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3章 競争相手

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 御伽《おとぎ》街のビル街。都会とまではいかないが、この街周辺では一際階数が多い建物が聳え立つ。ーー社名はクォンタム。
 「よし!これでとどめだ!!」
 社長室と同じ階にはゲーム専用の大スクリーンが設置されており、黒髪の少年が御伽《おとぎ》高校指定のブラウスの上から黒いコートのようなものを羽織ってゲームコントローラーを振っている。
 「ねーぇ。もう終わったことだけど社長から少し報告があるからちょっといい……聞こえるかしら?」
 スクリーンから流れる大音量が響き渡る中、社長から渡されたカードキーを使い、部屋に入って来たのは少し赤みがかった髪色のロングヘアの少女。
 「ましろクンが」
 「またアイツか!」
 黒髪の少年は先程まで赤髪の少女の話を聞いていない素振りをしていたが、舌打ちをして急にコントローラーをテーブルに置いた。
 「ま、大体想像ついてると思うけど、社長に伝えておくようにって言われたから一応言っておくわ。ましろクンが物語《ソネット》が成長する前にまた退治しちゃったんですって」
 「どこに出現したヤツだ?」
 「黎明《れいめい》館って廃墟ホテルだってさ」
 「あの廃墟か。前に一回偵察に行ったっきりだったな。見るからに物語《ソネット》が領域を展開するのに絶好の場所だったが」
 「今回は、あ。そうじゃないや。今回も仕方ない仕方ない。ずっと広い場所を監視するには経費かかるし。ウチの社長は無駄なコトには経費かけない主義よね」
 「この街に現れた物語《ソネット》先に回収されないようにするのが無駄な経費なワケあるか。ーーこの街に移動になってから、オレ様の活躍する場面が半減どころかたった数回しかない!」
 全部アイツのせいだと黒髪の少年ーー夜闇鴉《あろう》は拳を震わせた。
 「ちょい落ち着きなさいよ!ゲームのしすぎだってば。ウチに派遣されて来てから間もないのにアンタってばホント態度デカいわね。いきなり社長と同じ階にゲーム部屋を作れとか要求するし、さっきも社長の方針に文句言ったり」
 御伽《おとぎ》高校の制服の上着を腰に巻いた赤髪の少女ーーーー赤羽根榴姫《るき》は鴉がこの部署に配属されてからの身勝手な行動を思い出し、ため息を吐く。
 この階にあった空き部屋は元々は社長のプライベートルームだったが、鴉が「綺麗な夜景が見れる高い階の部屋がいい」という注文を出し社長が承諾した為、鴉の部屋になった。
 「ま、社長はアンタの愚痴のひとつも言わないし、アンタみたいなうっさいヤツが気に入ったのかもね。アンタみたいなタイプは今までウチに来たことなかったし」
 「おい。オレのどこが煩いんだ?」
 「は?自覚なし?マジで?」
 煩い割には部屋の中はシンプルで、ゲーム関連のモノ以外は少ない。榴姫がトレーニングマシンだとつい最近まで思っていたものはゲーム関連のモノだったようだ。ジムは別の階にある為、そこにほぼ毎日通っているらしい。
 「なーんで配属されたばかりなのに、こんなに待遇いいんだか」
 「当たり前だ。オレ様は前に居たシンガポールでは物語《ソネット》狩りでトップだったんだからな」
 「とても英語が話せるようには見えないけど……。資料を見る限り嘘じゃないみたいね」
 「英語なんてゲームしてれば自然に覚えるようになる部分もあるだろ」
 「ま、今の時代はスマホひとつあれば翻訳に困らないから、どうにでもなるか。物語《ソネット》を狩るのには英語はあまり関係ないし」
 「くっ、」
 榴姫が肩を竦めると同時に鴉は一歩後退りする。どうやら少し図星だったようだ。
 「と、とにかくだ。向こうではアイツのように物語《ソネット》を成長させる前に狩る人間は居なかった。成長させてから狩ることが組織本部の意向だからな。ヤツの行動は同じ街に配属になった以上無視はできない。ヤツの物語《ソネット》に関する行動報告は今後もよろしく頼む」
 鴉はそう言うなり榴姫とすれ違った。
 「ちょっと、どこ行くの?」
 「今日はまだジムに行ってなかったから行ってくる」
 「あっそ」
 自分勝手なヤツだと呆れてはいるが、ちゃんとした礼は言えるヤツで榴姫は調子が少し狂う。
 「ま、これから組むこと多くなりそうだし。一応よろしくね」
 榴姫は部屋を去る鴉の背に独り言を投げかけた。


◇◇◇


 「お嬢様、忘れ物はありませんか?」
 「お嬢様、私達がいない間も食事は毎日三食食べてくださいね」
 イギリス空港のターミナルで顔が瓜二つの双子が金髪の少女の見送りをしていた。
 「もう。口煩い使用人達ですこと。日本に渡るのは初めてではありませんし、向こうにも使用人がいると話してますのに。何も心配されることはありませんわ」
 春といえどイギリス・ロンドンはまだ肌寒い。ロングコートと革製のブーツを見に纏う金髪の少女は口煩い双子を軽く睨んだ。
 「イリヤ、ミモザ。貴方達こそ私がいないからと調子を狂わせないように」
 「?なぜライムお嬢様がいないことで調子が狂うのですか?」
 「私達の心配はいりません。寧ろライムお嬢様がいないので現地での心配事が減ります」
 「まあ、相変わらず生意気な双子使用人ですこと」
 彼らにとってこのような会話は日常茶飯事。ターミナルの放送で金髪の少女が予約した便が呼ばれ、双子は同時に会釈する。
 「「いってらっしゃいませ。お嬢様」」
 「ええ。いってまいりまわ。懐かしい顔馴染みがいる日本へ」


◇◇◇


 「大丈夫かいましろくん」

 突然軽いくしゃみをしたましろにアーバンは声をかけた。
 「……大丈夫です。春だけどまだ肌寒いなぁ。温度差も激しいし、まるでロンドンみたいな気温差だ」
 「懐かしいね。君が少しの期間だが、イギリスに派遣された頃を思い出す。あの時は紬くんもまだ居なかったし、話し相手が客と小動物だけで寂しかったよ」
 「よく言いますよ。ボクの分のスイーツを作らないで少し楽だったでしょうに」
 長年の付き合いで通る冗談を交えながら、ましろは空にしたグラスと皿を手に取り席を立った。
 「もう夕方だね。今日も家に送るよ高坂さんーーーーええっと、今日からこのカフェの一員になったんだから、呼び捨て?林檎さん?ちゃん?ちゃんでいいかな」
 「さんでお願いします」
 「よし。呼び捨てで。どうせこれから仲良くなったらいずれはそうなるんだし。小動物と僕には敬語でなくてもいいよ。僕は一学年しか違わないし」
 「接し方は後々考えておきます。っと、取り敢えず今は敬語で!」

 あまり年上の男と話したことがない林檎は、ましろとのこれからの接し方に頭を悩ませていた。不思議な事に関わるよりもそっちの問題が先にくる。アーバンさんはお店のオーナーだから敬語で接するとして、ひとつしか歳が違わないましろにはーー
 (取り敢えず近過ぎない関係を保つ為に敬語で話そう)
 と、向こうから切り出してくれるかと思いきや、意外にもフレンドリーだとは林檎の予想外だった。初めて会った時に少し冷たい対応をされた(あとでちゃんと送ってくれた)のもあるが。
 「じゃ、片付けはアーバンさんに任せて帰ろっか」
 「待って!この前は兎も角、またいきなり夕方2人で帰るなんてフレンドリーすぎませんか!?」
 「いや、小動物も一緒だからそんなことないよ」
 そう言うなりましろはラプスのモフモフな毛並みを掴んでさっさと店から出て行ってしまう。林檎が後から店を出ると、店の前には、ましろが自転車のカゴの中にラプスを入れて林檎が出てくるのを待っていた。

 「2人乗りする?」
 「結構です!」
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