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悪魔と神と人の子
11の巻
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アスタロトは、夜に訪ねてくる。
あたしは缶ビールのタブに、指先を差し込んで押し開く。
ぷしゅっと軽い音がして、泡立つビールを口元に運ぶ。
少し零れたか。
もともと、ビールやアルコールの類は好きではない。
だが、彼に子供のようだと言われたのが悔しくって、甘いものは控えるようになった。
アルコールには習慣性があるのか、とくに美味しいとも思わないのに、ついつい手がでる。
必ず来てくれると判っているのに、たまらなく不安になるのだ。
とくに、こんなに蒼い月の夜には……。
「子供のくせに酒など呑むでない」
「誰が、子供だっていうのよ。立派に成人してるわよ」
「ならばよい。こちらへ来い」
「いやよ。“子供”に変なことするから」
「たった今、子供ではないと申したくせに」
「あんたに比べたら、子供だって気がしたの」
「しなければ、そなたが寂しがるであろ?」
「馬鹿……」
言いながらあたしは、またビールを口に運ぶ。
なんとなく落ち着くような、おおらかな気分になる。
どうしてだろう。
アルコールの効果なのか、ただ単に精神的な充足感なのだろうか。
「愛している……」
簡単に彼は口にするが、その言葉に真実はあるのだろうか。
現世に住まうあたしと、地獄の支配者の一人である魔神につりあいなどとれるはずもない。
男であり女でもある奇妙な悪魔。
アスタロトがあたしのもとへ来るのはいつも夜。
夢のように儚い逢瀬に、あたしは不安になる。
彼は、あるいは彼女は本当に現実にいるのだろうか。
公爵は人ではない。
その事実が、時折あたしを打ちのめす。
だから、アルコールの缶に手が伸びてしまう。
少し苦い。
けっして美味しいとは思わない。
でも、お酒に逃げてしまう。
馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿……。
夜風に吹かれて風鈴が涼やかな音をたてる。
縁側であたしは、二本目のビールを飲み干す。
頭がくらくらする……でも、止められない。
この馬鹿のせいだ。
「……もう止めよ」
「うるさい!」
「わしの言うことがきけぬか」
うるさい、うるさい……そんな声聞きたくない。
なんでそんなに色っぽい声なの、あんたって、
氷の張った桶に入れた本日三本目の缶ビールに手を伸ばす。
ここは人の世で、あたしは明日も仕事があって……だから、二日酔いなんてしている場合じゃないわけで……。
「代謝能力以上にエタノールを摂取するのではないぞ」
そう言いながら、アスタロトは缶ビールを取り上げた。
中味の残っている缶を握りつぶす。
ビールの炭酸泡が吹きこぼれた。
あたしは慌てて布巾でぬれた手をふいてやろうとしたが、まるで手品のように潰した缶も手も、すでに濡れてはいなかった。
あたしは缶ビールのタブに、指先を差し込んで押し開く。
ぷしゅっと軽い音がして、泡立つビールを口元に運ぶ。
少し零れたか。
もともと、ビールやアルコールの類は好きではない。
だが、彼に子供のようだと言われたのが悔しくって、甘いものは控えるようになった。
アルコールには習慣性があるのか、とくに美味しいとも思わないのに、ついつい手がでる。
必ず来てくれると判っているのに、たまらなく不安になるのだ。
とくに、こんなに蒼い月の夜には……。
「子供のくせに酒など呑むでない」
「誰が、子供だっていうのよ。立派に成人してるわよ」
「ならばよい。こちらへ来い」
「いやよ。“子供”に変なことするから」
「たった今、子供ではないと申したくせに」
「あんたに比べたら、子供だって気がしたの」
「しなければ、そなたが寂しがるであろ?」
「馬鹿……」
言いながらあたしは、またビールを口に運ぶ。
なんとなく落ち着くような、おおらかな気分になる。
どうしてだろう。
アルコールの効果なのか、ただ単に精神的な充足感なのだろうか。
「愛している……」
簡単に彼は口にするが、その言葉に真実はあるのだろうか。
現世に住まうあたしと、地獄の支配者の一人である魔神につりあいなどとれるはずもない。
男であり女でもある奇妙な悪魔。
アスタロトがあたしのもとへ来るのはいつも夜。
夢のように儚い逢瀬に、あたしは不安になる。
彼は、あるいは彼女は本当に現実にいるのだろうか。
公爵は人ではない。
その事実が、時折あたしを打ちのめす。
だから、アルコールの缶に手が伸びてしまう。
少し苦い。
けっして美味しいとは思わない。
でも、お酒に逃げてしまう。
馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿……。
夜風に吹かれて風鈴が涼やかな音をたてる。
縁側であたしは、二本目のビールを飲み干す。
頭がくらくらする……でも、止められない。
この馬鹿のせいだ。
「……もう止めよ」
「うるさい!」
「わしの言うことがきけぬか」
うるさい、うるさい……そんな声聞きたくない。
なんでそんなに色っぽい声なの、あんたって、
氷の張った桶に入れた本日三本目の缶ビールに手を伸ばす。
ここは人の世で、あたしは明日も仕事があって……だから、二日酔いなんてしている場合じゃないわけで……。
「代謝能力以上にエタノールを摂取するのではないぞ」
そう言いながら、アスタロトは缶ビールを取り上げた。
中味の残っている缶を握りつぶす。
ビールの炭酸泡が吹きこぼれた。
あたしは慌てて布巾でぬれた手をふいてやろうとしたが、まるで手品のように潰した缶も手も、すでに濡れてはいなかった。
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