようにウエストは細く、お胸が大きい方が綺麗に着こなせるはずです」
「お嬢様! 小間使いと家庭教師であるわたくしの言葉と、どちらを信用するおつもりなのですか?!」
靴音を立ててビアン男爵夫人は、リアに詰め寄ってきた。
あわてて小間使いは、部屋の隅に下がる。
女性家庭教師というのは、“専制的で高圧的な存在”だと、本で読んだことがあった。彼女もその手のタイプらしい。
「よろしいですか。お嬢さま!」
家庭教師は、いきなりリアの胸もとに手を突っ込んだ。
突然のぶしつけな行為に、リアは抵抗する余裕もなかった。
絹の下着がずらされ、締め上げられたコルセットの上で乳房がこぼれる。
「うわっ!!」
慌てて隠そうとした手が、ピシャリと音をたてて払い避けられる。
「隠してはいけないと、先ほど申し上げたはずです。両手は下ろしたまま、動いてはいけません」
ビアン男爵夫人は、リアの乳房の重みを確かめるようにして、両手ですく上げた。薄桃色の先端まであらわになってしまう。
小間使いに着替えを手伝ってもらうことさえ、慣れていないリアにとっては、衝撃が大きすぎた。
理不尽な今の状況が分からず、恥ずかしさに、声も上げることができない。
「まるで陶器のような肌。この張りと弾力は、若さ特有のものです。すばらしい」
ビアン男爵夫人は乳房をすくい上げたまま、タプタプと揺する。まるで乳牛の品定めをしているようだ。
――さっき、バランスが悪いとか、大きすぎるとか、言ってたの誰よ!?
そう思ったが、黙っていたほうが早く終わるかもしれない。リアは黙って耐えることにした。
リアが無抵抗なのをいいことに、ビアン男爵夫人は乳首を指先でつまみ上げる。
「やっ!」
いきなりのことにリアは叫んだ。
ビアン男爵夫人は腰をかがめ、むき出しにした乳首にしゃぶりついてきた。まるで蛭のように吸いついてくる。
家庭教師の謎過ぎる行動に反応できず、リアは硬直してしまう。
「お嬢様に何をなさるんですか!」
小間使いが叫んだ。
「使用人は黙っていなさい。わたくしは、伯爵様のお言いつけに従っているのです」
ビアン男爵夫人に、きつく言われると小間使いは黙ってしまった。
――ダメだ。小間使いは当てにならない。
リアは、喚き出したいのをこらえて言った。
「お、お、お父様がこんなこと、言いつけるわけがありません。放してください!」
「いいえ、伯爵様ご夫妻から、お嬢様のことは、一任されておりますのよ。これも大切なお勉強です」
ビアン男爵夫人は、強気に答えた。
――そんなバカな勉強があるもんか!!
ビアン男爵夫人は、行儀作法の教師である。ドレスの着付けにまで口を出すのは、宮廷服の裾さばきなどの身のこなしを習うためだった。
それがなぜ、こういう事になるのか、さっぱり理解できない。
内臓が口から飛び出すかと思った。
小間使いにコルセットの紐を締め上げられてリアは呻いた。
衣裳部屋の大きな鏡には、コルセットと下履きのスカートをつけた下着姿のリアが映っている。
髪と化粧は、すでに整えられているが、衣装の着付けは、まだこれからだ。
「お静かに、お嬢様」
家庭教師のビアン男爵夫人が厳しい声で言う。
髪を高く結い上げた背の高い中年女性だ。
内臓が変形しそうなほどの圧迫感。いつもこんなコルセットをつけて、にこやかに夜会で踊るのが伯爵令嬢というものらしい。
リアが修道院から伯爵家に戻って最初にしたことは、貴族としてふさわしい装いだった。
鯨骨の入ったコルセット。大きく張り出したスカート。貴婦人たちの身体は人工的に創りだされた美しさのようだ。
「ビアン男爵夫人。お嬢さまは、もともと痩せておいでなのですから、ここまで締め上げることはないのでは?」
若い小間使いが気の毒そうに言った。
「ええ、もちろん。痩せすぎているぐらいです。修道院のお育ちであれば、仕方のないことですが」
ビアン男爵夫人は、コルセットで押さえつけたリアの胸元を覗き込んでくる。
自分ひとりだけが下着姿でいるのが恥ずかしくて、リアは手で胸を隠した。
「ただ、流行のドレスを着るには、身体全体のバランスが、あまりよくありません」
やれやれとばかりにビアン男爵夫人は、胸を隠すリアの両手をつかんで降ろさせる。
――家庭教師がお嬢様に対して、ずいぶん横柄な態度じゃない!!
内心では 文句の一つも言いたがったが、伯爵家でのリアの立場は不安定だ。修道院の沈黙の戒律を思い出して、やり過ごすしかない。
「手で隠してはいけません。お嬢様のお胸が大きすぎるのです」
「はぁ?」
黙っているべきだと思っていたのに、つい声が出てしまった。
背が高いとか低い。太っているとか痩せている以外で身体の一部について、リアは考えたことなどなかったのだ。
後ろで、コルセットの紐を結んでいた小間使いも怪訝な顔をしている。
「……そうなの?」
リアが尋ねると、小間使いは首を横に振った。
「今の流行は、胸元が大きく開いたドレスです。お嬢様のようにウエストは細く、お胸が大きい方が綺麗に着こなせるはずです」
「お嬢様! 小間使いと家庭教師であるわたくしの言葉と、どちらを信用するおつもりなのですか?!」
靴音を立ててビアン男爵夫人は、リアに詰め寄ってきた。
あわてて小間使いは、部屋の隅に下がる。
女性家庭教師というのは、“専制的で高圧的な存在”だと、本で読んだことがあった。彼女もその手のタイプらしい。
「よろしいですか。お嬢さま!」
家庭教師は、いきなりリアの胸もとに手を突っ込んだ。
突然のぶしつけな行為に、リアは抵抗する余裕もなかった。
絹の下着がずらされ、締め上げられたコルセットの上で乳房がこぼれる。
「うわっ!!」
慌てて隠そうとした手が、ピシャリと音をたてて払い避けられる。
「隠してはいけないと、先ほど申し上げたはずです。両手は下ろしたまま、動いてはいけません」
ビアン男爵夫人は、リアの乳房の重みを確かめるようにして、両手ですく上げた。薄桃色の先端まであらわになってしまう。
小間使いに着替えを手伝ってもらうことさえ、慣れていないリアにとっては、衝撃が大きすぎた。
理不尽な今の状況が分からず、恥ずかしさに、声も上げることができない。
「まるで陶器のような肌。この張りと弾力は、若さ特有のものです。すばらしい」
ビアン男爵夫人は乳房をすくい上げたまま、タプタプと揺する。まるで乳牛の品定めをしているようだ。
――さっき、バランスが悪いとか、大きすぎるとか、言ってたの誰よ!?
そう思ったが、黙っていたほうが早く終わるかもしれない。リアは黙って耐えることにした。
リアが無抵抗なのをいいことに、ビアン男爵夫人は乳首を指先でつまみ上げる。
「やっ!」
いきなりのことにリアは叫んだ。
ビアン男爵夫人は腰をかがめ、むき出しにした乳首にしゃぶりついてきた。まるで蛭のように吸いついてくる。
家庭教師の謎過ぎる行動に反応できず、リアは硬直してしまう。
「お嬢様に何をなさるんですか!」
小間使いが叫んだ。
「使用人は黙っていなさい。わたくしは、伯爵様のお言いつけに従っているのです」
ビアン男爵夫人に、きつく言われると小間使いは黙ってしまった。
――ダメだ。小間使いは当てにならない。
リアは、喚き出したいのをこらえて言った。
「お、お、お父様がこんなこと、言いつけるわけがありません。放してください!」
「いいえ、伯爵様ご夫妻から、お嬢様のことは、一任されておりますのよ。これも大切なお勉強です」
ビアン男爵夫人は、強気に答えた。
――そんなバカな勉強があるもんか!!
ビアン男爵夫人は、行儀作法の教師である。ドレスの着付けにまで口を出すのは、宮廷服の裾さばきなどの身のこなしを習うためだった。
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