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第2章 Pray for Visit
16. Pauleの記憶
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「君さ、嫌なら嫌って言いなよ」
学生時代、そんなことを言われたことがあった。
言ってきたのは同じく芸術家を志していた仲間の一人で、名前はカミーユ・バルビエ。
北米の方の出身で、フランスに来るまでにヨーロッパ諸国を遊学したと聞いていたけど、そのおかげか技術もセンスも、周りの学生たちとは比べ物にならないほど抜きん出ていたように思う。
「ほら……僕って言い方キツイらしいじゃん。でも、そういうのって別に傷つけたくて言ってるわけじゃないからさ、その言い方無理って時があったらちゃんと言って欲しいっていうか……」
その言葉の通り、彼は歯に衣着せぬ物言いをするところがあった。
ぼくも、ボロクソに酷評されたことが何度かある。悪気はないんだろうけどね。
「他のヤツらだったら向こうも言い返してくるし喧嘩になったこともそれなりにあるんだけど、君はそんな感じじゃないでしょ。僕だって、言い返してこない子をボコボコにするほど悪趣味じゃないし」
くどくどと言葉を連ねながらも、カミーユはスケッチブックから目を離さない。覗き込んでみて、相変わらず上手いなぁ……なんて思った。こうやって、暇を見つけては何かを描こうとするから上達していくんだろうか。
……まあ、友人が少ない理由もわかってしまうんだけど。
「……そうだなぁ。きみの言葉は率直すぎる」
「あー、うん。よく言われる」
「率直に伝えていいのは夢だけだ」
「ええ……それは言い過ぎじゃない?」
学内ではそれなりに顔を合わせることもあったし、課題やら講義やらの話も時々したけれど、プライベートで遊んだり食事をしたことは一度もなかった。
ぼくは友人だと思っていたけれど、向こうにとってどうだったかはよく分からない。
以前付き合っていた女性がカミーユと付き合いだした……と聞いた時、内心「大丈夫かな」と思った。
彼女……エレーヌはぼくと同じで、恋愛そのものを楽しむ女性だった。対して、カミーユはなんというのか……他人を自分のテリトリーに入れること自体が苦手のように見えた。
どうにもその感覚は当たっていたらしく、ある日、カミーユが青い顔で相談を持ちかけてきた。
「……エレーヌってさ、前から束縛強めだった……?」
話を聞くに、メールや電話の頻度が多すぎる、とのこと。それで、返事が遅いと文句を言われるとかなんとか。
エレーヌの場合、一日一回は連絡を取りたいし、遅くとも二時間から三時間後には返信が欲しい。
カミーユの場合、三日後にメールを返信することも珍しくない。
コミュニケーションスタイルの違いと言ってしまえばそれまでだけど……純粋に相性が良くないなと思った。
「彼女なら、飽きたらすぐに別れを切り出すと思うし……我慢してるってことは、それなりにきみが好きなんじゃないかなぁ」
「……ポールは飽きられたんだっけ?」
「まあね」
「恋愛慣れした君でもそうなら……僕も……」
ぴたりと、それまでは会話中でも動いていたペンが動きを止めた。……その様子を見て、本気で好きなんだなと思った。
「まあ……ぼくの場合はほら、セックスレスがね」
「……なんか、前に言ってたね。性欲が介入すると恋愛そのものの楽しみがうんぬんって」
「うん。それで傷つく子は傷つくみたいだし、嫌になったら別れようって最初から言ってあるんだ」
「恋愛に性欲が介入して欲しくない」……そういうふうに説明していたし、当時は自分でもそう思い込もうとしていた節はある。
だけど、違う。
本当は、誰にも知られたくなかったんだ。
「性別がない」ことじゃない。……乳房も、子宮も、男性器も持たず、子どもを作る能力がないことはもう、仕方がないと思っている。積極的に明かすつもりはないけれど、隠すつもりも特にない。
ただ、ぼくは……縺シ縺上?蠢?↓隗ヲ繧後i繧後◆縺上↑縺九▲縺溘?
……さて、結果的に、カミーユとエレーヌの恋愛は上手くいかなかったし、その経験がカミーユの絵に狂おしいまでの影響を与えたのだけど、それはまた別の話。
カミーユは卒業後、筆名を変えて活動を続けていた。本人は公表していなかったけれど、いくつかの作品を見れば彼の絵だとすぐにわかった。万人向けから外れた作風とはいえ、込められた気迫はやはり凄まじかった。
だからこそ、気付いてしまう。
ぼくは、学生時代、自分に才能があると信じていた。
自分にしかない経験、他人の持たない肉体、それらがあれば、特別な作品が作れると……子を成すことのないぼくでも、後世に遺せる何かがあると……そう、無邪気に信じられていた。
でも、違った。
だって、ぼくは閾ェ蛻?↓蜷代″蜷医∴縺ヲ縺?↑縺九▲縺溘?
閾ェ蛻??蛯キ繧定ヲ九◆縺上↑縺九▲縺溘?
ぼくは間違っていた。
ぼくは閾ェ蛻?↓蜷代″蜷医o縺ェ縺代l縺ー縺ェ繧峨↑縺九▲縺溘s縺?縲
縺シ縺上?豁サ縺ォ縺溘¥縺ェ縺??よカ医∴縺溘¥縺ェ縺??
縺セ縺?縲∵ュサ縺ォ縺溘¥縺ェ縺?s縺?
***
私が気付いた時には、頭の中がノイズで埋め尽くされていた。
意識が真っ暗に塗り潰されていく。取り戻せそうになった記憶も含めて、ノイズに上書きされていく。
叫ぶことも、思考することもできないまま、再び私の中から「彼」が奪われていく。
これはまさか……ポールの仕業?
それとも、ポールも何かに侵蝕されて……?
何も分からないまま、懸命に押し寄せるノイズに抗う。
忘れたくない。
だって、こんなにも愛してるんだから。
あなたを愛しているから、私は……
私は、罪を犯したんだ。
ねぇ、私……間違ってないよね?
そうだって言ってよ。繝昴?繝ォ
パリンと音を立てて、空間が砕ける。さっきの建物の中に戻ってきた……と、いうよりは、移動しないまま幻覚を見た……の、かな……?
何が起こったのかはわからない。ただ、「誰か」から視られているのだけはよくわかる。
「真相にはまだ遠い、か……」
キースの声がする。
脚に力が入らない。床に縛り付けられているかのように、動くことができない。
「だけど……新たに『罪人』が見つかったかもしれない」
茶色い瞳が私を見る。
視線を逸らすことができない。……視界の端に、再び床に倒れ込んだポールが映る。
「私が……罪を……?」
記憶はノイズで埋め尽くされ、整理できない。
「彼」の記憶が奪われたことで、「罪」の記憶も失われてしまっている。
「レヴィ、どう思う?」
キースは静かに問う。
いつの間にか部屋の隅には、赤髪の青年が佇んでいた。
「まだ、情報が足りんな」
翠色の視線が私を捉える。
ノイズが私の思考を埋め尽くしている。
塗り潰された記憶が悲鳴を上げる。
「ロバートからの連絡次第だな。……聞き出そうにも、この様子では不可能だろう」
じろりと、鋭い視線がこちらに向けられる。
繝昴?繝ォ、どうして応えてくれないの。
私、間違ってないよね?
遘√?∝セゥ隶舌@縺溘s縺?繧
縺ゅ↑縺溘?縺溘a縺ォ
学生時代、そんなことを言われたことがあった。
言ってきたのは同じく芸術家を志していた仲間の一人で、名前はカミーユ・バルビエ。
北米の方の出身で、フランスに来るまでにヨーロッパ諸国を遊学したと聞いていたけど、そのおかげか技術もセンスも、周りの学生たちとは比べ物にならないほど抜きん出ていたように思う。
「ほら……僕って言い方キツイらしいじゃん。でも、そういうのって別に傷つけたくて言ってるわけじゃないからさ、その言い方無理って時があったらちゃんと言って欲しいっていうか……」
その言葉の通り、彼は歯に衣着せぬ物言いをするところがあった。
ぼくも、ボロクソに酷評されたことが何度かある。悪気はないんだろうけどね。
「他のヤツらだったら向こうも言い返してくるし喧嘩になったこともそれなりにあるんだけど、君はそんな感じじゃないでしょ。僕だって、言い返してこない子をボコボコにするほど悪趣味じゃないし」
くどくどと言葉を連ねながらも、カミーユはスケッチブックから目を離さない。覗き込んでみて、相変わらず上手いなぁ……なんて思った。こうやって、暇を見つけては何かを描こうとするから上達していくんだろうか。
……まあ、友人が少ない理由もわかってしまうんだけど。
「……そうだなぁ。きみの言葉は率直すぎる」
「あー、うん。よく言われる」
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「ええ……それは言い過ぎじゃない?」
学内ではそれなりに顔を合わせることもあったし、課題やら講義やらの話も時々したけれど、プライベートで遊んだり食事をしたことは一度もなかった。
ぼくは友人だと思っていたけれど、向こうにとってどうだったかはよく分からない。
以前付き合っていた女性がカミーユと付き合いだした……と聞いた時、内心「大丈夫かな」と思った。
彼女……エレーヌはぼくと同じで、恋愛そのものを楽しむ女性だった。対して、カミーユはなんというのか……他人を自分のテリトリーに入れること自体が苦手のように見えた。
どうにもその感覚は当たっていたらしく、ある日、カミーユが青い顔で相談を持ちかけてきた。
「……エレーヌってさ、前から束縛強めだった……?」
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エレーヌの場合、一日一回は連絡を取りたいし、遅くとも二時間から三時間後には返信が欲しい。
カミーユの場合、三日後にメールを返信することも珍しくない。
コミュニケーションスタイルの違いと言ってしまえばそれまでだけど……純粋に相性が良くないなと思った。
「彼女なら、飽きたらすぐに別れを切り出すと思うし……我慢してるってことは、それなりにきみが好きなんじゃないかなぁ」
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