コブ付きおっさんの今さら成長チート〜最強ロリ神が憑いてるかぎり俺にハーレムは築けない〜

香辛料レッド

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第8話 ティータイム

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 そのメイドに見える何者かは、おそらく人間ではないと直感した。
 これまでの誰ともかけ離れた異質な気配と、神様の顔馴染みであることからそれはうかがえる。
 ウチの神様がいろんな意味で俗にまみれているせいで気にならなかったが、やはり神様やそれに類する存在というのは、どこか人間とは別物なのだろう。

「悟、紹介するよ。この非の打ち所がなさそうなメイドさんはカノン、ボクのお世話係みたいなものだ」

 神様の澄んだ声に我に返った。
 どうにも落ち着かない気分だが、軽く深呼吸をして気分をなだらかに戻してから応じる。

「……ああ、どうも。悪いがしばらくコイツを借りることになった里崎さとさきさとるだ」

「非の打ち所がないメイドのカノンと申します。転生者の方ですね? 事情は把握しておりますわ」

 腰を折って礼をする姿もいちいち様になっている。
 みずからを完全と自負する物言い、神様のフリを受けての発言である点を差し引いても嫌味に感じないのは、現に彼女が完全であると俺の目に映るからであろう。
 
「ティータイムには少々遅い時間ですが、軽食を用意しましたのでよければ召し上がってください」

 カノンが手を向けた先にはテーブルセット。
 湯気の立つ紅茶と、おいしそうなクッキーが枝で編まれたカゴに入って置かれていた。
 ホワイトチェアは二つ、上に伸びた日傘が差しこむ木漏れ日をよけている。
 映画に見たような貴族のお茶会みたいなセットだが、コイツいつの間に設置したんだ……?

 気兼ねなく席に座ってクッキーをほおばり始めた神様を横目に尻込む俺。
 とりあえず椅子に腰掛けてはみたが、あからさまに場違いだ。
 場に充満しているオシャレ指数が俺の吸引能力を上回っているせいで呼吸しづらい。

「カノン、拠点のことだけどボクの部屋は電気通しておいてね。あとまくらとクッションは専用のをそろえておいてもらえるかな。それからそれから」

「ええ。概ね神様のプライベートルームを再現できるように手配しておりますわ。ただ本棚の書籍については規則により運び込めませんのでご容赦願います」

「ああ、そんなルールもあったねぇ。うん、了解」

 ぽりぽりぽりぽり。
 言うだけ言ってクッキーの続きに手を伸ばす神様から視線を切り、カノンがこちらに赤茶の、俺にとっては見慣れない彩色の瞳を向ける。
 なんだ? とマナーでも悪かったのかと思ったが、すぐにそういうことではないと気づいて手を打った。

「あー……俺からの注文はない。そもそもどんな規模で建ててるのかも知らないしな」

「承りました。私は妖精たちの指揮に向かいますので、何かご用件があればこちらを鳴らしてお呼びください。それでは失礼しますわ」

 とカノンは呼び鈴を渡して一礼。
 そのまま移動しかけていたところを、つい聞きなれない響きが耳に残ったせいで「妖精?」と口をついてしまった。
 ああ、早く場の空気をゆるめたかったのに。

「はい。天界は人間の住める世界ではないので、かわりに妖精を労働者として雇用しているのです。それからお伝えしておきますと、妖精たちは人の目があると隠れてしまいます。ですので私が戻るまで里崎様はこちらでお待ち願えますか?」

「ん? それはいいが、人の目があると隠れるならあんたは何しに行くんだ?」

「妖精は人が見ていなければサボりますので。私は監視ですわ」

 人が見ていないとサボって、人が見ていると現れない……?
 いや、カノンは人ではないからいいのか?

「んんむ、頭の痛い話だな」

「おっしゃる通りです。おかげでメイドは大忙しですわ」

 黙礼して今度こそ森の奥に消えていくカノン。
 完全に見えなくなるまで視線で追ってから紅茶のカップに手をつけた。
 ――温かい、香りのいい紅茶。
 緊張で固まっていたモノが解れるようだ。

「意外だなぁ。悟はカノンと相性がいいと思ってたんだけど。ずいぶん苦手みたいだね」
 
「まあな」

 クッキーを食べ尽くしてゲームを再開していた神様が顔を上げずに話しかけてきた。
 リラックスしていたところを核心をつかれたのもあって素直に答えてしまったが、よくよく首を傾げたくなる言である。

「相性がいいってことはないだろ。アイツは見るからに鋼タイプ、エスパータイプの俺は相性が悪い」

「キミにエスパーな要素なんてあった? 悪タイプの間違いじゃないかな」

「ある。たまに電波を受信する」
 
 なんなら常時神の声が聞こえてるからな。
 みずから神を名乗る桃色幼女に次ぐ電波ぶりだ。
 そもそも俺が悪なんて、酷い誤解である。
 まったく否定はできないが訴訟も辞さない。

「……しかし残念だな。異世界に降り立って初の美人とのコンタクトだったが、あれはヒロインって感じじゃない。吊り合おうと思うだけでしんどくなる高嶺の花だな」

 ラッキースケベを狙って押し倒そうものなら関節技を決められ、返す刀で不埒者の指をへし折るくらいはやってきそうだ。
 恋愛シミュレーションで全パラメータをマックスにして出現する隠しキャラ、恋愛レベルが1にも満たない俺が挑むには、強大すぎる難敵といえよう。

「ガードは固そうかな。カノンとはその手の話をしたことないけどね。でもそんなの言ってるキミが誰をつかまえられるっていうのかな?」

「簡単だ。俺調べによると奴隷から解放したケモ耳ヒロイン、戦場で捕まえた敵国所属くっころ女騎士、声のでかい女エルフがチョロくない異世界の割合は、全天における一等星の割合と等しい。テンプレイベントを踏むだけで好感度がマックスになるようなコイツらを使って俺の恋愛レベルを上げていく計画だ」

 と、これまでに蓄えた異世界モノの見識から練り上げたプランを語る俺に対して、神様の視線はそれはそれは寒々しいものだった。

「はあ? ふうん、そう。エロゲじゃないんだからハーレムなんて疲れるだけだと思うけどねぇ……」

 そう言って興味を失ったようにゲームを再開する神様。
 ……しかしエロゲと言ったか?
 うん、コイツの保護者的なヤツが現れたら密告して部屋を家探ししてもらおう。
 そして始まる神様たちの家族会議……おお、楽しそうな地獄だ。

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