3 / 11
皆さんとお夜食
3
しおりを挟むキッチンに戻ってきた俺は保存食ボックスを開き、そうめんを取り出す。
大きな鍋にお湯を張り、さらに火を点けて沸かす。その間に隣のコンロには深めのフライパンを置いておく。
「…えーと…」
人数が人数だから、冷蔵庫からかにかまをごそっと取り出し手で裂いてフライパンに入れる。ついでに明日の朝ごはんの卵焼き用に溶いておいた卵液も一緒に出しておく。
火を点けてかにかまをちょっと炒めてからフライパンに水と鳥ガラスープの素、白だしと生姜チューブを入れて沸騰させ、火を消して卵液をフライパンの中へとお玉で二、三回程回しながら流していく。
すると、ふわふわなかきたまスープが出来た。
「…皆さん何も食べてないって言ってたもんな」
俺は追加で片栗粉を溶かしスープの中に入れて餡にする。まだ冷える夜に今まで働いていただろうから、きっと体も冷えている。
こうすると体もよく温まるし、胃にも優しいと本に書いてあった。
隣ではお湯が沸き、俺はそうめんをパパッと茹でていく。
「咲耶、なんか手伝うことある?」
「依鶴さん」
キッチンにやってきたのは先程お腹を鳴らした本人、依鶴さんだ。依鶴さんは俺の隣にやってきて、鍋の中身を覗く。
「うわ、美味そう」
「もうすぐ出来ますよ」
優しい出汁に混じった生姜の香りがキッチンを満たし、依鶴さんの腹がまたぐぅっと鳴った。依鶴さんは少し恥ずかしそうに笑いながら棚から人数分のどんぶりを出してくれた。
依鶴さんに礼を言い、俺は茹で上がったそうめんをどんぶりに入れていき上から先程作った餡を掛けていく。
仕上げに白ゴマと小口ねぎを散らせば完成だ。
依鶴さんはお盆にどんぶりを乗っけて、俺は人数分の湯呑みとお茶を乗っけて皆さんが待つお座敷へと向かう。
「うわ、すっげーいい匂いする~」
「俺さっきからめっちゃ腹鳴っててやばい」
本来なら寝静まる夜、ガヤガヤとしながら机の上にはどんぶりとお茶が並べられていく。
外国の方が多いこのお屋敷で、何故こんなお座敷があるのかと聞いたら皆さん日本が大好きなのだそうで。
(…何回見ても不思議な感じだなぁ)
皆さん上手に箸も使えるから、俺としては気をそこら辺で遣わなくていいからありがたい。
そして旦那様が頂きます、と手を合わせると皆さんも同じように手を合わせて食べ始める。
本当に行儀の良い方達だなぁ。
「うん、美味い!」
「はぁ~…胃に染みる…」
「咲耶てんさーい」
「…旦那様がお前を雇ってくれて良かったよ…」
「あはは、お口に合って何よりです」
ふーふーしながら食べ進めている皆さんにほっとしながら、チラリと隣にいる旦那様を窺う。旦那様もふー、と冷ましながら食べているけれど味は大丈夫かな。
「…美味しいよ、ありがとう咲耶」
「っ…はい…!」
旦那様の綺麗な青い瞳が優しく笑う。
良かった、っていう安心と一緒にドクンっと心臓が鳴ったような気がした。
旦那様格好いいもんな、仕方ないよね。
「…にーちゃぁ…?」
「咲良?起きたのか?」
ぺたぺたとゆっくり足音を立て目を擦りながらやってきたのは咲良だった。
俺はすぐさま咲良に傍に行き、眠たくてぽかぽかな小さな体を抱っこする。
「すまないね、咲良。起こしてしまったかい?」
「…んー…」
旦那様がその大きな手で咲良の頭を撫でると、咲良はぽやっとした眼差しのまま辺りを見回す。
そして数秒後、にこっと嬉しそうに笑った。
「みんな、おかぇり!」
舌足らずな出迎えの言葉に、皆さんがふはっと噴き出し優しい顔をしながらただいま、と咲良に応えてくれる。
「ありがとな咲耶、後は自分達で片付けるからもう今日は休んでくれ」
「ボスもお疲れ~。後は任せて~」
「あ、ありがとうございます。おやすみなさい」
「「「おやすみー」」」
皆さんに挨拶をして、俺は自分の部屋へと戻る。咲良はいつの間にか旦那様の腕の中に移動していて、嬉しそうにしていた。
「旦那様、ありがとうございます。重くないですか?」
「大丈夫、全然重くないよ」
片手で咲良を軽々と抱っこしている旦那様。
すごい、俺は両手じゃないとちょっとしんどいのに。
旦那様から再び寝息を立て始めた咲良を受け取り、起こさないように体勢を直す。
「……あ、ストール」
「あげるよ、そのまま使って」
「え、でもっ…」
「私が、君に使ってて欲しいんだ」
嫌かい?なんて首を傾げる旦那様に俺は全力で頭を横に振る。イケメンの力やばい。
「全然っ、むしろ嬉しいです!」
「なら良かった」
旦那様は優しく微笑み、ぽんぽんと俺の頭を撫でた。その手の大きさに思わず旦那様を見上げる。
そうだよな、旦那様はこんなに身長高いもんな。俺もこれくらい身長伸びればいいんだけどなぁ。
「おやすみ、咲耶」
頭を撫でていた大きな手が俺の前髪をサラリと掬い、晒された額にちゅっと軽い音と感触。
俺は何が起こったか理解出来ないまま、微笑みを携えた旦那様の背中を見送るしか出来なかった。
「…っえ!?俺でこちゅーされた!?」
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる