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14章 フロントホテル・フォークロア

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 「月影ましろ様と望月来夢様名義でご予約の方々ですね。こちらへどうぞ」
 「うわ……」
 「広いね……」
 「広すぎ……」
 予約していたホテルのフロントでの出迎え。広々としたホールに、ましろ、鵜久森、綺羅々の3人は圧倒され、思わず声が出た。林檎は両親がホテルを経営していた為、来夢はお嬢様の為、ホテル慣れしている。
 途中で天井に見栄えある照明が設置されている、宿泊客が利用出来るラウンジに案内された後、本部が予約してくれていた91号室のモデレートツインルームと122号室のスーペリアツインルームに到着し、各自荷物を部屋に置いた。
 モデレートツインルームはましろと鵜久森(+1匹)、スーペリアツインルームは来夢、林檎、綺羅々で使用する。
 「色彩的に落ち着きますね」
 「高級感が溢れるって言うか」
 「TVがあるから、TV画面でゲームしていい?無料でケーブル貸し出しあるって聞いたし」
 「私はあまりTVは見ないから良いですけど……」
 「お好きになさって。私もあまりTVは見ませんので。ただし、ゲームにも誘わないで下さいまし。読書をする予定ですので」
 このホテル・フォークロアからフォークロアパークへは徒歩で行ける。部屋で寛ぐのも良し、先程のラウンジで寛ぐのも良し。但し、営業時間は14時頃からのようだ。
 「今日は15時からパークに行けるね。明日は朝から満喫できて、3日後にはチェックアウトって流れになる」
 「じゃあ、今日は少し暇になるから、僕はラウンジに行って一足先にスイーツ満喫しようかな……、?」
 ましろはパークのパスの裏に文字が書かれていることに気付いた。
 『フロントで受付を担当した女性に、現在パーク内で発生している物語《ソネット》粒子について聞くこと。事件を解決するまでましろくんはメインの豪華スイーツは抜きですって』
 筆跡からして、紬が書いた文章だろう。本部からの伝言。紬がついてこなかったのは、始めから仕事だと知っていたからか。
 「いや、紬さんがこんなコスチュームを作る絶好の機会を逃したい筈はないと思うけど」
 『本部のことだから、こんなことだろうと思った』
 「そんなぁ……」
 「ラプス、パークから漂う物語《ソネット》の気配に気付いてたんだろ。どうして言わないんだ」
 鵜久森がラプスに問い掛けると、ラプスは淡々と答えた。
 『言わなくても問題ない、微量粒子だからさ。本部の方針、「育てて回収」わかってるだろう?』
 珍しく鵜久森が睨みを効かせるが、ラプスは平然としている。
 「それ、今回は大勢の人を巻き込んでいるってこと?」
 『そうだね』
 「閉園して、ボクらだけにするのはダメなのかなぁ」
 『それだと物語《ソネット》は成長しないからダメだ』
 先程までの嬉しさの笑顔から一転、ましろと鵜久森は眉を顰める。
 『君たちが次にすることは、案内してくれた本部と繋がりがある女性に近日、パーク内で起きた状況の説明を受けて、来夢たちに知らせること。なんなら来夢たちには僕から報告しようか?』
 「……仕方ないなぁ。取り敢えず紬さんのメモ通り、話を聞きに行くよ。あと、来夢たちへの説明は僕らがするから」
 ましろの意見に鵜久森も頷き、ひとまずはフロントへ戻った女性に聞き込みをすることから始まった。


◇◇◇


 部屋が離れている為、宿泊客専用ラウンジに集合して聞き込み内容を話すこととなった。
 ましろとしては、ラウンジ内で用意されているソフトクリームやクッキー、マカロンを食べたり、万が一物語《ソネット》が顕現した時に備えて少し持ち歩くことが出来て好都合である。
 「後1時間でパークに行くことになってるから、手短に説明するね」
 ましろがフロントの女性に聞いた内容を、丸いテーブルを囲んで4人と1匹が確認する。
 まず、少し異変が起きているのは7つのテーマパークの内のひとつ、不思議の国のアリスをテーマにして作られた場所。ここ数日で、何度か小さな女の子から若い女性までが行方不明になりかけているそうだ。
 「なりかけている」だけで、実際には全員見つかっている。
 ただ、行方不明になりかけていた女性たちの共通点は「本当にアリスになって、夢を見ていた心地」になっており、パーク内で家族や知人と離れ離れになったことすら曖昧であるということ。
 「それって……、あたしみたいに物語《ソネット》取り込まれた後にーー無事に出てきたってこと?」
 綺羅々が携帯ゲームの合間に疑問を発し、来夢は不思議の国のアリスのストーリーを思い出そうと考え込む。
 「他の部署から派遣された物語《ソネット》狩りが来ている?」
 「だとしたら流石に本部から知らせがある筈ですわ。今回のチケットは本部から渡されたものですし。……確か、不思議の国のアリスは、ストーリーの最後に目を覚ましますわ」
 『幾つか違うストーリーになる場合もあるわけだけど、今回起こっているのはオリジナルの結末に沿った王道パターン、ってことだね』
 「でも、そんなに都合良く2日間の間に物語《ソネット》が顕現、するんですか……?」
 おずおずと聞き出す林檎にラプスがピンと片耳を立てる。
 『そうする為に今回は君がいるーー』
 「え?」
 『いやいやなんでもないさ。続けて』


 「ーーやはりな。本部がオレたちに仕事を寄越さなかったのは、あのメガネっ子が関係しているようだ」
 「どゆこと?」
 ラウンジの片隅のテーブルでオレンジジュースを飲み干す鴉に、榴姫が問い掛ける。
 「メガネっ子に残っている赤ずきんの物語《ソネット》の残滓を利用して、パーク内で起きている、顕現しかけた物語《ソネット》を刺激させ、ヤツらが滞在中の間に物語《ソネット》を活性化させるのが本部のシナリオだろう。そう珍しくはない。研究したがるヤツらにとってはよくある話だ」
 「じゃあ、向こうのラプスはあの子に物語《ソネット》の残滓が残ってないって、ウソを言ってたってこと?」
 「たぶんな。その方が本部にとっては都合が良いんだろう」


 「綺羅々さんと鵜久森さんが巻き込まれた物語《ソネット》も王道パターンだったけど、今回のは「王道パターンから外れないとダメ」なのかな?」
 期間限定のシャインマスカットソフトクリームを舐めながら、ましろは本題を切り出した。
 「何故そう思うんですの?」
 「だって、「目が覚めたら何も解決しない」んだよね?」
 「……そうか!既に物語《ソネット》は顕現している!ーーで、あってるのかなましろくん?」
 「そうです。「顕現しているけど、ストーリーの王道に沿ったパターンだから、取り込んだ人間を返す」ようになっているんじゃないかなぁって」
 「でもそれだとラプスが今まで感知出来なかったのは変じゃん」
 「あはは。この小動物の言うことは、昔からいい加減なところがあるからねー」
 ソフトクリームを食べている最中の為、手が汚れないようにましろは肘でテーブルにちょこんと座っているラプスを小突いた。
 「ラプスよりもゲームに出てくる案内人の村人の方がよっぽど敏感だよー」
 「そうかも」
 ましろはラプスの言う事を昔から信用してない。ラプスが言うことに嘘が含まれている前提で、ラプスに付き合っている節がある。ゲーム内の村人の方が異変に敏感で主人公たちに問題を解決してもらう為に頼るから嘘を吐かない安定且つ一定の安心感がある。ゲーム好きな綺羅々にはよくわかる例えだった。
 「……忘れがちだけど、ああいう方針の本部からの支給品だからね。僕も無闇に信用しないように気をつけるよ」
 鵜久森は本部のやり方でなく、ましろのやり方に賛同してアーバン・レジェンドの一員になった為、本部の方針を聞く事に嫌な表情をする。
 沈黙が続き、テーブル付近で綺羅々のプレイしているゲーム音のみが響く中、本部のやり方は仕方ないことだと割り切っている来夢が口を開いた。
 「さて。15時から行くアトラクションも決まったことですし、各自部屋に戻って準備を致しましょう。ーー物語《ソネット》と遭遇してもいいように」
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