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第1章 Really of Other
6. 混迷
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安全を確保する必要があるとか何とか言われて、とりあえずレヴィと一緒に場所を移動する。
「……ローランド……いや、アンドレアか。その肉体は血縁者とはいえ、本人のものではない。あまり長居していると、自我に悪影響が出やすい可能性がある」
「えっ……」
「元の身体にいても時々とち狂ってるっぽいし、気にしなくていいんじゃないかな」
「ひえっ……」
「むしろ気になるが……?」
いつの間にやら、不穏な会話になってしまっている。
本当に大丈夫なの、この人……?
「……ロジャーの肉体を引き継いでいたのはロナルド・アンダーソンなのだが……いつの間にか、姿を消していてな」
「……ふーん。アイツが……ね」
「奴はロジャーの血縁者でも何でもない。自身の肉体として扱えないのは当然だが……どうにも、嫌な予感がする」
ピタリと、アンドレアが足を止める。
つられて歩みを止めたレヴィに向けて、ゾッとするほど冷たい声が放たれた。
「アイツが、また何かしでかしたってこと?」
にっこりと穏やかな笑みのまま、ターコイズブルーの瞳がぎらりと輝いた。
「……気持ちは分からんでもないが……憎悪や怨嗟は扱いが難しい。今は、なるべく抑えてもらいたい」
レヴィがたしなめるように言う。
「大丈夫、分かってるよ。それどころじゃないし」
アンドレアは普段通り穏やかに、にこりと笑って返した。
「ご理解痛み入る。……だが、然るべき罰が必要と判断した場合は……どうか安心して欲しい」
「……」
アンドレアはしばし黙って、
「期待はしない方がいいよな。……アイツでなくても、何もやらかさない方が理想なんだし」
と、笑顔を崩さず語った。
ただ、目が笑ってない。たぶんこれ、だいぶお怒りだ。……案外、怖いところあるのかな……?
「あんまり大事にならなきゃいいがな」
……と、突然足元から声が響く。
下の方を見ると、黒髪の少年が私の方を見上げていた。エメラルドグリーンの瞳が、キラキラと眩しい。
待って、この子の情報は覚えてる。確か、少年の霊魂で、他の霊相手にギャンブルを行うことで存在感的なものを巻き上げてる、みたいな……
「初めまして、シニョリーナ。俺はレニー・ビアッツィ。今後とも、よろしく頼むぜ」
キザな口調で私に話しかけ、少年はウィンクをした。ビアッツィ……聞き覚えがあるような気もするけど、イタリアではよくある名前っぽい?
顔立ちが整っているし、成長したらかなりいい感じの好青年になるんじゃ……? なんて、ちょっとだけ思った。
何考えてんだろう、私。
「レニーか。何か、新たな情報は手に入ったか?」
レヴィが問いかけると、レニーは肩を竦めつつそちらの方を向いた。
「どうやら、このお嬢さん以外にも迷い込んだ奴らがチラホラいるみてぇでな」
「何……?」
眉をひそめるレヴィ。アンドレアの方も首を傾げて、何事か考えているように見える。
「今んところ情報が少なすぎて何とも言えねぇが……そうさな」
キラリと光ったグリーンの瞳が、再び私の方を見る。
……あれ、なんだろう。やっぱり何か、大切なことを忘れている気がする。
「お前さん、ひょっとして……『この街に行きたい』って思ったことがあるのかい?」
……あれ……?
そう、だ……った、っけ……?
目の前が暗くなる。足場が不安定になって、視界がぐらつく。
「……サンダースさん?」
アンドレアが何かを察知したかのように私を見る。
──おいで
どこかで聞き覚えのある声が、脳髄を蝕んでいく。
「……! 離れろ!」
レヴィの声が遠くで聞こえる。
「んだよ、この『悪意』……いつの………………おい……どこに…………」
レニーの声が途切れ途切れに聞こえ、やがてふつりと途絶える。
私の意識は再び、混沌とした暗闇の中へと引き戻されていった。
***
「……おーい、大丈夫かい?」
「う、うーん……?」
身体を揺さぶられる感覚で、意識を取り戻す。
目を開けると、誰かと目が合った。黒い髪に、グリーンの瞳……見覚えがある……けど、レニー……じゃ、ない……?
私が目を擦っていると、青年は手を差し伸べてくれる。
よく見ると、アンドレアとは逆の方……右目の下に泣きぼくろがある。
「何はともあれ、無事に目が覚めてよかった」
青年はニコニコと笑って、私を助け起こした。
雰囲気がどことなく、アンドレアやレニーと似ている気もする。
「……ポール、知り合い?」
まだぼやけた視界に、人影がもう二つほど映る。
「いいや? でも、こんなに可憐なお嬢さんを放ってはおけないじゃないか」
「相変わらず色男だね……」
呆れたように、青年……ポールを呼んだ女性はため息をついた。こちらは焦げ茶色の髪で……なんというのか、落ち着いた雰囲気の女性だ。
「でも分かるぜ。かわいー女の子ってほっとけねぇよな。おっぱい大きかったらもっとほっとけねーし」
……と、もうひとつの影が口を開く。
こっちは金髪で、日に焼けた肌の……頭が悪そうな男。
「レオナルド、だったっけ」
茶髪の女性の方が口を開く。
「いい加減股ぐらを蹴り飛ばされたい?」
露骨に不機嫌そうに、女性は悪態をついた。わかる。下品すぎて私もぶっ飛ばしてやろうかと思った。
……辺りを見渡してみたけど、四人の姿以外は暗闇が広がっているばかりで、何も見えない。アンドレアどころか、レヴィやレニーの姿もない。いったい、何があったの……?
「ぼくはポール・トマ。こっちの女性はマノン・クラメール。それで、褪せた金髪の彼はレオナルド・ビアッツィというらしい。……さて、美しい亜麻色の髪のお嬢さん、きみの名前を聞かせてくれるかな」
後ろで結わえた私の髪を軽く触るような仕草をしつつ、黒髪の青年……ポールはウィンクをした。
あー、レニーもそうだったけど、キザだなぁ……。
「オリーヴ、だけど……」
「そう、オリーヴか。素敵な名前だね。きみにぴったりだ」
「ほんとに噂通りだね、ポール・トマ」
茶髪の女性は……マノン、だったかな。
彼女はポールの横でやれやれと首を振りつつ、苦笑している。
「学生時代の噂かい? 恋多き若者だった自覚はあるよ」
「どうせ、恋が多いのは現在進行形でしょう?」
……二人は知り合いどうし、なのかな。
それで、レオナルドの方はたぶん、初対面っぽい……って、目を離した隙になんか寝てるんだけど。あれ? この人の情報も、どこかで見たことあるような……?
「……ローランド……いや、アンドレアか。その肉体は血縁者とはいえ、本人のものではない。あまり長居していると、自我に悪影響が出やすい可能性がある」
「えっ……」
「元の身体にいても時々とち狂ってるっぽいし、気にしなくていいんじゃないかな」
「ひえっ……」
「むしろ気になるが……?」
いつの間にやら、不穏な会話になってしまっている。
本当に大丈夫なの、この人……?
「……ロジャーの肉体を引き継いでいたのはロナルド・アンダーソンなのだが……いつの間にか、姿を消していてな」
「……ふーん。アイツが……ね」
「奴はロジャーの血縁者でも何でもない。自身の肉体として扱えないのは当然だが……どうにも、嫌な予感がする」
ピタリと、アンドレアが足を止める。
つられて歩みを止めたレヴィに向けて、ゾッとするほど冷たい声が放たれた。
「アイツが、また何かしでかしたってこと?」
にっこりと穏やかな笑みのまま、ターコイズブルーの瞳がぎらりと輝いた。
「……気持ちは分からんでもないが……憎悪や怨嗟は扱いが難しい。今は、なるべく抑えてもらいたい」
レヴィがたしなめるように言う。
「大丈夫、分かってるよ。それどころじゃないし」
アンドレアは普段通り穏やかに、にこりと笑って返した。
「ご理解痛み入る。……だが、然るべき罰が必要と判断した場合は……どうか安心して欲しい」
「……」
アンドレアはしばし黙って、
「期待はしない方がいいよな。……アイツでなくても、何もやらかさない方が理想なんだし」
と、笑顔を崩さず語った。
ただ、目が笑ってない。たぶんこれ、だいぶお怒りだ。……案外、怖いところあるのかな……?
「あんまり大事にならなきゃいいがな」
……と、突然足元から声が響く。
下の方を見ると、黒髪の少年が私の方を見上げていた。エメラルドグリーンの瞳が、キラキラと眩しい。
待って、この子の情報は覚えてる。確か、少年の霊魂で、他の霊相手にギャンブルを行うことで存在感的なものを巻き上げてる、みたいな……
「初めまして、シニョリーナ。俺はレニー・ビアッツィ。今後とも、よろしく頼むぜ」
キザな口調で私に話しかけ、少年はウィンクをした。ビアッツィ……聞き覚えがあるような気もするけど、イタリアではよくある名前っぽい?
顔立ちが整っているし、成長したらかなりいい感じの好青年になるんじゃ……? なんて、ちょっとだけ思った。
何考えてんだろう、私。
「レニーか。何か、新たな情報は手に入ったか?」
レヴィが問いかけると、レニーは肩を竦めつつそちらの方を向いた。
「どうやら、このお嬢さん以外にも迷い込んだ奴らがチラホラいるみてぇでな」
「何……?」
眉をひそめるレヴィ。アンドレアの方も首を傾げて、何事か考えているように見える。
「今んところ情報が少なすぎて何とも言えねぇが……そうさな」
キラリと光ったグリーンの瞳が、再び私の方を見る。
……あれ、なんだろう。やっぱり何か、大切なことを忘れている気がする。
「お前さん、ひょっとして……『この街に行きたい』って思ったことがあるのかい?」
……あれ……?
そう、だ……った、っけ……?
目の前が暗くなる。足場が不安定になって、視界がぐらつく。
「……サンダースさん?」
アンドレアが何かを察知したかのように私を見る。
──おいで
どこかで聞き覚えのある声が、脳髄を蝕んでいく。
「……! 離れろ!」
レヴィの声が遠くで聞こえる。
「んだよ、この『悪意』……いつの………………おい……どこに…………」
レニーの声が途切れ途切れに聞こえ、やがてふつりと途絶える。
私の意識は再び、混沌とした暗闇の中へと引き戻されていった。
***
「……おーい、大丈夫かい?」
「う、うーん……?」
身体を揺さぶられる感覚で、意識を取り戻す。
目を開けると、誰かと目が合った。黒い髪に、グリーンの瞳……見覚えがある……けど、レニー……じゃ、ない……?
私が目を擦っていると、青年は手を差し伸べてくれる。
よく見ると、アンドレアとは逆の方……右目の下に泣きぼくろがある。
「何はともあれ、無事に目が覚めてよかった」
青年はニコニコと笑って、私を助け起こした。
雰囲気がどことなく、アンドレアやレニーと似ている気もする。
「……ポール、知り合い?」
まだぼやけた視界に、人影がもう二つほど映る。
「いいや? でも、こんなに可憐なお嬢さんを放ってはおけないじゃないか」
「相変わらず色男だね……」
呆れたように、青年……ポールを呼んだ女性はため息をついた。こちらは焦げ茶色の髪で……なんというのか、落ち着いた雰囲気の女性だ。
「でも分かるぜ。かわいー女の子ってほっとけねぇよな。おっぱい大きかったらもっとほっとけねーし」
……と、もうひとつの影が口を開く。
こっちは金髪で、日に焼けた肌の……頭が悪そうな男。
「レオナルド、だったっけ」
茶髪の女性の方が口を開く。
「いい加減股ぐらを蹴り飛ばされたい?」
露骨に不機嫌そうに、女性は悪態をついた。わかる。下品すぎて私もぶっ飛ばしてやろうかと思った。
……辺りを見渡してみたけど、四人の姿以外は暗闇が広がっているばかりで、何も見えない。アンドレアどころか、レヴィやレニーの姿もない。いったい、何があったの……?
「ぼくはポール・トマ。こっちの女性はマノン・クラメール。それで、褪せた金髪の彼はレオナルド・ビアッツィというらしい。……さて、美しい亜麻色の髪のお嬢さん、きみの名前を聞かせてくれるかな」
後ろで結わえた私の髪を軽く触るような仕草をしつつ、黒髪の青年……ポールはウィンクをした。
あー、レニーもそうだったけど、キザだなぁ……。
「オリーヴ、だけど……」
「そう、オリーヴか。素敵な名前だね。きみにぴったりだ」
「ほんとに噂通りだね、ポール・トマ」
茶髪の女性は……マノン、だったかな。
彼女はポールの横でやれやれと首を振りつつ、苦笑している。
「学生時代の噂かい? 恋多き若者だった自覚はあるよ」
「どうせ、恋が多いのは現在進行形でしょう?」
……二人は知り合いどうし、なのかな。
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