愛情ノワール

波乃亜ゆるの

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皆さんとお夜食

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 キッチンに戻ってきた俺は保存食ボックスを開き、そうめんを取り出す。
 大きな鍋にお湯を張り、さらに火を点けて沸かす。その間に隣のコンロには深めのフライパンを置いておく。
 
 「…えーと…」
 
 人数が人数だから、冷蔵庫からかにかまをごそっと取り出し手で裂いてフライパンに入れる。ついでに明日の朝ごはんの卵焼き用に溶いておいた卵液も一緒に出しておく。
 火を点けてかにかまをちょっと炒めてからフライパンに水と鳥ガラスープの素、白だしと生姜チューブを入れて沸騰させ、火を消して卵液をフライパンの中へとお玉で二、三回程回しながら流していく。
 すると、ふわふわなかきたまスープが出来た。
 
 「…皆さん何も食べてないって言ってたもんな」
 
 俺は追加で片栗粉を溶かしスープの中に入れて餡にする。まだ冷える夜に今まで働いていただろうから、きっと体も冷えている。
 こうすると体もよく温まるし、胃にも優しいと本に書いてあった。
 隣ではお湯が沸き、俺はそうめんをパパッと茹でていく。
 
 「咲耶、なんか手伝うことある?」
 「依鶴さん」
 
 キッチンにやってきたのは先程お腹を鳴らした本人、依鶴さんだ。依鶴さんは俺の隣にやってきて、鍋の中身を覗く。
 
 「うわ、美味そう」
 「もうすぐ出来ますよ」
 
 優しい出汁に混じった生姜の香りがキッチンを満たし、依鶴さんの腹がまたぐぅっと鳴った。依鶴さんは少し恥ずかしそうに笑いながら棚から人数分のどんぶりを出してくれた。
 依鶴さんに礼を言い、俺は茹で上がったそうめんをどんぶりに入れていき上から先程作った餡を掛けていく。
 仕上げに白ゴマと小口ねぎを散らせば完成だ。
 
 依鶴さんはお盆にどんぶりを乗っけて、俺は人数分の湯呑みとお茶を乗っけて皆さんが待つお座敷へと向かう。
 
 「うわ、すっげーいい匂いする~」
 「俺さっきからめっちゃ腹鳴っててやばい」
 
 本来なら寝静まる夜、ガヤガヤとしながら机の上にはどんぶりとお茶が並べられていく。
 外国の方が多いこのお屋敷で、何故こんなお座敷があるのかと聞いたら皆さん日本が大好きなのだそうで。
 
 (…何回見ても不思議な感じだなぁ)
 
 皆さん上手に箸も使えるから、俺としては気をそこら辺で遣わなくていいからありがたい。
 そして旦那様が頂きます、と手を合わせると皆さんも同じように手を合わせて食べ始める。
 本当に行儀の良い方達だなぁ。
 
 「うん、美味い!」
 「はぁ~…胃に染みる…」
 「咲耶てんさーい」
 「…旦那様がお前を雇ってくれて良かったよ…」
 「あはは、お口に合って何よりです」
 
 ふーふーしながら食べ進めている皆さんにほっとしながら、チラリと隣にいる旦那様を窺う。旦那様もふー、と冷ましながら食べているけれど味は大丈夫かな。
 
 「…美味しいよ、ありがとう咲耶」
 「っ…はい…!」
 
 旦那様の綺麗な青い瞳が優しく笑う。
 良かった、っていう安心と一緒にドクンっと心臓が鳴ったような気がした。
 旦那様格好いいもんな、仕方ないよね。
 
 「…にーちゃぁ…?」
 「咲良?起きたのか?」
 
 ぺたぺたとゆっくり足音を立て目を擦りながらやってきたのは咲良だった。
 俺はすぐさま咲良に傍に行き、眠たくてぽかぽかな小さな体を抱っこする。
 
 「すまないね、咲良。起こしてしまったかい?」
 「…んー…」
 
 旦那様がその大きな手で咲良の頭を撫でると、咲良はぽやっとした眼差しのまま辺りを見回す。
 そして数秒後、にこっと嬉しそうに笑った。
 
 「みんな、おかぇり!」
 
 舌足らずな出迎えの言葉に、皆さんがふはっと噴き出し優しい顔をしながらただいま、と咲良に応えてくれる。
 
 「ありがとな咲耶、後は自分達で片付けるからもう今日は休んでくれ」
 「ボスもお疲れ~。後は任せて~」
 「あ、ありがとうございます。おやすみなさい」
 「「「おやすみー」」」
 
 皆さんに挨拶をして、俺は自分の部屋へと戻る。咲良はいつの間にか旦那様の腕の中に移動していて、嬉しそうにしていた。
 
 「旦那様、ありがとうございます。重くないですか?」
 「大丈夫、全然重くないよ」
 
 片手で咲良を軽々と抱っこしている旦那様。
 すごい、俺は両手じゃないとちょっとしんどいのに。
 旦那様から再び寝息を立て始めた咲良を受け取り、起こさないように体勢を直す。
 
 「……あ、ストール」
 「あげるよ、そのまま使って」
 「え、でもっ…」
 「私が、君に使ってて欲しいんだ」
 
 嫌かい?なんて首を傾げる旦那様に俺は全力で頭を横に振る。イケメンの力やばい。
 
 「全然っ、むしろ嬉しいです!」
 「なら良かった」
 
 旦那様は優しく微笑み、ぽんぽんと俺の頭を撫でた。その手の大きさに思わず旦那様を見上げる。
 そうだよな、旦那様はこんなに身長高いもんな。俺もこれくらい身長伸びればいいんだけどなぁ。
 
 「おやすみ、咲耶」
 
 頭を撫でていた大きな手が俺の前髪をサラリと掬い、晒された額にちゅっと軽い音と感触。
 俺は何が起こったか理解出来ないまま、微笑みを携えた旦那様の背中を見送るしか出来なかった。
 
 
 「…っえ!?俺でこちゅーされた!?」
 
 
 
 
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