敗者の街 Ⅱ ― Open the present road ―

譚月遊生季

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第3章 Hatred at the Moment

32. side: Robert

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 グリゴリーさん達は忙しいみたいだし、ネットで情報を漁ることにする。
 ポールは芸術家で、マノンはデザイナーだし……少しは情報が集まるような気がしたんだけど、なかなかめぼしい情報は出てこない。二人ともカミーユさんほど有名じゃないし、仕方ないのかな……?

 因縁が見えて来はしたものの、まだ、核心に至るには「何か」が足りない気がする。
 なんだろう、しっくりハマるピースがないって感じかなぁ……。

「サンダースさんの記事を探すのは? 最近はインターネットに残ってるだろ」
「復讐の件があるしな……」

 アン姉さんとロッド義兄にいさんの会話を聞き、手当り次第検索ワードを入れてGoGoal検索にかける。
 ズレた時間の件は不安だけど、気にしていたって仕方ない。今できることをやらないと。
 ……すると、部屋の中で電話の音が鳴り響く。

「……俺のか」

 ロッド義兄さんが呟き、ポケットから取り出してモニターを見る。

「……サーラ……?」

 久しぶりに、その名前を聞いた気がする。
 そういえば、ローザ義姉ねえさんとかにもメールか何かで協力を要請してるのかな? 後で聞いておこう。

「……とりあえず出てみたら?」
「おう」

 アン姉さんに促されるまま、ロッド義兄さんは通話ボタンを押す。

『ロデリック! アンジェロから連絡が来たよ! 水臭いじゃないか。困ってんならすぐに頼りな!』

 僕たちにも聞こえるよう、スピーカーモードをオンにしてくれたらしい。気の強そうな怒号が、部屋に響き渡る。

「い、いや……事情が事情なんで……危険かなって……」
『っっったく、アンタらはどこまで抱え込んだら気が済むんだい!? 幸せにならなきゃ許さないっつったろ!』
「す、すんません……」

 電話先で怒鳴るサーラに、ロッド義兄さんはひたすら及び腰になっている。
 アン姉さんは苦笑しつつ、両耳を手で押えていた。

『調べ物でも何でもしてきてやるから、さっさと要件言いな! どうせ人手が足りてないんだろ!』
「そ、そっすね……えっと……」

 ロッド義兄さんが、視線で「どうする?」って聞いてくる。
 そういえば、この前は新聞記事を漁ってもらって真実に近付いたんだっけ。
 ……あ、でも、オリーヴが「復讐」のために書いた記事は雑誌のコラムなんだっけ……?

「あ、ヴァンサンについては? トーマス・ヴィンセントって名前でエンジニアをしてるらしいし……調べやすかったりするのかなって」

 とりあえず提案してみる。
 僕は研究者だし、ロッド義兄さんは作家。アン姉さんは看護師に戻るためリハビリ中。
 経営者のサーラの方が、エンジニアについては調べやすいような気がした。確か、サーラはEU圏で手広く事業を展開してるはずだし……

『トーマス・ヴィンセントだね。調べておくよ』
「……エンジニアって、偽名でも働けるんすか?」
『紹介サイトはハンドルネームありでも、契約書はそうはいかないだろうねぇ……ま、案件によるだろうけど』

 電話先から、キーボードの音が聞こえる。早速、探してくれてるみたいだ。

『ローザには話してるのかい?』
「姉貴は……その、忙しそうなんで……」
「養子の世話とか、大変らしいしね」

 サーラの質問に、ロッド義兄さんと姉さんは顔を見合わせて語る。あ、相談してなかったんだ……。

『だから、そんなこと言ってる場合なのかい!?』
「あの人……どっちかって言うと悪人寄りなんで、巻き込んで大丈夫かよと……」
『そんなもん、悪い手使ってるアイツの責任さ! 乗るも乗らないも、まずは相談してもらわなきゃ選択すらできないだろ!? 使えるもんは使い倒しな!』

 サーラの怒鳴り声に、ロッド義兄さんは「ウィッス……」としか言えなくなっている。うーん、なんだろう。陰陽いんようの差みたいなのを感じる。
 サーラが言う通り、ロッド義兄さんもアン姉さんも抱え込む方なんだよなぁ。そこら辺、二人とも危ういところがあるというか、なんというか……

『なにか分かったら連絡してやるし、助けも遠慮なく呼びな! あとアンドレア! リハビリは順調なのかい!?』
「えっ、俺?」
『アンタ、ちぎれた脚と裂けた腹って、15年も寝たきりだったんだろ! 変に首突っ込むより、安静にするべきなんじゃないのかい!?』
「いや、もう平気だよ。動けるし……」
『アンタの平気は信用ならないね!!』
「ええー……」

 その点に関しては、僕もサーラに同意かな。
 ええー、じゃないんだよね……。大怪我だったんだからさ……。

『ロデリックもロデリックだ! ちゃんと守って……ああ、いや、アンタはそういうタイプじゃなかったね。アンタのことだ、健気に支えになろうとしてんだろ。殴って止める性格でもないしね……。なんかあったらあたしを呼びな。ベッドにくくり付けるくらいはしてやるから』
「……うぅ……マジで、ずびばぜん……」
『ほらアンドレア! ロデリック泣かしてるよ!』
「えっ、ええっ……!? ご、ごめんな……?」
『ロデリックもそこは『ありがとう』でいいんだよ!』
「は゛い゛……っ゛」
「そ、そんなに泣く……?」

 号泣するロッド義兄さんに、混乱するアン姉さん。
 ありがとう、サーラさん。今度お礼しないとね。

『じゃ、なんか分かったら電話するから、くれぐれも無理すんじゃないよ! ロバートもだかんね!』

 返事をする暇もなく、電話が切れた。
 嵐みたいだったなぁ……。

「……ローザ義姉さんにも、連絡しとく?」

 僕が聞くと、二人はまた顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。
 今回は、協力してくれる人がたくさんいる。それを、レヴィくんにも伝えよう。
 彼のことだから戸惑いそうだけど……それでも、僕は大丈夫だよって言ってあげたい。
 彼は強いけど、もろい人でもあるんだから。

 ……と、今度は僕の携帯電話が着信を知らせる。モニターを見ると、メールが一通届いていた。

『グリゴリーさんから聞いたよ~。なんかあったっぽいじゃん?』

 イオリちゃんからだ。彼女もサーラさんみたいに、助けになろうとしてくれてるのかな。学校とか忙しいだろうに……

『レヴィさんかカミーユさんに会えたら写メよろ!!』

 ……あ、そっち……?

『あ、あと、なんか夢で関係ありげなの拾ったから、送っとくね~』

 イオリちゃん!!! 大事なのそっち!!!! 本題そっちだから!!!
 既に用意してあったのか、もう一通のメールもそこまで時間を空けずに届いた。
 何度も見慣れたタイトルが、先頭に表示されている。

acertain罪人のsinner's記憶memory」と……
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