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間話
天才気象予報士
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「皆さんおはようございます!もうすぐ梅雨を迎えるこの季節、いつ降るのか不安ですよね?今日も早速予報していきましょう!」
25年続く、朝の情報番組の看板コーナー。名物キャスターと呼ばれる、つい先日に還暦を迎えた男はトレードマークの白い髭を携えてカメラの前に立つ。
「ではまず、東北地方から──」
彼が人々から愛されるのは人柄だけでは無い。特筆すべきは、彼の予報能力である。
25年間、約9000日に近い予報を全て当てているのだ。それは勿論、終末の開花の日も…
当時、突然彼が語り始めたありえない予報。民衆は『遂に狂ったか』とヒトらしいミスをする老人に可愛げを感じる。
しかしそれがどうだ。日本人には凄惨なる悲劇が待っていた。
彼のことを預言者と呼ぶ者も少なく無い。それほどまでに彼の予報能力は支持されているのだ。
──
「雷同キャスター!お疲れ様です!昨日も予報完全的中!記録更新ですね!」
ペットボトルのお茶を手に老人の元に向かったのはこの春予報士となった若手だ。あわよくば、コツの様なものを雷同から盗みたいという魂胆がある。
「…小上君。そうだね、あとはみんなが信じてくれるか、だよ。」
「雷同さんの予報を信じない人がこの日本にいると思いますか?!」
「ハハハ…」
野心のある若者は嫌いでは無いが、喧しいのは勘弁して欲しいと心の中では思っている。口に出さないのは彼が国民に愛される優しさを持つからだろう。
「じゃあ、僕はこれで。1週間の予報をしないとだから。」
「えー!早くないですか?そんな1週間後なんて神にだって分かりませんよ!」
「…」
「雷同さん?」
足を止めてしまった雷同の様子から何か気に触る様な事を口走ってしまったのかと焦る。しかし、雷同の反応は逆である。
「キミに私の仕事場を見せてあげよう。」
──
「おお…」
小上は感嘆の声を洩らす。目の前に積まれた膨大な量の天気図。少し触れるだけで、地が揺れるだけで崩れるモノではあるが研磨された大理石の壁の如き側面で不安を微塵も感じない。
小上は圧巻する一枚を覗き見る。
「…5年後の天気?」
奇妙な話だったが、恐らく最新であろう最上部の天気図には今日の天気ではなく5年後の日付が書かれていた。
「これはね。私が予報士を始めた40年前に描いた天気図だよ。」
「40年前?!」
ますます奇妙だ。この雷同は預言者とでも言うのだろうか。
「どうしてわかるんですか…?」
恐る恐る聞く。雷同から思わず目を離してしまった。
──ピガァアン!
近くに雷柱立つ。晴天の霹靂である。
小上は更に恐怖した。それは突然の雷にではない。勢いにあてられた天気図が一斉に雪崩れたことでもない。
小上の真下に落ちた紙の日付は今日。
『カミナリ』
「ウワアアあ!!!!」
──
「そういえば小上君。どうして分かるのか、という質問だったね。当然の事だからだよ。天気はすでに決められている。」
返事はない。小上は感心して声も出ないのだろうか。ポツリぽつりと、夕立がコンクリートの石油の匂いを引き立たせる。
そんな心締め付けられる匂いに、雷同は顔を顰める。
「運命、ねぇ…決まっちゃってるんだから仕方ないよね。」
──
「雷同さん!本日もよろしくお願いします!」
「はい。よろしくお願いします。」
テレビスタッフを一瞥し、収録現場に雷同は入る。「仕事人」の立ち振る舞いにスタッフ達は感嘆の声を漏らし送り出した。
「おはようございます。梅雨も今日から本番!本日の天気をお教えしましょう!」
「東京の天気は最も荒れます。雨のち、隕石でございます。」
25年続く、朝の情報番組の看板コーナー。名物キャスターと呼ばれる、つい先日に還暦を迎えた男はトレードマークの白い髭を携えてカメラの前に立つ。
「ではまず、東北地方から──」
彼が人々から愛されるのは人柄だけでは無い。特筆すべきは、彼の予報能力である。
25年間、約9000日に近い予報を全て当てているのだ。それは勿論、終末の開花の日も…
当時、突然彼が語り始めたありえない予報。民衆は『遂に狂ったか』とヒトらしいミスをする老人に可愛げを感じる。
しかしそれがどうだ。日本人には凄惨なる悲劇が待っていた。
彼のことを預言者と呼ぶ者も少なく無い。それほどまでに彼の予報能力は支持されているのだ。
──
「雷同キャスター!お疲れ様です!昨日も予報完全的中!記録更新ですね!」
ペットボトルのお茶を手に老人の元に向かったのはこの春予報士となった若手だ。あわよくば、コツの様なものを雷同から盗みたいという魂胆がある。
「…小上君。そうだね、あとはみんなが信じてくれるか、だよ。」
「雷同さんの予報を信じない人がこの日本にいると思いますか?!」
「ハハハ…」
野心のある若者は嫌いでは無いが、喧しいのは勘弁して欲しいと心の中では思っている。口に出さないのは彼が国民に愛される優しさを持つからだろう。
「じゃあ、僕はこれで。1週間の予報をしないとだから。」
「えー!早くないですか?そんな1週間後なんて神にだって分かりませんよ!」
「…」
「雷同さん?」
足を止めてしまった雷同の様子から何か気に触る様な事を口走ってしまったのかと焦る。しかし、雷同の反応は逆である。
「キミに私の仕事場を見せてあげよう。」
──
「おお…」
小上は感嘆の声を洩らす。目の前に積まれた膨大な量の天気図。少し触れるだけで、地が揺れるだけで崩れるモノではあるが研磨された大理石の壁の如き側面で不安を微塵も感じない。
小上は圧巻する一枚を覗き見る。
「…5年後の天気?」
奇妙な話だったが、恐らく最新であろう最上部の天気図には今日の天気ではなく5年後の日付が書かれていた。
「これはね。私が予報士を始めた40年前に描いた天気図だよ。」
「40年前?!」
ますます奇妙だ。この雷同は預言者とでも言うのだろうか。
「どうしてわかるんですか…?」
恐る恐る聞く。雷同から思わず目を離してしまった。
──ピガァアン!
近くに雷柱立つ。晴天の霹靂である。
小上は更に恐怖した。それは突然の雷にではない。勢いにあてられた天気図が一斉に雪崩れたことでもない。
小上の真下に落ちた紙の日付は今日。
『カミナリ』
「ウワアアあ!!!!」
──
「そういえば小上君。どうして分かるのか、という質問だったね。当然の事だからだよ。天気はすでに決められている。」
返事はない。小上は感心して声も出ないのだろうか。ポツリぽつりと、夕立がコンクリートの石油の匂いを引き立たせる。
そんな心締め付けられる匂いに、雷同は顔を顰める。
「運命、ねぇ…決まっちゃってるんだから仕方ないよね。」
──
「雷同さん!本日もよろしくお願いします!」
「はい。よろしくお願いします。」
テレビスタッフを一瞥し、収録現場に雷同は入る。「仕事人」の立ち振る舞いにスタッフ達は感嘆の声を漏らし送り出した。
「おはようございます。梅雨も今日から本番!本日の天気をお教えしましょう!」
「東京の天気は最も荒れます。雨のち、隕石でございます。」
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読んで下さりありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。