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8章 閑話休題
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翌日の日曜日の昼時。
ましろはアーバンに買い出しを頼まれた。いつものように自転車に乗ろうとした途端、まるで猫を撫でるような声が響く。
「買い出しですの?なら私もご一緒してよろしくて?」
ましろが振り向くと、ラフなブラウスにスリットが入ったロングスカート姿の来夢が立っていた。髪はバラつかないようにピンで後ろに纏めている。
「カフェの接客は?」
「鵜久森さんが二つ返事で喜んで代わってくれましたの」
(……鵜久森さん、ボクと来夢の関係、何か勘違いしてないかなぁ……)
偶々なのか、それとも意図的なものなのか。ましろにとって来夢は幼なじみである。それ以外の何者でもない。それ以上でもそれ以下でもないのだ。しかし。
「じゃあ、後ろに乗る?」
「い、いいえ!小鹿さんが自転車を貸してくれましたの!結構ですわ」
全く、貴方のそういうところがなどと来夢は独り言を呟く。ましろは来夢が自転車に乗る前に漕ぎ出した。
「ちょっと!お待ちになって」
「なんでさ?一緒に乗らないんでしょ?」
「貴方のそういうところが変なところなんですけど、全然治ってないんですわね」
「?」
来夢に呼び止められ、ましろは来夢が追いつくのを待つように軽めに自転車を漕ぐ。
「ちょっと!止まって下さいまし!サドル調整をしないと乗れませんの!」
綺羅々は背が低く、来夢は若干背が高いほうに入る為、来夢が乗る為にはサドル調整する必要があった。
『全く。来夢が居ると騒がしくてロクに眠れやしない』
一応ラプスはましろがアーバン・レジェンドの代表として所持している為、ましろの自転車のカゴの中が、ラプスの特等席になっている。
ましろが自転車を停めてから暫くすると、サドルを調整し終えた来夢が追い付いた。2人で横並びになり、自転車を再び漕ぎ出す。ましろは来夢の漕ぐペースに合わせた。
『イギリスでの活動はどうだい来夢?』
「それ、貴方が聞くことですの?普通ましろさんが聞くものではないのかしら?」
不満そうな表情をしながらも、来夢はラプスの問いかけに返答する。
「ましろさんも少し向こうに居た期間で経験された通り、相変わらず頻繁に物語《ソネット》が現れるのは変わってませんわ。報告したところ、いつの頃だかに日本の3倍くらいあると本部の方に驚かれましたわ」
「うわぁ。日本に帰れてよかったぁ」
「帰れて、じゃなくてましろさんの場合は左遷のようなものでしょうに」
正確に言うならましろの気質や性格がイギリスチームに合わないという理由で、物語《ソネット》狩りの基礎知識や基本学習を終えるなり、本部から日本に戻るように通達が来たのである。
あの時は表情に出さなかったが、ましろは鵜久森と初めて出会って事情を知った時、鵜久森に親近感が湧いていた。
「1日に多くて3つの物語《ソネット》と対峙する日もありましたわ。朝昼晩。つまり1日ぶっ通しの日もありますのよ」
「うわぁ……」
「イギリスと比べると日本は本当に平和ですわね。私なんて、昨日も夜中に物語《ソネット》に遭遇しないか半端心配してよく眠れませんでしたのに」
『その面は安心して。夜中に領域展開する物語《ソネット》は、少なくともこの街ではない。その点については夜中にお腹を空かせて起きては二度寝する僕が保証しよう』
無論、ラプスがお腹を空かせているのは回収している粒子が少ない為だ。
『本部や僕としては不本意なことだけど、この部署では一応ましろが代表だから仕方ない。ただの端末の僕はましろの方針に従うしかない』
因みに、犬や猫に似ているからと言ってドッグフードやキャットフードをあげても腹は膨らまないらしい。まだ組織や物語《ソネット》に関して詳しくない、小動物に出会って間もない時にましろが試した手段だ。
「あ、そうだ。アーバン・レジェンドの代表……リーダー、変わろうか?」
「へっ?」
予想外の話になり、来夢は間の抜けた声を出してしまった。
「鵜久森さんが加わった時にも、リーダーお願いしてもいいですかって、聞いたことがあるんだけど。なぜか断られちゃって。ボクより彼のほうがリーダー向きかと思ったんだけどなぁ」
「そ、そんなことありませんわよ!私はまだ鵜久森さんと出会ったばかりで彼のことはよく知りませんが、ましろさんのことなら私にもわかりますわ!ましろさんはのらりくらりとなんだかんだで事件を解決するホームズのようで、頼もしいところもあるーー」
来夢はハッとして口を閉ざした。頬を赤らめてテンション高めに喋っていた自分を振り返り、冷静になる。
「こほん。ともかく、リーダー変更の件はお断りしますわ。私にはリーダーの座の貴方を退ける意志はございませんの。リーダーは貴方のままでよろしいのではなくて?」
「そうかなぁ」
「そうですわ」
ボクは絶対リーダー向きじゃない、などとぶつぶつ呟くましろを他所に、来夢は気分が良かった。
また、昔よりは人数が多いが、ましろと物語《ソネット》退治が出来る機会が増えたのだから。
◇◇◇
ましろと来夢が最寄りのスーパーの買い物から帰って来ると、宿になっている裏のほうの建物に引っ越しセンターのトラックが止まっていることに気付いた。
「来夢の荷物?」
「いいえ。私は必要最低限のものしか持って来てませんわ」
引っ越しセンターを誰が呼んだかは、キッチンに立った時にアーバンに聞いて知ることになった。
「あれは高坂くんの荷物を乗せたトラックだよ」
「へっ?!」
「朝に言ってなかったかな?ご両親がホテル事業を本部に受け渡して他の事業に専念するそうだから、君と同じくーー林檎くんをウチで預かることになったんだが。来夢くんは少し前から移動してくると聞いてはいたが、まさか1週間の内に2人も居候が増えるとは、私も予想外だよ」
「まあ、カフェのバイトが増えて助かるんだが」と、付け加えてアーバンは薄らと微笑んだ。まるで孫が沢山増えたみたいだと喜んでいるようだった。
「アーバンさん、独身ですもんね」
「独身は独身でそれなりの楽しみ方があるものさ。もし、誰かと夫婦になっていたらこのカフェ&バーがあったかさえも怪しいところだ。私は家族を第一に優先して物語《ソネット》研究関係者から身を引いているだろうからね」
アーバン・レジェンドがなければ、今ましろたちがここに集うことはなかっただろう。
「君たちにはまだ早い話だが、こうして君たちや店を経営している間に知り合えた人々と出会えて楽しく生きている分、後悔はしてないさ」
『大人の答えだね』
「僕らにはまだ想像がつかないなぁ」
「若者の時はまだそのままで良いのさ。まだまだ、選択をする時まで時間はあるからね」
「そうは言ってられませんわ。あと1年で高校卒業ですのよ」
「そこから二十歳まであと2年あるだろう?二十歳過ぎてからも選択は残っている」
カフェに出すスイーツの仕込みをしつつ、アーバンはましろと来夢に人生を少し語り始める。
「だが、歳を取るにつれ、身体もだが物語《ソネット》で得た筈の自身の能力も衰えていった。若い頃は自分が世界中の物語《ソネット》を退治してやると意気込んでいたものさ。こうして今、君たち若者の手助けをしているのが現状だがね」
若者の時の夢は叶わなかったが、先程も言ったように後悔はしていない。クリームで覆った生地の上に切った果物を並べ、アーバンは言う。
「こうして料理も上手くなった。ましろくんが居候しているおかげでスイーツ作りも多少はね」
「うんうん。僕が居たおかげでスイーツ作りが上手くなってきたと。その調子で僕に美味しいデザートを毎日三食付けていただければーー」
『まぁ、物語《ソネット》狩りのメンバーが1人増えたのは、ましろの功績ではある。王子』
「ああうんそうだよね!よくわかってるじゃないかラプス」
ましろが珍しくラプスの毛並みをもしゃもしゃと撫でまくる。
鵜久森の名前が来夢に知られるのは時間の問題だと思うが、とりあえず部屋替えをしてくれたお礼として、出来る限り誤魔化す手伝いはしよう。一応、部屋を変える件と引き換えに約束はしたのだから。
「?」
「ほら、ラプスはキッチンじゃ邪魔になるからボクの部屋で寝てて」
ましろは不思議そうに首を傾げる来夢から小動物を遠去ける。この場の危機は回避出来た。
ーーと、気が緩んだ矢先だった。
「只今帰りました。先日は買い出しだけのお手伝いになり申し訳ありませんでした。急用は今日で片付けましたので、今日の夜からまたバー営業のほうを頑張らせていただきます」
キッチンの入り口付近に、両手に紙袋を引っ提げたワインレッドの長い髪の女性が立っている。
「紬!」
「お久しぶり、来夢ちゃん。本部から配属の件はもう聞いてるわ。今度物語《ソネット》内に侵入することになったら貴女の分も張り切って衣装を作るから楽しみにしててちょうだい!」
来夢と彼女ーー九条紬は以前から面識があり、ましろから見る限りは仲の良い関係のようだ。なんでも、来夢のような美少女の衣装を作るのには、普段より更に気合いが入るとか。
(……来夢って、美少女なのかなぁ……)
口にしたら間違いなく本人に怒られる疑問を、ましろは心の中で呟くだけに留めた。人に言われるまで、来夢をそのように意識したことはなかったが、言われてみれば外見はそうかもしれない。これで気の強さがなければ、完璧な金髪美少女のお嬢様だろう。
(僕としては、美少女よりも一緒に居て落ち着く人がいいんだけどなぁ……)
昔ーーましろと来夢、そして紬のメンバーで何度か物語《ソネット》を退治したことがある。半年~1年の短期間のことだ。当時中学生だった2人に、紬はよく物語《ソネット》に侵入する際の衣装をペアで製作していた。
ましろは衣装自体着ることに抵抗感はないが、お揃いというものには少し抵抗感があった。2人だけという気恥ずかしさというか。いっそのこと今後は全員でセットの衣装にしてもらったほうが気が紛れていいのかもしれない。
◇◇◇
「初めまして。高坂林檎ですーーきゃっ!?」
デザートの仕込みが終わった後、ましろは紬に林檎を会わせようとしたところ、丁度宿の廊下で紬と初めて出会した林檎が挨拶をしてきた。
林檎が挨拶をするなり、紬はいきなり林檎を抱きしめる。
「初めまして!九条紬と申します!衣装の作り甲斐がある子が2人も増えてお会い出来るなんて光栄です!」
「は?」
『紬もましろに劣らず、性格がとても残念な人間だから気にしなくていい。黙っていれば美男美女だとは思う』
「キミが言うそのとても残念な性格は、半分くらい物語《ソネット》が関係してるんだけどね」
ましろがやや不機嫌そうな表情をすると、小動物は知らんぷりをしてそっぽを向いた。
(ましろさんは甘いものが好きそうだったり、この出会ったばかりの女性が衣装がどうのこうのと言い出したことに、物語《ソネット》とやらが関係するんでしょうか……。)
林檎は引っ越し作業が終わった後に、疑問に思ったことを少し聞いてみようと思った。
ましろはアーバンに買い出しを頼まれた。いつものように自転車に乗ろうとした途端、まるで猫を撫でるような声が響く。
「買い出しですの?なら私もご一緒してよろしくて?」
ましろが振り向くと、ラフなブラウスにスリットが入ったロングスカート姿の来夢が立っていた。髪はバラつかないようにピンで後ろに纏めている。
「カフェの接客は?」
「鵜久森さんが二つ返事で喜んで代わってくれましたの」
(……鵜久森さん、ボクと来夢の関係、何か勘違いしてないかなぁ……)
偶々なのか、それとも意図的なものなのか。ましろにとって来夢は幼なじみである。それ以外の何者でもない。それ以上でもそれ以下でもないのだ。しかし。
「じゃあ、後ろに乗る?」
「い、いいえ!小鹿さんが自転車を貸してくれましたの!結構ですわ」
全く、貴方のそういうところがなどと来夢は独り言を呟く。ましろは来夢が自転車に乗る前に漕ぎ出した。
「ちょっと!お待ちになって」
「なんでさ?一緒に乗らないんでしょ?」
「貴方のそういうところが変なところなんですけど、全然治ってないんですわね」
「?」
来夢に呼び止められ、ましろは来夢が追いつくのを待つように軽めに自転車を漕ぐ。
「ちょっと!止まって下さいまし!サドル調整をしないと乗れませんの!」
綺羅々は背が低く、来夢は若干背が高いほうに入る為、来夢が乗る為にはサドル調整する必要があった。
『全く。来夢が居ると騒がしくてロクに眠れやしない』
一応ラプスはましろがアーバン・レジェンドの代表として所持している為、ましろの自転車のカゴの中が、ラプスの特等席になっている。
ましろが自転車を停めてから暫くすると、サドルを調整し終えた来夢が追い付いた。2人で横並びになり、自転車を再び漕ぎ出す。ましろは来夢の漕ぐペースに合わせた。
『イギリスでの活動はどうだい来夢?』
「それ、貴方が聞くことですの?普通ましろさんが聞くものではないのかしら?」
不満そうな表情をしながらも、来夢はラプスの問いかけに返答する。
「ましろさんも少し向こうに居た期間で経験された通り、相変わらず頻繁に物語《ソネット》が現れるのは変わってませんわ。報告したところ、いつの頃だかに日本の3倍くらいあると本部の方に驚かれましたわ」
「うわぁ。日本に帰れてよかったぁ」
「帰れて、じゃなくてましろさんの場合は左遷のようなものでしょうに」
正確に言うならましろの気質や性格がイギリスチームに合わないという理由で、物語《ソネット》狩りの基礎知識や基本学習を終えるなり、本部から日本に戻るように通達が来たのである。
あの時は表情に出さなかったが、ましろは鵜久森と初めて出会って事情を知った時、鵜久森に親近感が湧いていた。
「1日に多くて3つの物語《ソネット》と対峙する日もありましたわ。朝昼晩。つまり1日ぶっ通しの日もありますのよ」
「うわぁ……」
「イギリスと比べると日本は本当に平和ですわね。私なんて、昨日も夜中に物語《ソネット》に遭遇しないか半端心配してよく眠れませんでしたのに」
『その面は安心して。夜中に領域展開する物語《ソネット》は、少なくともこの街ではない。その点については夜中にお腹を空かせて起きては二度寝する僕が保証しよう』
無論、ラプスがお腹を空かせているのは回収している粒子が少ない為だ。
『本部や僕としては不本意なことだけど、この部署では一応ましろが代表だから仕方ない。ただの端末の僕はましろの方針に従うしかない』
因みに、犬や猫に似ているからと言ってドッグフードやキャットフードをあげても腹は膨らまないらしい。まだ組織や物語《ソネット》に関して詳しくない、小動物に出会って間もない時にましろが試した手段だ。
「あ、そうだ。アーバン・レジェンドの代表……リーダー、変わろうか?」
「へっ?」
予想外の話になり、来夢は間の抜けた声を出してしまった。
「鵜久森さんが加わった時にも、リーダーお願いしてもいいですかって、聞いたことがあるんだけど。なぜか断られちゃって。ボクより彼のほうがリーダー向きかと思ったんだけどなぁ」
「そ、そんなことありませんわよ!私はまだ鵜久森さんと出会ったばかりで彼のことはよく知りませんが、ましろさんのことなら私にもわかりますわ!ましろさんはのらりくらりとなんだかんだで事件を解決するホームズのようで、頼もしいところもあるーー」
来夢はハッとして口を閉ざした。頬を赤らめてテンション高めに喋っていた自分を振り返り、冷静になる。
「こほん。ともかく、リーダー変更の件はお断りしますわ。私にはリーダーの座の貴方を退ける意志はございませんの。リーダーは貴方のままでよろしいのではなくて?」
「そうかなぁ」
「そうですわ」
ボクは絶対リーダー向きじゃない、などとぶつぶつ呟くましろを他所に、来夢は気分が良かった。
また、昔よりは人数が多いが、ましろと物語《ソネット》退治が出来る機会が増えたのだから。
◇◇◇
ましろと来夢が最寄りのスーパーの買い物から帰って来ると、宿になっている裏のほうの建物に引っ越しセンターのトラックが止まっていることに気付いた。
「来夢の荷物?」
「いいえ。私は必要最低限のものしか持って来てませんわ」
引っ越しセンターを誰が呼んだかは、キッチンに立った時にアーバンに聞いて知ることになった。
「あれは高坂くんの荷物を乗せたトラックだよ」
「へっ?!」
「朝に言ってなかったかな?ご両親がホテル事業を本部に受け渡して他の事業に専念するそうだから、君と同じくーー林檎くんをウチで預かることになったんだが。来夢くんは少し前から移動してくると聞いてはいたが、まさか1週間の内に2人も居候が増えるとは、私も予想外だよ」
「まあ、カフェのバイトが増えて助かるんだが」と、付け加えてアーバンは薄らと微笑んだ。まるで孫が沢山増えたみたいだと喜んでいるようだった。
「アーバンさん、独身ですもんね」
「独身は独身でそれなりの楽しみ方があるものさ。もし、誰かと夫婦になっていたらこのカフェ&バーがあったかさえも怪しいところだ。私は家族を第一に優先して物語《ソネット》研究関係者から身を引いているだろうからね」
アーバン・レジェンドがなければ、今ましろたちがここに集うことはなかっただろう。
「君たちにはまだ早い話だが、こうして君たちや店を経営している間に知り合えた人々と出会えて楽しく生きている分、後悔はしてないさ」
『大人の答えだね』
「僕らにはまだ想像がつかないなぁ」
「若者の時はまだそのままで良いのさ。まだまだ、選択をする時まで時間はあるからね」
「そうは言ってられませんわ。あと1年で高校卒業ですのよ」
「そこから二十歳まであと2年あるだろう?二十歳過ぎてからも選択は残っている」
カフェに出すスイーツの仕込みをしつつ、アーバンはましろと来夢に人生を少し語り始める。
「だが、歳を取るにつれ、身体もだが物語《ソネット》で得た筈の自身の能力も衰えていった。若い頃は自分が世界中の物語《ソネット》を退治してやると意気込んでいたものさ。こうして今、君たち若者の手助けをしているのが現状だがね」
若者の時の夢は叶わなかったが、先程も言ったように後悔はしていない。クリームで覆った生地の上に切った果物を並べ、アーバンは言う。
「こうして料理も上手くなった。ましろくんが居候しているおかげでスイーツ作りも多少はね」
「うんうん。僕が居たおかげでスイーツ作りが上手くなってきたと。その調子で僕に美味しいデザートを毎日三食付けていただければーー」
『まぁ、物語《ソネット》狩りのメンバーが1人増えたのは、ましろの功績ではある。王子』
「ああうんそうだよね!よくわかってるじゃないかラプス」
ましろが珍しくラプスの毛並みをもしゃもしゃと撫でまくる。
鵜久森の名前が来夢に知られるのは時間の問題だと思うが、とりあえず部屋替えをしてくれたお礼として、出来る限り誤魔化す手伝いはしよう。一応、部屋を変える件と引き換えに約束はしたのだから。
「?」
「ほら、ラプスはキッチンじゃ邪魔になるからボクの部屋で寝てて」
ましろは不思議そうに首を傾げる来夢から小動物を遠去ける。この場の危機は回避出来た。
ーーと、気が緩んだ矢先だった。
「只今帰りました。先日は買い出しだけのお手伝いになり申し訳ありませんでした。急用は今日で片付けましたので、今日の夜からまたバー営業のほうを頑張らせていただきます」
キッチンの入り口付近に、両手に紙袋を引っ提げたワインレッドの長い髪の女性が立っている。
「紬!」
「お久しぶり、来夢ちゃん。本部から配属の件はもう聞いてるわ。今度物語《ソネット》内に侵入することになったら貴女の分も張り切って衣装を作るから楽しみにしててちょうだい!」
来夢と彼女ーー九条紬は以前から面識があり、ましろから見る限りは仲の良い関係のようだ。なんでも、来夢のような美少女の衣装を作るのには、普段より更に気合いが入るとか。
(……来夢って、美少女なのかなぁ……)
口にしたら間違いなく本人に怒られる疑問を、ましろは心の中で呟くだけに留めた。人に言われるまで、来夢をそのように意識したことはなかったが、言われてみれば外見はそうかもしれない。これで気の強さがなければ、完璧な金髪美少女のお嬢様だろう。
(僕としては、美少女よりも一緒に居て落ち着く人がいいんだけどなぁ……)
昔ーーましろと来夢、そして紬のメンバーで何度か物語《ソネット》を退治したことがある。半年~1年の短期間のことだ。当時中学生だった2人に、紬はよく物語《ソネット》に侵入する際の衣装をペアで製作していた。
ましろは衣装自体着ることに抵抗感はないが、お揃いというものには少し抵抗感があった。2人だけという気恥ずかしさというか。いっそのこと今後は全員でセットの衣装にしてもらったほうが気が紛れていいのかもしれない。
◇◇◇
「初めまして。高坂林檎ですーーきゃっ!?」
デザートの仕込みが終わった後、ましろは紬に林檎を会わせようとしたところ、丁度宿の廊下で紬と初めて出会した林檎が挨拶をしてきた。
林檎が挨拶をするなり、紬はいきなり林檎を抱きしめる。
「初めまして!九条紬と申します!衣装の作り甲斐がある子が2人も増えてお会い出来るなんて光栄です!」
「は?」
『紬もましろに劣らず、性格がとても残念な人間だから気にしなくていい。黙っていれば美男美女だとは思う』
「キミが言うそのとても残念な性格は、半分くらい物語《ソネット》が関係してるんだけどね」
ましろがやや不機嫌そうな表情をすると、小動物は知らんぷりをしてそっぽを向いた。
(ましろさんは甘いものが好きそうだったり、この出会ったばかりの女性が衣装がどうのこうのと言い出したことに、物語《ソネット》とやらが関係するんでしょうか……。)
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