敗者の街 Ⅱ ― Open the present road ―

譚月遊生季

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第4章 Interest and Step

43. 対抗

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「オリーヴ! 大丈夫かい!? 返事をしてくれ!」

 ポールが、必死の形相で私の名前を呼んでいる。
 えっと……何が、起こったの……?

「……私、一体……?」
「突然黙っちまったんだよ。話しかけても返事がないってんで、心配してたんだぜ」

 レニーに状況を説明されて、何が起こったのかようやく把握する。
 さっきまでシレイ君? に意識を侵蝕されてた……って、こと……なのかな? たぶん……。
 ポールはほっとした様子で、「良かったぁ……」と胸をなで下ろしている。……あんなに焦った顔、初めて見たかもしれない。

「どこか、痛いところはないかい?」
「大丈夫……だと、思う!」
「……思う?」
「だ、大丈夫! 本当に大丈夫だから!」

 私の返答に、ポールは「そっか……」と呟き、ぎゅっと私を抱き締めた。

「……もし、きみにまで危機が及んだら……きみが助かるのならぼくは、どうなったっていい」

 ……どうして。

「きみだけは、無事でいてくれ」

 どうして、そんなこと言うの?

「……ダメだよ。一緒に帰ろう」

 私の言葉に、ポールは曖昧な笑顔で返した。

「そうだね。……それが出来たら……。……いいや、何でもない」

 ポール。
 ……どうして、そんなに悲しそうに笑うの?

「……ともかくだ」

 レニーが気まずそうな表情で口を挟む。

「俺らの状況は非常に不味まずい。なんせ、敵はこの空間を構築してるのと同じ術を使う野郎だ」

 そう。それは、その通り。
 誰と帰るとか、帰ったらどうしたいとか、そんなことを考えてる場合じゃない。そもそも「帰る」ためには、解決しなきゃいけない問題が山ほどある。

「……説得……は、厳しそうだよね」

 私の言葉に、レニーは苦笑しつつ頷いた。

「ま、あの様子じゃ無理だろうな。話が通じる野郎じゃねぇだろうよ」

 自分を正しいと思い込んでしまっている以上、どんな言葉も通じない気がする。むしろ、正論をぶつけようとすればするほど逆効果かもしれない。

「ぶちのめすのは?」

 レオナルドが何か言ってるけど……そんな脳筋な解決方法、ある……?

「……あー……」

 ちょっと、レニーさん?? どうして悩んでいる感じなの??

「レオなら……いけるか……?」
「えっ、なんで?」

 シレイ君は優秀な呪術師で、その上で厄介な怨霊なんだよね?
「ぶちのめす」なんて選択肢があること自体、意味がわからない。

「お前さん、うちの兄弟を舐めちゃいけねぇぜ。コイツは強い」
「いやでも、物理でどうにかなる相手!?」
「おいおい、誰が『物理』だけだっつったよ」

 私たちの反応に対し、レニーは肩をすくめ、やれやれと首を振る。

「レオが強いのは腕っぷしだけじゃねぇ。心もだ」

 な、なるほど……?
 フィジカルだけじゃなくてメンタルも強いから、精神干渉やら何やらがメインの呪いも効かない……って、言いたいのかな……?

「意志の力で、どうにかなる範囲なのかい?」

 ポールも、さすがに怪訝そうな顔をしている。
 そうだよねぇ。意志の力でどうにかなるのなら、あのレヴィって人とかも相当意志が強そうに見えるし……。

「早とちりしなさんな。誰が意志が強いっつった?」
「えっ?」

 違うの……?
 私の疑問を察したのか、レニーはすかさず続ける。

「そういう強さじゃねぇ。コイツはな……」

 ポールが、隣でごくりと息を呑む。
 レオナルドはというと、神妙そうな顔をして……いたかと思ったら、大きなあくびをひとつ。
 ほんとだー。メンタル強いー……って、まさか、そういうこと……!?

「とにかく、

 …………。
 そんなの、アリ……?
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