正しい悪魔の飼い方

真守 輪

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地獄における人の自己欺瞞

4の巻

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 豊満な乳房をあらわにした姿で女は、嫣然と微笑む。
 長い黒髪に、褐色の肌。
 これ見よがしに露出した完全な球を描くようなふたつのふくらみ。
 その先端は濃い朱鷺色をしていた。

 巴旦杏の形をした目許にエキゾチックな雰囲気がある。
 夜目でもはっきりと判る金色の双眸。まるで猫の目だ。
 胸から胴までのラインは蜂のようにくびれて、それを忠実にかたどる鎧は、コルセットに似ている。
 中世のプレートアーマーというのか、身体のラインに沿った薄い金属板をつないだもののようだ。

 漆黒の鎧に、同じく黒い大蛇が鎌首をもたげている。
 息を呑むような美女。
 残念ながらただの露出狂ではない。
 これがあたしの悪魔だ。

 胸甲を外し黒衣の襟をくつろげて、つんと上を向いた形のよい胸を見せつける。
 自慢か?
 自慢なのか。

 確かに彼女の胸は大きいだけではなく、形も色も見事だ。
 でも、乳輪は日本人のほうがもっと奇麗なピンク色をしている。
 ……いや。そんなくだらないことで張り合っている場合ではなかった。

 そもそも単なる自慢で、わざわざバストを露出する必要はないのだ。
 相手は悪魔だから人間の常識は、通用しない。
 頭を抱えそうになるあたしの両手首をしっかりと捕まえ彼女は、いきなり自らの豊満な胸に押しつける。

「うわっ!」
 張りつめたような肉の冷たい感触。
 なぜか触ったほうがたじろいでしまう。
 たちまち掌の下で、粒だった乳首が硬くそそり立つ。
 ぎょっとして手を引っ込めようとするが、相手がこちらの腕を放さない。

「どうじゃ?」
 半裸の女は、こちらを見据えてきた。
 猫を思わせるようなつり上がり気味の目が、やや寄りぎみになっている。
 漆黒の髪に縁取られた美貌があまりに真剣で、あたしはなぜだか後ろめたいような妙に追いつめられた気分になってきた。

 ――どうすればいいんだ。揉めってことか?

 当たり前だがあたしは、他人の胸など揉んだことがなかった。
 触ったことぐらいならあっても、普通は女同士で胸を弄ることなどありえないだろう。
 なんというのだろうか。
 ちょっとした好奇心が湧き上がる。

 温泉地などで見る気合いのない女の裸体などとは、くらべものにもならない。
 どんなグラビアアイドルでも、こんなに完璧な形のバストはないだろう。
 美乳という言葉があったら、まさにそれだ。
 見事な二つの球体。
 西洋の悪魔というのは、その外見も西洋人そのものだった。

 ……少し揉んでみたい気もする。
 いや、ダメだ。そんなことをしたらこいつの思う壷だ。
 まんまと敵の術中に陥るようなもの。

「かまわぬぞ。遠慮はいらぬ。揉め」
 そう言ってなおもぐいぐいと自分の胸にあたしの手を押しつける。
 筋肉質なくせに柔らかい。柔らかいが張りがある。
 うどんじゃないが腰があるとでもいうのか。

 朱鷺色の小さな尖りは、手の下でいっそう固くコリコリにしこっている。
 もし、あたしにそっち方面の性癖があれば、相手が悪魔であろうとむしゃぶりついているかもしれない。
 そんなことを考えて、無気力な笑いがこみあげてきた。
 馬鹿だ……。
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