正しい悪魔の飼い方

真守 輪

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地獄における人の自己欺瞞

7の巻

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 アスタロト。
 地獄の大公爵。
 それは配下の魔王たちにそう呼ばれていた。

 魔王たちは、アスタロトとは違って確かにそれらしい容貌をしている。
 側近だというサルガタナスは羊の頭部に、身体は人間の男だ。
 羊の口が開いて普通に日本語を話すのがいかにも不思議だった。

 まるでSFX映画やファンタジー系のゲームなどでお馴染みのクリーチャーだ。
 作り物が喋っているかのようだが、妙に生々しく口は動く。
 どういう発声をしているのか。
 動物なら、人間と同じ声帯をもつはずもない。

 重そうなねじれた角を蠢かす。
 ひどくそれが不気味に見えて、あたしはアスタロトの黒衣に隠れた。
 怯えて震え上がるあたしを見ると、公爵はやけに喜ぶ。
 それが悔しいのだが、どうしようもない。
 この時ばかりは、彼女の豊満な身体にしがみつくしかないのだ。とりあえず相手も女だからいいのか。

 また別の悪魔ネビロスは四つの耳と四つの目を持ち、顔の半分ほどを髭で覆われている。
 黒々とした髭の中には真っ赤な口があり、そこからは炎が噴き出す。
 その炎には熱さは感じないものの、恐ろしくあたしは膝ががくがくと笑ってしまうのが止められなかった。

 まともに立っていることさえできない。
 踏みしめる大地の感覚すら危うい。
 ぐっしょりとした苔を踏んでいるようでもあり、時おり乾いた枝を踏みしだくようでもあった。
 よく見れば、それは獣の骨で、それらはもろく簡単に崩れる。
 時おり、足をとられてつまずきそうになるのは、丸い人の頭蓋骨だった。

 あたしは恐ろしさに公爵にしがみつきながら悲鳴をあげ続けるしかない。
 喉が嗄れるほど叫び、それでも恐怖は大きくなるばかりで、眩暈がしそうだった。
 いっそ気絶でもできれば、楽になっただろう。

 今、あたしのいる世界のほかにも死後の世界というものがあるのだとアスタロトは言う。
 キリスト教徒や仏教徒でなくても、そんなことは小さいころから聞かされる。

 ――悪いことをしたら地獄に堕ちるよ。

 そんなこと本気になど、したことはなかった。
 しかし、あたしが連れていかれたのは、まるでダンテの神曲のような世界だった。

 煮えたぎる血で真っ赤な川の岸におぼれる人がいる。
 ずっと昔に聞いた血の池地獄というのは本当にあるのだ。

 まるで、牛の枝肉のように吊るされながら、血の中に落とされていく。
 ひどく血腥い。
 現実のこととも思えないのに、妙に感覚だけが研ぎ澄まされる。
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