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明日を生き残る為に
vs神の子ノア
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「蓮、お前はまだ弱い」
入隊してしばらく訓練を積んでいたとき、癒瘡木隊長がそう言った。当たり前の事だ、つい最近までただの高校生だった俺が特殊能力を得たぐらいで強くなれるはずがない。
現実を見せる言葉。しかし、彼が言いたかったのはもっと違う心持ちの話だった。
「だからと言って勝てない訳ではない」
─
雨は一段と強くなる。コンクリートに跳ねた雨で上下から雨に濡らされる。敵は依然として俺を格下に見ている。
敵の能力は詳しくは知らない。ただ見えない速度で、重い一撃が飛んでくることしか知らない。
対して俺は身体能力の拡張、通常の3~5倍の威力の蹴りや拳を3分間だけ使える。他には動体視力も同じく強化出来たりする。
『格上に当たったとき、状況を見極めろ。奴らは格下の全ての動きに対応出来ると慢心している。』
だから俺達は工夫をするのだ。能力の使用限界まで残り3分。俺は策を決めた。
それと同時に全身を脱力し、相手の方へ重心をむけた。一瞬の内に俺は全力で突進する。
「策が無いのかい?無闇矢鱈に突っ込んできてもボクには触れられないよ」
─ドゴ!!
残り2メートルの間合いで再び、俺は謎の衝撃を受け横に飛ばされる。それの衝撃を同じように壁を殴ることでつりあわせる。
思った通り、俺はヤツの攻撃を軽減できた。ならあとはひたすらに…
飛んだ。相手の耐久力は分からないが俺の一撃が当たればただじゃいられないはずだ。
ドゴ!ドゴ!
壁を削り立ち向かう。しかし、どんな速度であれ目の前の女は対応してくる。
「学がない。人は対応する生き物だろうに、さっきからただ飛ぶだけなら話にならない。-10点だよ。」
「勝手に言っとけ!」
この十数回の攻防で何となくだが相手の能力は掴めた。
見えない攻撃の正体、それは雨だ。俺がヤツの間合いに近づくたび空中の雨が固定され俺を弾き飛ばしている。
「ハァ…ハァ…」
とは言ってもこの全力運動は体に堪える。それに相手の攻撃も無効化出来てる訳ではない。保ってあと一、二回だろう。
「さてニンゲン、元々足りない脳味噌でも諦めを視野に入れたんじゃないか?」
「うるせぇ。今に見てろ!」
「でもボクは暇じゃないからさ。…そろそろ倒すね。」
ヤツは片手をポケットから出して、その人差し指を空に向ける、それは挑発の様な構えだった。
「このッ──」
その時だ。俺が力んだその瞬間、何かに俺の体は潰された。
「グ、…!」
倒れた俺を見下ろす様に近づく敵は、冷たい瞳をしている。ただでさえ雨で冷えた体が、駄目押しで凍らされる様に怖気がする。
「ヒトは弱いね。これだったらボクだけでも皆殺しに出来ちゃうよ。」
「お前…は、何だ!」
「ボク?ボクはね、」
綺麗な顔が満足げに笑む。
「神の子、ノアだ。」
「そうかじゃあ 死ね」
右手に持っていた起爆スイッチを押す。すると俺が殴っていたことでヒビの入っていた壁が更に大きく崩れた。ここは元市街地、目隠しの為に使われている壁は廃ビルの為ある程度衝撃を加えたら崩れる。
俺はさっきの攻防の中である仕掛けをしていた。ソレは壁を削り爆薬を埋めること。殴って衝撃を軽減させるのはふざけてる様に見えて爆薬を隠す動作を誤魔化せるし、相手の意識を散乱させられる。
そして俺が考えた通り、予想外の事態でノアは視線を逸らした。
「ウオオオオ!!!」
最後の全力だ。俺は右手に全ての力を込め、もう一度飛ぶ。今度こそ相手の反応は遅れて、その整った顔に俺の拳が当たる。それを俺は振り切った。
「一本、取られたよ」
飛ばされるノアの体。その先には崩壊途中の廃ビルがある。
──グチャ。
「これは想定外だった。」
これで倒せたのか?その路地は雨音だけする静かな空間となる。
──カンッカンカン!!
嫌な音がする。ノアは死んでいない。
「全、て計算しての行動か…うん。減点は撤回しよう。42点の赤点スレスレだねー」
スライムが瓦礫の隙間から湧き出てくる。ある程度出た所でそれは人の形を成し、さっきまで敵対していた女になった。
傷は無し、無傷。対して俺は、満身創痍。
「さて君、名前は?」
ノアはそう聞いてくる。
「神木蓮だ。殺すならとっとと殺せ」
「つれないな~ボクが殺すのは生きるに値しないニンゲンだけだよ?君はギリギリだけど合格点を出した。なら君は殺さない」
見下すノアの顔が暗くてよく見えない。だが恐ろしい気配はしない。
「それに君は──」
「蓮!!!」
ノアが何か言おうとしたその時、遂に援軍がくる。俺と敵の間を分ける様に氷の壁が出来た。
「遅いよ玲衣さん」
「貴方が連絡しないからでしょう…切り傷はない、殆どが打撲。手加減されたわね。」
ノアより濃い蒼の髪を靡かせて、現れたのは今回の任務で誰よりも強い玲衣さんだった。
「手加減?」
「だってアイツ、ノアでしょう?アイツは雨の中ならこの世界で2番目に強いから」
じゃあ1番目は、なんて聞こうとしたとき。氷の壁を突き破り、そのノアが現れる。
「駄目だよレイ。ボクの邪魔をしないでくれ、今いい所だったんだから」
「あらそうなの?折角だし続きは地獄で、貴方1人でやるのはどうかしら。」
「君のソレ、面白くないよ」
かつて面識があったかのように語り合う2人は、とても険悪にみえる。互いに殺意を向ける2人には雨なのに火花が散っているかのように思える。
「まぁいいよ。今回は殺戮命令なんて出ないし、新しい情報を持ち帰らなくちゃ行けないから帰るつもりだったんだ。」
緊張した力を脱力するノア。だが玲衣さんは逃すつもりは無いみたいだ。
「無駄、君にボクは殺せない。鈍いんだよ、そのせいで君は万年赤点。」
「チッ!」
「それじゃ、爺さんに叱られるから帰るよ。またね蓮、今度は君を拐うかも。」
俺が瞬きをしたその時、ノアのいる場所に氷柱が立つ。しかし、ヤツの姿は何処にもなく、玲衣さんは逃げられたと残念がっていた。
「以前会ったことが?」
「二年前に、同じように逃げれられた。」
ノアの性格は玲衣さんの気に触れるみたいだ。いつも冷静な玲衣さんが怒っている。
「あ!式ってどうなりました?!俺ずっといなかった!」
「それならもう終わってる。他の3人がやってくれたし、今きたわ。」
「おい蓮!って怪我だらけじゃ無いか!早く帰るぞ!」
仲間が助けに来てくれる。今までじゃなかった事だ。
「(あ、いしきが…)」
──
「玲衣ちゃん報告書ありがとうねー。にしても君1人に色々任せてごめんよ。別件がさー」
第一小隊隊長室。そこには軍服を着た緑髪の女がいる。
「いえ、今年は20と例年に比べプラント出現は少なく"雨"だったので」
「まさか神の子と接触するとは…ここ最近は物騒ね。」
報告書に添付されたグラフには、ここ数年のプラント発生状況の推移が書かれている。二年前から急増し、世界と比べた日本の河川の長さの様に縦になる線は意味を知るものに溜息をつかせるだろう。
「活動がどんどん盛んになってきています。ですから天竹隊長にも戦場に立ってもらわないと。」
「私も行きたいよ。でも隊長とか言う肩書きが重すぎて上手に動けないのよね~」
分厚い背もたれのついた椅子を蹴飛ばし、退屈そうにクルクルと回る。
「強くなるほど、戦場から離れてしまうのですか。」
「まぁ私がこの地位にいる限り、他の人は戦えるから任せるよ。玲衣ちゃん」
あなたの代わりはいません、と言おうと思った玲衣はその口を閉ざす。そんなこと天竹が一番よく分かっているからと。
「あ、そういやボスが神木蓮に確認しなければいけないことがあるって言ってたっけ。ある程度回復したら尋問室に連れてったげて」
神木蓮、ここ最近話題になる人物だ。入隊2ヶ月の新人ながら既に2回も敵と遭遇している。
「(彼には何かあるのかも知れない。)」
──
「お前、敵に遭ったら報告しろよ」
医務室で意識が戻った蓮とその周りに2人の男がいる。
「八重筒の言う通りだよ。死んじゃったらどうする気なんだよ」
「いやだからな火祭、今回は無線が壊れてて─」
「まぁ生きててよかったよ。」
火祭が肩を叩く。
「お前が空いた分の仕事は俺たちがやったけどなっ!」
「イタッ!」
八重筒にさらに強く背中を叩かれる。
「悪かったって 」
本当にコイツらは…
─コンコン。と叩かれドアが開かれる。
「神木蓮、所長が呼んでいる。」
入ってたのは俺を助けてくれた玲衣さんだった。
「叱られるんじゃねぇーの?」
冷やかすコイツらには人の心は無いのだろうか。痛んで重い体に気合いを入れ俺は立ち上がった。
あれ所長ってどんな顔だったっけ?
入隊してしばらく訓練を積んでいたとき、癒瘡木隊長がそう言った。当たり前の事だ、つい最近までただの高校生だった俺が特殊能力を得たぐらいで強くなれるはずがない。
現実を見せる言葉。しかし、彼が言いたかったのはもっと違う心持ちの話だった。
「だからと言って勝てない訳ではない」
─
雨は一段と強くなる。コンクリートに跳ねた雨で上下から雨に濡らされる。敵は依然として俺を格下に見ている。
敵の能力は詳しくは知らない。ただ見えない速度で、重い一撃が飛んでくることしか知らない。
対して俺は身体能力の拡張、通常の3~5倍の威力の蹴りや拳を3分間だけ使える。他には動体視力も同じく強化出来たりする。
『格上に当たったとき、状況を見極めろ。奴らは格下の全ての動きに対応出来ると慢心している。』
だから俺達は工夫をするのだ。能力の使用限界まで残り3分。俺は策を決めた。
それと同時に全身を脱力し、相手の方へ重心をむけた。一瞬の内に俺は全力で突進する。
「策が無いのかい?無闇矢鱈に突っ込んできてもボクには触れられないよ」
─ドゴ!!
残り2メートルの間合いで再び、俺は謎の衝撃を受け横に飛ばされる。それの衝撃を同じように壁を殴ることでつりあわせる。
思った通り、俺はヤツの攻撃を軽減できた。ならあとはひたすらに…
飛んだ。相手の耐久力は分からないが俺の一撃が当たればただじゃいられないはずだ。
ドゴ!ドゴ!
壁を削り立ち向かう。しかし、どんな速度であれ目の前の女は対応してくる。
「学がない。人は対応する生き物だろうに、さっきからただ飛ぶだけなら話にならない。-10点だよ。」
「勝手に言っとけ!」
この十数回の攻防で何となくだが相手の能力は掴めた。
見えない攻撃の正体、それは雨だ。俺がヤツの間合いに近づくたび空中の雨が固定され俺を弾き飛ばしている。
「ハァ…ハァ…」
とは言ってもこの全力運動は体に堪える。それに相手の攻撃も無効化出来てる訳ではない。保ってあと一、二回だろう。
「さてニンゲン、元々足りない脳味噌でも諦めを視野に入れたんじゃないか?」
「うるせぇ。今に見てろ!」
「でもボクは暇じゃないからさ。…そろそろ倒すね。」
ヤツは片手をポケットから出して、その人差し指を空に向ける、それは挑発の様な構えだった。
「このッ──」
その時だ。俺が力んだその瞬間、何かに俺の体は潰された。
「グ、…!」
倒れた俺を見下ろす様に近づく敵は、冷たい瞳をしている。ただでさえ雨で冷えた体が、駄目押しで凍らされる様に怖気がする。
「ヒトは弱いね。これだったらボクだけでも皆殺しに出来ちゃうよ。」
「お前…は、何だ!」
「ボク?ボクはね、」
綺麗な顔が満足げに笑む。
「神の子、ノアだ。」
「そうかじゃあ 死ね」
右手に持っていた起爆スイッチを押す。すると俺が殴っていたことでヒビの入っていた壁が更に大きく崩れた。ここは元市街地、目隠しの為に使われている壁は廃ビルの為ある程度衝撃を加えたら崩れる。
俺はさっきの攻防の中である仕掛けをしていた。ソレは壁を削り爆薬を埋めること。殴って衝撃を軽減させるのはふざけてる様に見えて爆薬を隠す動作を誤魔化せるし、相手の意識を散乱させられる。
そして俺が考えた通り、予想外の事態でノアは視線を逸らした。
「ウオオオオ!!!」
最後の全力だ。俺は右手に全ての力を込め、もう一度飛ぶ。今度こそ相手の反応は遅れて、その整った顔に俺の拳が当たる。それを俺は振り切った。
「一本、取られたよ」
飛ばされるノアの体。その先には崩壊途中の廃ビルがある。
──グチャ。
「これは想定外だった。」
これで倒せたのか?その路地は雨音だけする静かな空間となる。
──カンッカンカン!!
嫌な音がする。ノアは死んでいない。
「全、て計算しての行動か…うん。減点は撤回しよう。42点の赤点スレスレだねー」
スライムが瓦礫の隙間から湧き出てくる。ある程度出た所でそれは人の形を成し、さっきまで敵対していた女になった。
傷は無し、無傷。対して俺は、満身創痍。
「さて君、名前は?」
ノアはそう聞いてくる。
「神木蓮だ。殺すならとっとと殺せ」
「つれないな~ボクが殺すのは生きるに値しないニンゲンだけだよ?君はギリギリだけど合格点を出した。なら君は殺さない」
見下すノアの顔が暗くてよく見えない。だが恐ろしい気配はしない。
「それに君は──」
「蓮!!!」
ノアが何か言おうとしたその時、遂に援軍がくる。俺と敵の間を分ける様に氷の壁が出来た。
「遅いよ玲衣さん」
「貴方が連絡しないからでしょう…切り傷はない、殆どが打撲。手加減されたわね。」
ノアより濃い蒼の髪を靡かせて、現れたのは今回の任務で誰よりも強い玲衣さんだった。
「手加減?」
「だってアイツ、ノアでしょう?アイツは雨の中ならこの世界で2番目に強いから」
じゃあ1番目は、なんて聞こうとしたとき。氷の壁を突き破り、そのノアが現れる。
「駄目だよレイ。ボクの邪魔をしないでくれ、今いい所だったんだから」
「あらそうなの?折角だし続きは地獄で、貴方1人でやるのはどうかしら。」
「君のソレ、面白くないよ」
かつて面識があったかのように語り合う2人は、とても険悪にみえる。互いに殺意を向ける2人には雨なのに火花が散っているかのように思える。
「まぁいいよ。今回は殺戮命令なんて出ないし、新しい情報を持ち帰らなくちゃ行けないから帰るつもりだったんだ。」
緊張した力を脱力するノア。だが玲衣さんは逃すつもりは無いみたいだ。
「無駄、君にボクは殺せない。鈍いんだよ、そのせいで君は万年赤点。」
「チッ!」
「それじゃ、爺さんに叱られるから帰るよ。またね蓮、今度は君を拐うかも。」
俺が瞬きをしたその時、ノアのいる場所に氷柱が立つ。しかし、ヤツの姿は何処にもなく、玲衣さんは逃げられたと残念がっていた。
「以前会ったことが?」
「二年前に、同じように逃げれられた。」
ノアの性格は玲衣さんの気に触れるみたいだ。いつも冷静な玲衣さんが怒っている。
「あ!式ってどうなりました?!俺ずっといなかった!」
「それならもう終わってる。他の3人がやってくれたし、今きたわ。」
「おい蓮!って怪我だらけじゃ無いか!早く帰るぞ!」
仲間が助けに来てくれる。今までじゃなかった事だ。
「(あ、いしきが…)」
──
「玲衣ちゃん報告書ありがとうねー。にしても君1人に色々任せてごめんよ。別件がさー」
第一小隊隊長室。そこには軍服を着た緑髪の女がいる。
「いえ、今年は20と例年に比べプラント出現は少なく"雨"だったので」
「まさか神の子と接触するとは…ここ最近は物騒ね。」
報告書に添付されたグラフには、ここ数年のプラント発生状況の推移が書かれている。二年前から急増し、世界と比べた日本の河川の長さの様に縦になる線は意味を知るものに溜息をつかせるだろう。
「活動がどんどん盛んになってきています。ですから天竹隊長にも戦場に立ってもらわないと。」
「私も行きたいよ。でも隊長とか言う肩書きが重すぎて上手に動けないのよね~」
分厚い背もたれのついた椅子を蹴飛ばし、退屈そうにクルクルと回る。
「強くなるほど、戦場から離れてしまうのですか。」
「まぁ私がこの地位にいる限り、他の人は戦えるから任せるよ。玲衣ちゃん」
あなたの代わりはいません、と言おうと思った玲衣はその口を閉ざす。そんなこと天竹が一番よく分かっているからと。
「あ、そういやボスが神木蓮に確認しなければいけないことがあるって言ってたっけ。ある程度回復したら尋問室に連れてったげて」
神木蓮、ここ最近話題になる人物だ。入隊2ヶ月の新人ながら既に2回も敵と遭遇している。
「(彼には何かあるのかも知れない。)」
──
「お前、敵に遭ったら報告しろよ」
医務室で意識が戻った蓮とその周りに2人の男がいる。
「八重筒の言う通りだよ。死んじゃったらどうする気なんだよ」
「いやだからな火祭、今回は無線が壊れてて─」
「まぁ生きててよかったよ。」
火祭が肩を叩く。
「お前が空いた分の仕事は俺たちがやったけどなっ!」
「イタッ!」
八重筒にさらに強く背中を叩かれる。
「悪かったって 」
本当にコイツらは…
─コンコン。と叩かれドアが開かれる。
「神木蓮、所長が呼んでいる。」
入ってたのは俺を助けてくれた玲衣さんだった。
「叱られるんじゃねぇーの?」
冷やかすコイツらには人の心は無いのだろうか。痛んで重い体に気合いを入れ俺は立ち上がった。
あれ所長ってどんな顔だったっけ?
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