正しい悪魔の飼い方

真守 輪

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地獄における人の自己欺瞞

5の巻

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「いや。もうけっこう。十分堪能したから放して」
「では、わしがそなたに触ってもよいか」
「いいわけないでしょ!」
「なぜじゃ」
 小首を傾げながら、不思議そうに悪魔は言う。
 大人の美しい女が、こんな子供じみた表情をするものは、妙なギャップがあって可愛い。

 エロ目的の下着みたいな甲冑を着ているくせに、どこか童女のような純情そうな顔を見せる。
 女神か天使を思わせるような……いや、妖しいほどの美しさはやはり魔性か。
 完璧すぎる造作は、可愛いという言葉には合わない。
 ほっそりとした身体を包む漆黒の甲冑が、むき出しにされた豊満な乳房とくびれた細腰をいっそう強調する。

 憎たらしいが美しいものは、やはり美しかった。
 まるで芸術品のような顔と身体に、見惚れてしまう。(性格はともかくとして)
 あたしが手を振りほどくと、待ちかねたように蛇が彼女の乳房にまつわりついた。
 艶々と黒光りする蛇の鱗が褐色の肌によく映えて、いっそう彼女の妖しい美しさを引き立てる。

 蛇に縊りだされた乳房は、ひどく艶めかしく淫靡だ。
 それでも悪魔は平然としている。
 見ているこっちのほうが恥ずかしい。

 だが、それでもまだ髻のほどけた血まみれの落ち武者や、白い着物のざんばら髪の幽霊でなくて、まだよかったのかもしれない。
 霊だとか、その手のものを見る体質ではないが、こんな古い家だと何かしら気配のようなものを感じることはある。それに比べたら、まだ悪魔や蛇のほうがましかもしれない。
 ホラー映画も、外国のものより和製のほうが怖いと感じるのと同じ理屈なのか。
 爬虫類は今でも苦手だが、すぐ鼻先近くまで蛇がいることが当たり前のようになっていた。

「自分の胸、触っときなさいよ。こんなに立派なんだから!!」
「そなたのがよい。この手の中にすっぽりおさまる。まことによい塩梅ゆえ」
 悪魔でも、“塩梅”なんて言葉を使うんだ。
 ……と妙なところで感心しながらも胸のことを言われたのは、ちょっと気にさわる。
 確かにあたしの胸は小さい。

「悪かったわね!」
 むっとして、睨みつけてやると目の前の美女は、こめかみを押さえながら柳眉を顰める。
 人間臭いしぐさは、もとから身についたものか。
 あるいは、わざとこちらを挑発しているのか。

「判らぬ。触ったほうがよかろう?」
 どうやら、真剣に言っているらしい。
 彼女とはまだ短い付き合いでしかないのだが、悪魔に人間の理屈は通らないのは知っている。もしかしたら単に彼女が天然なだけなのかもしれないが。

「どこで、触ったほうがいいって発想になるのよ」
「揉めば大きくなるゆえな」
 そう言いながら、今度はダイレクトにあたしの胸の先端をつまんだ。
 服の上からなんで、そこが判るのか。
 払いのけようとした手をすばやくつかみあげられる。
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