【完結済】大阪首ポロ珍騒動 ~デュラハンでも人生を満喫したいッ!~

譚月遊生季

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第四話 首も話もオチました!

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「……なるほどね。人目をかいくぐって、家に帰ってきてたってわけ……」

 ヤマナは出された茶をすすりつつ、ため息をつく。
 狭いリビングで自らの首をコタツの上に乗せ、ヴィクター(の胴体)は満足げにくつろいでいた。
 上原は人型に戻ろうとしているが、どうにも上手くいかず首を捻っている。

「まあ何はともあれ、見つこうてほんまに良かったわ……」
「ヤマナさんも、探してくれてほんまにありがとうございます……!」

 上原は耳や尾を残しつつもどうにか人型に戻れたらしい。
 ヴィクターが自らの首を両手で掲げながら礼を言うと、上原も深々と頭を下げる。

「とはいえ……今度は別の問題があるのよねぇ」
「ん? これで一件落着とちゃうんです?」

 不思議そうなヴィクターに対し、上原は渋い顔で頷く。

「首なし死体の件は、どう説明するんやって話やな……」
「……あっ」

 大きな問題が、まだ解決していない。
「マンションで首なし死体が見つかった」のは紛れもない事実。
 胴体が行方不明になった以上、警察は更なる捜査が必要だと判断するだろう。
 実際には存在しない「被害者」の行方および身元を明かし、実際には存在しない「猟奇殺人犯」を逮捕するために……

「……でも……考えがないわけじゃないわ」

 ヤマナの呟きに、ヴィクター(の胴体)は身を乗り出し、ヴィクター(の首)は目をぱちくりと瞬かせる。

「えっ、ほんまです!?」
「……聞かせてもろても大丈夫ですか」

 上原の真剣な視線に応えるよう、ヤマナも真剣な表情で問う。

「二人とも、何学部?」

 唐突にも思える質問に、上原と山田は揃って目を丸くする。

「もしかすると、上手く誤魔化せるかも」

 ヴィクター(の首)と上原は一度互いの顔を見合せ、再びヤマナの方を向く。
 上原の頭の上で、狼の耳がぴょこぴょこと動いていた。



 ***



 上原は工学部、ヴィクターは言語学部で演劇サークルに所属していた。
 そこからヤマナは、どうにか事態を解決する「言い訳」を編み出すことに。

「なんや人騒がせな……今度から気ぃつけや!」
「はい! えろうすんまへんッ!!」
「俺も気ぃつけますし、こいつにも気ぃつけさせます……」

 呆れ果てた警官の前で、しっかり首と胴体が繋がったヴィクターと、はっきり人間に戻った上原がぺこぺこと頭を下げる。

「全く……『演劇用に人そっくりに作った、勝手に動く仕掛けの人形』なんて、大したもんやけどな! 若いうちはやらかすんが華いうても、ケツ拭く大人がおるって忘れたらアカンで!」
「はいっ! よぉわかりました!」
「肝に銘じときますわー……」

 くどくどと説教される二人の背後には、ヤマナと共に徹夜で作った「言い訳」用の人形が転がっていた。



 警官が帰った後、遠巻きに見ていたヤマナが再び顔を見せる。

「上手くいったみたいね」
「どうにか誤魔化せましたわ……」
「徹夜した甲斐ありました! ごっさ眠いけど!!」

 ヤマナの声かけに対し、揃って目の下にクマを作った二人は、それでも明るい声で返事をした。

「それは何より。……なら、これでアタシの仕事も終わりね。請求書は後で赤松が送る手筈になってるわ」
「「ほんまにお世話なりました」」
「良いのよ。これも仕事のうちだもの。……じゃ、左様なら」
「「はい! さいなら……!」」

 元気の良い声に送り出され、ヤマナは満足げにきびすを返す。
 帰路に着く直前、喜色満面きしょくまんめんで抱擁し合う二人の姿が目に入り……ふっと、ヤマナは穏やかな笑みをこぼす。

「……お幸せに」

 真っ赤な紅を引いた口元を緩ませ、ヤマナは軽い足取りで近場の扉を「赤松探偵事務所」の事務室へと



 ***



 そして、数ヶ月後。
「赤松探偵事務所」には、新たな客が訪れていた。

「名前は山田ヴィクターくんだっけ? それで……何の依頼?」

 タバコをふかす赤松の視線の先には、自分の首を小脇に抱えた青年の姿がある。
 首は、赤松が「ウチは怪奇現象専門」……の「か」の文字を口にした時点で、「これでどないでしょ!」の言葉と共に取り外されていた。

「はいっ! 実は僕の同居人、たまーにオオカミなれるんですけど、なんか、人間への戻り方を忘れてしもたらしいんですわ……!」

 小脇に抱えられた首は、あくまで陽気に流暢りゅうちょうな大阪弁を射出しゃしゅつし続けている。

「近所では『絶滅したはずのオオカミ発見!?』……みたいな噂も出てきてますし、どないしたらええんやー! ……ってことで、相談に来たんです!」
「そりゃまた、大騒動だねぇ」

 赤松は呆れたように苦笑しつつ、隣に立つ、同じく呆れ顔のヤマナに視線を投げる。

「……ヤマナっち、また行ってくれる?」
「ああ……もう! しょうがないヤツらね!!」

 盛大にため息をつきながらも、ヤマナはカバンを引っ張り出して出立の準備を始める。

 大阪での珍騒動は、まだまだ終わらなさそうだ。
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