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悪魔と神と人の子
12の巻
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いや、手品ではなく悪魔の仕業なのだから、やはり魔法とかいうものだろうか。
小さい頃に絵本で読んだ魔法とはずいぶん違う。
呪文を唱えるわけでも、杖を振るわけでもない。
ごく自然にそれは行われるのだろう。人と魔は同じ場所にいられない所以かもしれない。
「雌性ホルモンがアルコール代謝を阻害するのじゃ」
悪魔にしては健全なことを言う。
「女性のほうがアルコール依存症なりやすいってことでしょ。そんなこと知ってるわよ」
「ならば、なぜ止めぬ」
あんたのせいだわ。
悪魔のくせに、飲酒を止めろだなんて、なんか変よ。
「あんただって、半分、女じゃないの」
「男がよいか?」
「どっちでも意味ないわ。あんたは悪魔だもの」
「もとから悪魔であったわけではない。バビロニアではイシュタルという女神であった」
「いつから、アスタロトになったの」
「パレスチナに渡り今の名になり、ギリシャではアフロディーテと呼ぶものもあった」
女神が悪魔に変わるなどとあるのか。
不振に思いながらも、あたしはつりこまれたように、彼あるいは彼女の話を聞いた。
「やがて時代が下るにつれ、わしの存在は野蛮で淫乱な存在とされたようじゃ」
「もしかして、キリスト教があんたを神の座から悪魔に堕としたの」
「この世のすべての宗教とはそのようなものじゃ。虚構に満ちておる」
「……すべて?」
「わしには大事無いことじゃ」
「何言ってんの。人のいうことで性別まで変わるなんて……めちゃくちゃだわ」
「わしが変わったのは、そなたゆえじゃ。そなたが好むなら、どちらでもなろうほどに」
「なんで、あたしにこだわるのよ」
「そなたが恋しいゆえに」
「悪魔が人を恋しがるなんて、変よ。悪魔って人間を堕落させるんでしょ」
「そう言い出したのは、誰じゃ。わしではない」
うまく言いくるめられているような気がして、あたしは返事ができなかった。
「勝手な人の思い込みか、あるいは恐れが生み出した妄想であろうな」
身をのりだすようにしてアスタロトは、正面からあたしを見つめる。
近々と見据えられて、視線を逸らそうとしたがうまくできない。
漆黒の双眸に、あたし自身が映りこむ。
「それがあの地獄を創り出すのじゃ。判るか。人はその思い通りの世界を創る。それがあの世界であり、わしでもある」
「あたしはあんたを作ったつもりはないわ」
「そうであろうな。だが、わしはここにいる。ここにいて、そなたを恋しいと思う。それがなにゆえなのか。わしには判らぬ」
アスタロトはゆっくりとあたしの前にかぶさってきた。
ごく自然な行動で、まるでそのことが当たり前のような気がして、あたしは抵抗する気をなくしていた。
小さい頃に絵本で読んだ魔法とはずいぶん違う。
呪文を唱えるわけでも、杖を振るわけでもない。
ごく自然にそれは行われるのだろう。人と魔は同じ場所にいられない所以かもしれない。
「雌性ホルモンがアルコール代謝を阻害するのじゃ」
悪魔にしては健全なことを言う。
「女性のほうがアルコール依存症なりやすいってことでしょ。そんなこと知ってるわよ」
「ならば、なぜ止めぬ」
あんたのせいだわ。
悪魔のくせに、飲酒を止めろだなんて、なんか変よ。
「あんただって、半分、女じゃないの」
「男がよいか?」
「どっちでも意味ないわ。あんたは悪魔だもの」
「もとから悪魔であったわけではない。バビロニアではイシュタルという女神であった」
「いつから、アスタロトになったの」
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女神が悪魔に変わるなどとあるのか。
不振に思いながらも、あたしはつりこまれたように、彼あるいは彼女の話を聞いた。
「やがて時代が下るにつれ、わしの存在は野蛮で淫乱な存在とされたようじゃ」
「もしかして、キリスト教があんたを神の座から悪魔に堕としたの」
「この世のすべての宗教とはそのようなものじゃ。虚構に満ちておる」
「……すべて?」
「わしには大事無いことじゃ」
「何言ってんの。人のいうことで性別まで変わるなんて……めちゃくちゃだわ」
「わしが変わったのは、そなたゆえじゃ。そなたが好むなら、どちらでもなろうほどに」
「なんで、あたしにこだわるのよ」
「そなたが恋しいゆえに」
「悪魔が人を恋しがるなんて、変よ。悪魔って人間を堕落させるんでしょ」
「そう言い出したのは、誰じゃ。わしではない」
うまく言いくるめられているような気がして、あたしは返事ができなかった。
「勝手な人の思い込みか、あるいは恐れが生み出した妄想であろうな」
身をのりだすようにしてアスタロトは、正面からあたしを見つめる。
近々と見据えられて、視線を逸らそうとしたがうまくできない。
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「それがあの地獄を創り出すのじゃ。判るか。人はその思い通りの世界を創る。それがあの世界であり、わしでもある」
「あたしはあんたを作ったつもりはないわ」
「そうであろうな。だが、わしはここにいる。ここにいて、そなたを恋しいと思う。それがなにゆえなのか。わしには判らぬ」
アスタロトはゆっくりとあたしの前にかぶさってきた。
ごく自然な行動で、まるでそのことが当たり前のような気がして、あたしは抵抗する気をなくしていた。
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