敗者の街 Ⅱ ― Open the present road ―

譚月遊生季

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第4章 Interest and Step

46. 領域

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 シレイ君からの「干渉」を思い出し、ぞくりと身体が震える。
 カミーユもレオナルドも、「対抗できる」と言うけれど……本当に大丈夫なのかな。

「……ま、そこまで不安になるこたねぇよ。『こっち側』にいるのも、揃いも揃ってバケモンみたいな連中だ」

 レニーはにしし、と笑い、傍らのレオナルドに「なぁ、相棒?」と語りかける。レオナルドもそれに呼応し、「おう!」と元気よく笑った。
 ……そうだね。不利な状況とはいえ、それぞれが対策を練り、前向きに現状を打破しようとしている。
 本当にどうにかなるのかなんて誰にもわからないけれど、二人の笑顔を見れば、私の方も勇気が湧いてきた。

 口元が自然と持ち上がる。
 笑おう、こんな時こそ。
 まだ不安そうなポールの方を向き、励ましの言葉を──

 ──立ち向かう準備はできたぁ?
 
 耳の奥で、少年の声が響いた。

──ムダだって! ぼくはこの世界で『最強』なんだから

 ……シレイ君の声だ。

 この状況を隠す理由なんかない。早く、他のみんなにも伝えないと。
 ……でも。

 声が出せない。
 いや、正確には出せる。
 
「ねぇ、」
「……ん? 何だい?」
「…………」
「……おい、どうした?」
「オリーヴ……?」

 眉をひそめるレニーに、心配そうに私の顔を覗き込むポール。……でも、説明できない。
 具体的な言葉を口に出そうとすると、喉が硬直してしまう。

 ──ね? 分かったでしょ

 頭の内側で、勝ち誇ったような声がする。

 ──おまえ達じゃ、ぼくには勝てないよ

 自分の声だけじゃない。
 判断も、自我も、生命も、握られているような感覚。

 ……こんなものを敵に回して、どうしろって言うの……?

「……また、干渉か?」

 レニーが低い声で呟く。
 頷くこともできない。
 口が、勝手に動き出す。

「何でもない。平気だよ」……と、私の伝えたい言葉じゃない言葉が、紡ぎ出され──

 ──ッ! おんし、誰じゃあ!

 ……?
 怒号を最後に、声が途絶え……たかと思えば、また別の声が耳の奥で響く。

 ──あー、ごっめん。の方は無理っぽい

 思考が引き込まれる。
 どこか遠く、知らないところへ、

 ──だいじょーぶ。いおは味方だから

 少女らしき声が、明るく語る。

「オリーヴ!!」

 視界がぐるぐると渦巻き、ポールの声が遠ざかる。握られた手の感触も、離れていく。

「……! おい、やめろポール! 危ねぇぞ!」

 レニーさんの怒号が、遠い。

──あーもう、しゃーないから連れてってやるし。いおのパワーにめちゃ感謝して、めちゃめちゃお礼よろしく~

 状況の割に軽い声が響いて、ポールの気配がどんどん近づいてくる。
 何が何だか分からないまま、闇の中に引きずり込まれた。


 
 ***



「あ、れ……ここは……?」

 目を開けると、眩い光に包まれていた。
 和服……? を着た若い女の子が、目の前に佇んでいる。

「いおん家の修行場~。肉体カラダ連れてくんのは無理だったから、外には出せないけどね」

 大和ナデシコ風な外見の少女は、少し雑なところはあるけれど、しっかりとした英語で語りかけてくる。

「最初はだけのつもりだったんだけど、四礼だっけ? あいつが意地でも離れたがらないから、おねーさんの方連れてくしかなくてさ~」
「……なる……ほど……?」

 理屈は全然分からないけど、助けてくれたのはわかる。
 ……待って。ポールは?
 気配を感じない……?
  
 「……ポール! ポールは!?」
「ちょっとしんどそうだったから、いおの中にいてもらってる~」

 私の質問に、少女はのんびりとした声で返した。

「あなたは……」
「霊媒師……って言ったら、わかる?」

 黒い瞳と目が合う。

「悪霊だろうが怨霊だろうが、いおは負けないし、絶対 見捨てないよ」

 しっかりとした意志が、そこには宿っている。

「もち、イケメンなら特にね!」

 ……。なんか、ウィンクされた。瞳もキラキラ輝いてる。
 ……そっかぁ……。

「……ポールは渡さないよ」
「あっ……なんか、ごめん」

 あー、良かった!
 案外素直な子みたい!

「フツーに怖ぇし……」
「えっ、何が?」
「なんでもない」

 ……むむ、おかしいな。
 怖がられるような覚え、ないんだけど……
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